言いかける男に私は悲鳴を上げて立ち上がる。

 「ギャー! それ以上はヤメテ! イヤらしいことする気なんでしょ! エロ同人誌みたいに! 私の本命は紅龍様なんだから! アンタなんかお呼びじゃないのよ!」
 「くそっ! 顔は良いのに中身は残念すぎるじゃねぇか!」

 ワケのわからん理由でキレられた!
 私は頭を抱えて殴打から逃げながら、酔っ払い男と言い争う。

 「そもそもアリアを大人の都合で振り回して、恥ずかしいと思わないの!」
 「うるせぇ!」
 「あの子、まだ七歳の子供なのよ! なのにアンタよりシッカリしてる良い子なんだから! アンタ何歳児よ! バーカアーホ!」
 「うるせぇ殺すぞクソアマ!」

 そう言って逃げ回りながら口喧嘩をしていると、小さな影が走ってきて酔っ払いと私の間に立ち塞がった。

 「やめろ!」

 見上げると、アリアが父親と私の間に割って入り、おもちゃの銃を構えていたのだ。

 「アリア! 隠れてなさいって言っ……」
 「シスター! 逃げろ!」
 「えっ……」

 小さな背中に問い返すと、アリアは肩を震わせながら答えた。

 「シスターだけ、だから……! わたしをまもろうとしてくれたのは、シスターだけだから!」

 アリアの普段の声量とは違う声に驚いた。
 けどアリアは精一杯の大人びた声音で父親に告げた。

 「わたしの異能は、だんがんを命中させることだ! そげきされたくなければ、かえれ!」

 そういえばアリアの能力は『悪魔の拳銃』と呼ばれる『弾丸を7発中、6発を当てたい場所に絶対に当てる(ただし、最後の一発は最も当たって欲しくない場所に当たる)』ものだった。

 しかしそれを見てもアリア父は嗤う。

 「ガキのオモチャで笑わせんじゃねぇ! アリア、お前は俺の言うことをきいておけばいいんだよ!」

 父親はそんなアリアに手を伸ばす。

 私は咄嗟にアリアを抱きかかえて庇った。

 「どけ! クソアマ! さっきからウゼェんだよ!」
 「!」

 父親の振り上げた酒瓶が私にぶつかる前に、動きが止まる。

 そこには、アリアの父親の腕を掴む紅龍様がいた。

 「なっ……? テメェ! 誰だ!」

 困惑するアリア父に紅龍様は額に青筋を浮かべながら口角を上げた。

 「……オマエ、ワタシのモノに手ぇ出そうとするとか、マジ良い度胸してるヨー」

 ドスの利いた声で告げる紅龍様に私はガッツポーズをする。

 よーし! 間に合った!

 ガルーに頼んだ通報先は、警察ではなく紅龍様だったのだ!
 このスラム街では警察が、ほとんど仕事してないからね!

 そんな紅龍様の台詞に私はハッとして告げる。