闘技場での騒動から二週間後。
我が屋台は、前回と異なる様相に包まれていた。
「店長と俺が一緒に作った料理って、最早俺たちの子供といっても差し支えないんじゃないですか?」
「告訴します」
「ものすごく悲しいですが籍を入れてないことが機能しましたね。離婚裁判は出来ませんよ」
相変わらず、距離感が死んでるカーネスは私の右側にぴったりとくっついている。そのせいで常に生暖かいし、お客さんも若干引いている。
「いっぱいいるから、少し減ってもわかんないかな」
「わかるわかるわかるわかるわかるわかる」
「えぇ」
シェリーシャちゃんがお客さんに向けそうになっている指を慌てて確保すると、彼女は反省せずに笑う。
「今お客さん暴れたりとか何もしてませんでしたよねお客さん」
「だってあんまり多くてもクロエが大変になっちゃうもん」
「もんじゃないんですよ! それ物理的にですよね? 大変とかじゃなくて物理的に命をどうこうしようとしてますよね」
「だめなの?」
「絶対駄目に決まってるでしょう!」
シェリーシャちゃんに厳重注意をしていると、つん、と肩をつつかれる。振り返ればギルダがなにやら本を抱えて私の裾を掴んだ。
「どうしたの」
「クロエの聖典を作った屋台で頒布しようと思う」
「しないで、これお願い」
下処理前の芋の入った籠をギルダに渡す。まだしなくてもいいけど、やることがないと余計なことをし始める。下処理しておいてもらおう。
「わかった」
そう言って芋に魔法をかけ始めるギルダ。他の二人にも指示をするとカーネスも火力調整を始め、シェリーシャちゃんも食材を冷やし始める。それらを見て一息つくと、ローグさんがいつの間にか隣に立っていた。
「やあ、大変そうだね。そろそろおつりが危うくなって来たけどどうする?」
「あ、じゃあその下の籠から補充お願いします」
「分かった。あと、そろそろ世界滅ぼしたくなってない?」
何気なくローグさんに放り込まれた爆弾に戦慄する。出た。世界についての問いかけ。
「いや全然ないですけど」
「そう?」
返事をするとローグさんは不服そうに持ち場へ戻っていく。
本当に原因が何なのか分からないが、あれ以降ローグさんは定期的に私に世界情勢……というか、「世界滅ぼさない?」という世界滅亡のお誘いや、「世界分け合わない?」という世界分割のお誘いをしてくるようになった。
普通に狂ってると思うし、痛い。いかれてるとしか思えない。ローグさん、本当に初めは普通であったのに、どうしてこうなってしまったんだろうか。カーネスもシェリーシャさんもギルダも痛いのが治ってちょっと変な感じになったけど、まさか普通の人が痛くなる現象に見舞われるパターンと遭遇するとは思わなかった。
接客時は、本当に普通な分、私が痛さに慣れればいいだけなのかもしれないけれど、痛さに慣れたら終わりだと思うし、慣れきってもし痛い言動を繰り返すようになったら目も当てられない。怖い。
でもまぁ、そんなことくよくよ考えていられないわけだ。今日もクソ転移魔法のせいで、行列は形成されてきている。本当にそろそろ誰かに呪いかけてもらって、転移魔法使えないようにしてもらおう。
「今日も一日頑張らなきゃなあ……」
声に出すと、カーネス、シェリーシャさん、ギルダ、そしてローグさんがこっちを見て笑ってくる。私はしっかりと頷いて、調理を再開した。
我が屋台は、前回と異なる様相に包まれていた。
「店長と俺が一緒に作った料理って、最早俺たちの子供といっても差し支えないんじゃないですか?」
「告訴します」
「ものすごく悲しいですが籍を入れてないことが機能しましたね。離婚裁判は出来ませんよ」
相変わらず、距離感が死んでるカーネスは私の右側にぴったりとくっついている。そのせいで常に生暖かいし、お客さんも若干引いている。
「いっぱいいるから、少し減ってもわかんないかな」
「わかるわかるわかるわかるわかるわかる」
「えぇ」
シェリーシャちゃんがお客さんに向けそうになっている指を慌てて確保すると、彼女は反省せずに笑う。
「今お客さん暴れたりとか何もしてませんでしたよねお客さん」
「だってあんまり多くてもクロエが大変になっちゃうもん」
「もんじゃないんですよ! それ物理的にですよね? 大変とかじゃなくて物理的に命をどうこうしようとしてますよね」
「だめなの?」
「絶対駄目に決まってるでしょう!」
シェリーシャちゃんに厳重注意をしていると、つん、と肩をつつかれる。振り返ればギルダがなにやら本を抱えて私の裾を掴んだ。
「どうしたの」
「クロエの聖典を作った屋台で頒布しようと思う」
「しないで、これお願い」
下処理前の芋の入った籠をギルダに渡す。まだしなくてもいいけど、やることがないと余計なことをし始める。下処理しておいてもらおう。
「わかった」
そう言って芋に魔法をかけ始めるギルダ。他の二人にも指示をするとカーネスも火力調整を始め、シェリーシャちゃんも食材を冷やし始める。それらを見て一息つくと、ローグさんがいつの間にか隣に立っていた。
「やあ、大変そうだね。そろそろおつりが危うくなって来たけどどうする?」
「あ、じゃあその下の籠から補充お願いします」
「分かった。あと、そろそろ世界滅ぼしたくなってない?」
何気なくローグさんに放り込まれた爆弾に戦慄する。出た。世界についての問いかけ。
「いや全然ないですけど」
「そう?」
返事をするとローグさんは不服そうに持ち場へ戻っていく。
本当に原因が何なのか分からないが、あれ以降ローグさんは定期的に私に世界情勢……というか、「世界滅ぼさない?」という世界滅亡のお誘いや、「世界分け合わない?」という世界分割のお誘いをしてくるようになった。
普通に狂ってると思うし、痛い。いかれてるとしか思えない。ローグさん、本当に初めは普通であったのに、どうしてこうなってしまったんだろうか。カーネスもシェリーシャさんもギルダも痛いのが治ってちょっと変な感じになったけど、まさか普通の人が痛くなる現象に見舞われるパターンと遭遇するとは思わなかった。
接客時は、本当に普通な分、私が痛さに慣れればいいだけなのかもしれないけれど、痛さに慣れたら終わりだと思うし、慣れきってもし痛い言動を繰り返すようになったら目も当てられない。怖い。
でもまぁ、そんなことくよくよ考えていられないわけだ。今日もクソ転移魔法のせいで、行列は形成されてきている。本当にそろそろ誰かに呪いかけてもらって、転移魔法使えないようにしてもらおう。
「今日も一日頑張らなきゃなあ……」
声に出すと、カーネス、シェリーシャさん、ギルダ、そしてローグさんがこっちを見て笑ってくる。私はしっかりと頷いて、調理を再開した。



