カーネスが働き始めてから、仕事が随分楽になった。
カーネスは物覚えが抜群に速く、計算も出来て、料理の名前を覚えるのも早かった。
最初は「野菜の汁」「魚焼いた奴」「葉と肉の卵ぐちゃぐちゃ」などと美味しさが半減どころか抜き取る料理の呼び方をしていたのに、ちゃんと「スープ」「ソテー」「キッシュ」と今ではしっかり覚えている。
調理の火力調整も完璧にやってのける。一瞬私いらないのでは、とも思ったけど、味付けが壊滅的に下手だった。ちょっと安心した。
でも、転移魔法が食い止められた訳じゃない。転生者などという異界のバカ共が、「ふぇんりる」だとか「セイジュウ」とかいう訳の分からない目付きの悪い大きい犬を連れてきて、その犬に馬鹿みたいに食べさせる為、行列は出来てしまうし、それを捌くのは大変だ。
それに、料理には洗い物がつきものだ。
カーネスは加熱殺菌は出来るけど洗浄ができない。洗う人間がいないのはやっぱり困る。
ここは水魔法がいい感じに使えて、意思疎通が可能で、距離感が死んでない、性格に難の無い人間を雇いたい。
「今日は仕事が終わったら街で水魔法に特化した人を探しに行きます」
数少ない休憩時間にカーネスにそう伝えると、カーネスは静かに私を睨みつけた。店長に向かってなんとも反抗的な態度である。
「俺がいらないってことですか?」
どんな理論?
「水魔法に特化した人だよ。カーネス火力係、炎魔法の人じゃん。一言も言ってないからねカーネスがいらないなんて。必要な人材だからねカーネスは。水場の係が欲しいって話」
「そうですかあ……へへ」
やや嬉しそうなカーネス。距離感もだけど情緒もおかしい。今だって私の右肩をえぐるように隣に座ってくる。
「近い」
「近くはないですよ」
哲学? それとも変な薬でもやってんの?
言い返したくなるけどこういう時のカーネスはもう手に負えないので、私は話を進める。
「水魔法に特化した人を連れて来て、洗い物お願いしたり、食材冷やしてもらったりしたいんだよ。川の水汲みから解放されたくない?」
「それは……そうですね。川辺で水汲みしてるとき……お姉さーん俺たちが手伝おうか? みたいな展開になって、報酬もなく水汲みしてもらえるなんて都合のいいこと考えてねえよな、そんな……お金なんて……払えるものあるじゃん、ほら……水を弾きそうな眩い店長の太腿に這う骨ばった手、決して豊かとは言えないお淑やかな胸が無遠慮にまさぐられていくなか俺は街で呑気に買い物をしていて──忘れ物をした俺は店長に魔法で連絡を取るわけですが、どうも店長の声が断続的にしか聞こえず、店長大丈夫ですか、か、カーネスッ何でもないの、なんでもないわけないだろみたいな感じで……」
「おい」
全部が最悪だ。何もかも。少年を追い詰めこんな風にしたハギの村の責任は重い。
私は呆れながらカーネスに妥協案を提示した。
「じゃあ、カーネスもどんな人か条件出していいよ。一緒に働く訳だし」
「幼女!」
「こっわ」
即答だった。幼児性愛者だ。殺したほうがいい奴の速度だった。
欲望に忠実な発言だ。完全に引いていると、カーネスは心外そうな顔で見てきた。
「なにが怖いんですか。あなたと寝泊まりするんですよ! 駄目です! 俺、本で読みました! はら……」
「それ以上言ったらもう二度と口を聞かない。大きな声で言える理由にして」
「店長に何も出来ない無力な幼女が一番」
どうしよう。すごい気持ち悪い。これを大声で言えると思ってるのも問題がある。ずっと気持ち悪さを更新し続けてくる。幼児性愛者とどっちがいいんだろう。どっちも捕まってほしい。少年をこんなにしたハギの村、罪が重いどころか滅んだほうがいい。
「いやどの口が言ってんの? 寝袋に潜り込んで距離感が死んでる火力係の誰が言ってんの?」
「俺はいいんです! いちゃらぶ派ですから! 無理矢理も女の子からじゃないと嫌なんですよ! 俺は全然勇気出なくて手が出せないけど、店長が……こんなに一緒に過ごしてるのに全然手出してこない……私のこと好きじゃないんだって誤解して無理やり身体で繋ぎ止められたい!」
「犯罪。私が捕まる」
「それか俺が寝てて、不意に目が覚めたときうっかり媚薬飲んだり催淫魔法かけられた店長が! ごめんなさいって謝りながら欲には抗えず俺は店長のなすがまま……」
「犯罪。ずっと私が有罪。それ以上言ったら解雇」
「……とにかく、男は駄目です! 変な従業員を連れてこないように、ずっと傍で監視してやりますからね!」
カーネスはどん、と自分の胸を叩き訴えてくる。元々カーネスは私を監視してるようなものだ。いつも隣を歩いているし、お手洗い以外は四六時中一緒に居る。
さらに、お手洗いに行ってくると言えば、普通について来ようとする。
危険なのはカーネスだと厳重に注意すれば「でも一緒にいてくれるんでしょう?」と嬉しそうにするわで手に負えない。いまさら監視されてもどうということはない。
何言ってんだカーネスは。
カーネスは物覚えが抜群に速く、計算も出来て、料理の名前を覚えるのも早かった。
最初は「野菜の汁」「魚焼いた奴」「葉と肉の卵ぐちゃぐちゃ」などと美味しさが半減どころか抜き取る料理の呼び方をしていたのに、ちゃんと「スープ」「ソテー」「キッシュ」と今ではしっかり覚えている。
調理の火力調整も完璧にやってのける。一瞬私いらないのでは、とも思ったけど、味付けが壊滅的に下手だった。ちょっと安心した。
でも、転移魔法が食い止められた訳じゃない。転生者などという異界のバカ共が、「ふぇんりる」だとか「セイジュウ」とかいう訳の分からない目付きの悪い大きい犬を連れてきて、その犬に馬鹿みたいに食べさせる為、行列は出来てしまうし、それを捌くのは大変だ。
それに、料理には洗い物がつきものだ。
カーネスは加熱殺菌は出来るけど洗浄ができない。洗う人間がいないのはやっぱり困る。
ここは水魔法がいい感じに使えて、意思疎通が可能で、距離感が死んでない、性格に難の無い人間を雇いたい。
「今日は仕事が終わったら街で水魔法に特化した人を探しに行きます」
数少ない休憩時間にカーネスにそう伝えると、カーネスは静かに私を睨みつけた。店長に向かってなんとも反抗的な態度である。
「俺がいらないってことですか?」
どんな理論?
