「ガルー!」
 私が呼びかけるのと、ガルーが飛びかかってくるのは同時だった。
 ガルーは私の服を掴むと、必死に問いかける。

 「おい! 母さんが……母さんが死んだって、本当か!?」

 これは、どう言えばいいのかわからなくて困惑した。

 異能をコントロールできない未熟なガルーの精神が哀しみに包まれたら、本来ガルーを傷つけないはずのパイロキネシスの炎が大暴走して彼を貪り尽くすかもしれない。

 しかしガルーは私の表情から察してしまったらしい。

 受話器の奥から紅龍様の声が聞こえる。

 「逃げろ! 焼き殺されるぞ!」と。

 刹那、ガルーの肌が炎に包まれる。

 火炎に舐め尽くされる少年が最後にとった表情は、いつもの大人びた澄まし顔ではなく、親を探す小さな子供の泣き顔だった。

 その顔を何度も見た記憶がよぎる。

 大人びていて小生意気だけど、それは寂しさの裏返しだったのだ。

 彼はまだ、八歳の幼子なんだから。

 愛されたくて、寂しくて、仕方ない子供だ。

 だから、私は一瞬の迷いもなく、ガルーを抱きしめていた。
 肌や髪を焼く臭いが満ちる中、私はガルーの背中を叩く。

 「な、にを……!?」

 困惑するガルーに、私は何度も言い聞かせた。

 「大丈夫だから! 私は、あなたの傍にいるから! 一人じゃないから!」
 「手前なんか……ッ!」

 ガルーは必死に振り払おうとする。
 騒ぎを聞きつけたサングレとアリアも姿を見せて悲鳴をあげている。

 「う、うわぁああああ! シスター! ガルーくん!」
 「ぱいろきねしすが暴走しているのか!」

 事態を見た二人が部屋を飛び出していく。
 直ぐにサングレとアリアは水や消火器をもってきてくれた。
 そうやって皆が四苦八苦している間も、ガルーの小さな手は、ままならない炎を消そうと忙しなく動いている。

 それがいたたまれなくて、私は焼かれながら馬鹿みたいに同じことを繰り返していた。

 「泣いてもいい! 落ち込んでもいい! 後悔したっていいの! いくらでも傍にいてあげるから! 置いていかないから! でも、自分を傷つけるのは止めて!」
 「な……」
 「ガルーが自分を傷つけるのが、一番お母さんが悲しむと思うから!」
 「ッ……」
 「だから、お願い……ッッ!」

 どれだけ説得していただろう。

 途中から熱さを感じなくなってた。

 気づいたら私に縋りついて泣いているガルーと、水と消火器の中身まみれの私だけがその場に残されていた。
 声を押し殺して泣いていたガルーは、私が背中を撫でると、涙をぼろぼろ零している。

 「う、うぅ……うあぁぁあああああぁあああああああああああん!」
 「ガルー……」

 ガルーは私にしがみつき、痛々しいほどに泣きじゃくっていた。