「水魔法に特化した人だよ。カーネス火力係、炎魔法の人じゃん。一言も言ってないからねカーネスがいらないなんて。必要な人材だからねカーネスは。水場の係が欲しいって話」
「そうですかあ……へへ」
やや嬉しそうなカーネス。距離感もだけど情緒もおかしい。今だって私の右肩をえぐるように隣に座ってくる。
「近い」
「近くはないですよ」
哲学? それとも変な薬でもやってんの?
言い返したくなるけどこういう時のカーネスはもう手に負えないので、私は話を進める。
「水魔法に特化した人を連れて来て、洗い物お願いしたり、食材冷やしてもらったりしたいんだよ。川の水汲みから解放されたくない?」
「それは……そうですね。川辺で水汲みしてるとき……お姉さーん俺たちが手伝おうか? みたいな展開になって、報酬もなく水汲みしてもらえるなんて都合のいいこと考えてねえよな、そんな……お金なんて……払えるものあるじゃん、ほら……水を弾きそうな眩い店長の太腿に這う骨ばった手、決して豊かとは言えないお淑やかな胸が無遠慮にまさぐられていくなか俺は街で呑気に買い物をしていて──忘れ物をした俺は店長に魔法で連絡を取るわけですが、どうも店長の声が断続的にしか聞こえず、店長大丈夫ですか、か、カーネスッ何でもないの、なんでもないわけないだろみたいな感じで……」
「おい」
全部が最悪だ。何もかも。少年を追い詰めこんな風にしたハギの村の責任は重い。
私は呆れながらカーネスに妥協案を提示した。
「じゃあ、カーネスもどんな人か条件出していいよ。一緒に働く訳だし」
「幼女!」
「こっわ」
即答だった。幼児性愛者だ。殺したほうがいい奴の速度だった。
欲望に忠実な発言だ。完全に引いていると、カーネスは心外そうな顔で見てきた。
「なにが怖いんですか。あなたと寝泊まりするんですよ! 駄目です! 俺、本で読みました! はら……」
「それ以上言ったらもう二度と口を聞かない。大きな声で言える理由にして」
「店長に何も出来ない無力な幼女が一番」
どうしよう。すごい気持ち悪い。これを大声で言えると思ってるのも問題がある。ずっと気持ち悪さを更新し続けてくる。幼児性愛者とどっちがいいんだろう。どっちも捕まってほしい。少年をこんなにしたハギの村、罪が重いどころか滅んだほうがいい。
「いやどの口が言ってんの? 寝袋に潜り込んで距離感が死んでる火力係の誰が言ってんの?」
「俺はいいんです! いちゃらぶ派ですから! 無理矢理も女の子からじゃないと嫌なんですよ! 俺は全然勇気出なくて手が出せないけど、店長が……こんなに一緒に過ごしてるのに全然手出してこない……私のこと好きじゃないんだって誤解して無理やり身体で繋ぎ止められたい!」
「犯罪。私が捕まる」
「それか俺が寝てて、不意に目が覚めたときうっかり媚薬飲んだり催淫魔法かけられた店長が! ごめんなさいって謝りながら欲には抗えず俺は店長のなすがまま……」
「犯罪。ずっと私が有罪。それ以上言ったら解雇」
「……とにかく、男は駄目です! 変な従業員を連れてこないように、ずっと傍で監視してやりますからね!」
カーネスはどん、と自分の胸を叩き訴えてくる。元々カーネスは私を監視してるようなものだ。いつも隣を歩いているし、お手洗い以外は四六時中一緒に居る。
さらに、お手洗いに行ってくると言えば、普通について来ようとする。
危険なのはカーネスだと厳重に注意すれば「でも一緒にいてくれるんでしょう?」と嬉しそうにするわで手に負えない。いまさら監視されてもどうということはない。
何言ってんだカーネスは。



