「こんのうらぎりものああああああああああああああああああああああああああ!」

 私は、選手控室に戻ると絶叫した。四人のかつての従業員たち、そして現在は裏切者たちに向かって。

「負けようって言ったじゃん! 負けようって言ったじゃん! 何で!? どうして!? 勝っちゃったよ!?」
「考えていたのです。貴女に負けを授けてしまうのは、心もとないなと」
「何が!? 何が心もとないの!?」

 カーネスを問い詰める。

 するとシェリーシャさんが穏やかに微笑む。

「あんな脆い人間に私の認めた人の子が馬鹿にされるのはねえ」
「神は絶対であるべきだ。あんな存在に穢されるべきではない」

 シェリーシャさんにギルダが続く。呆然としているとローグさんが「それに」と口を開いた。

「敗北より勝利したほうが、民衆に認められるでしょう? 結果的にこちらの方が良かったのではないでしょうか」
「いや勝ち負けも、民衆なんてどうでもいいんです。くっそどうでもいいんですよ。サッと敗退して、サッと大会終わらせて、さささーっと店構えて、屋台成功させることが一番だったんですよ、他の人間なんてめちゃくちゃにどうでもいいんです! よ!」

 当たり散らしていくと、カーネス、シェリーシャさん、ギルダが顔を見合わせた後、柔らかい雰囲気を醸し出して来た。ふざけないでほしい。

「もう本当どうするの、二回戦進出だよ。どうすんの。今度こそ死ぬ! なぜなら私には! 魔力がないから! 赤ちゃんと一緒! なのに! どうしてこんな!」
「私たちにとっては魔力がある人間だって、塵と変わらないわ」
「だとしてもやっていいことと悪いことがあるでしょうがあああああああああああああああああ!」

 もう本当に辛い。何も考えたくない。控室にある椅子に腰かけ顔を伏せながら、「もう闘技場なんて潰れてしまえ……違法建築であれ……神様……」と呟く。

 すると、爆音が響いた。

「は?」

 ミシミシと音を立て、上から砂や土が降ってくる。地面が、揺れている。

「みんな、はやく、机の下に隠れて! はよ!」

 声をかけても四人はぼーっとしたままだ。

「バカバカバカバカ、こういう時ぼーっとするんじゃないの! 机の下! 頭打ったら死んじゃうでしょうが!」

 私は四人の腕を掴み、じゃがいもを転がすように机の下に転がしていく。

 全員詰め終わり私も同じように机の下に潜り込みしばらく待っていると、揺れが収まった。

「なに? 何か爆発した? 火事とかでどっか爆発した感じ? 扉開く?」


 私は早速扉のドアノブを掴み回そうとする。しかしびくともしない。

「それは私が」

 ギルダが手をかざし、扉を切り裂いた。

「ありがとうギルダ!」
「礼には及ばない」

 切り裂かれた扉から出ると、廊下が崩落していた。ところどころ火が出ている。

「ここは任せて」

 私の前にシェリーシャさんが立った。指を軽く振ると一瞬にして消火されていった。

「シェリーシャさんすごい」
「クロエが望むなら、ここを氷の神殿にしてあげようかしら」
「それは間に合ってます」

 さすがにそこまではいいと首を振ると、カーネスが目に見えてむくれていた。

「俺は一瞬にして火の海に出来ますよ」
「それ放火だから、落ち着いて。カーネスも気持ちだけでいいよ」
「俺は身体も捧げたいですけど」

 カーネスを無視してローグさんに目を向けると、彼は遠くを見て微笑んでいた。

「どうしました」
「いや、何か鳴き声が聴こえると思って」

 そう言って耳を澄ませると、確かに鳴き声が聴こえる。それも、何かとんでもなく大きい、化け物みたいな声が。

「まぁ気になるけど、さっさと逃げよう。今は避難優先だから。救出はその手の人がやります。私たち一般市民に出来ることは、そういう人を手間取らせないよう、自分で逃げることです」

 よし行くぞと出口目指して皆で走っていくと、さっきまで戦っていた試合会場の壁が完全に崩れ落ちていた。

 最早そこから出て行けそうな勢い。そこから外にでて、ギルダに飛ばしてもらうのがいいだろう。壁があった場所を抜けると、何だかとてつもなく黒い塊が中央に蠢いていた。

「マゾクノキンコウヲユルガスモノ……ユルサヌ……」

 ばりばりと黒い塊……真っ黒なドラゴンがこちらを睨みつけている。

 でも、何を言っているか良くわからない。

「魔族の均衡を揺るがすもの、許さないと言っています」
「魔族の均衡?」
「幹部を次々討伐していったので、それですね」
「完全に濡れ衣じゃないですか⁉」
「はは」

 ローグさんは薄ら笑いを浮かべた。これはもしや、てんこもり勇者が魔王軍の幹部を倒していて、そのてんこもりに勝った私に……向かってきた……。

 ドラゴンは空に向かって雄たけびを上げると、空から雷が落ちてきてドラゴンの周りから無数の黒い軍勢が現れた。

 人数の度合いがもう勝てる勝てないのレベルではない。

 早く逃げるべきだ。

「逃げよう、皆、ここにいたら死ぬ」
「あれくらいどうってことないですよ。ゴミみたいなものです。貴女の付き纏いより弱いですし」
「常連さんのこと付き纏いっていうのやめろ」
「じゃあ店長も所かまわずたらしこむのやめてくださいよ!」

 そう言って手をかざして火柱を次々と上げていくカーネス。

「少年に同意だ。貴女は無防備すぎる。精霊に幻獣にと、種族問わず信徒を集めるのは仕方ないことだが……狂信者は時に貴女に刃をむけるかもしれない。気を付けてほしい」

 ギルダが大きく跳躍し、軍勢に突っ込んでいく。するとギルダが飛び込んだ辺りの軍勢が、すぐに霧散した。

「それに、単純に面白くないわよね。貴女がほかのものに構ってばかりなのは」

 シェリーシャさんは気怠げに手を振ると、軍勢たちの足元に青い魔法陣が展開され、そこか矢を模した氷が降り注いでいき 次々に軍勢を消し去る。

 待ってこれ、私への不満暴露大会になってない?

「マダ、マダダマダダマダダ マダオマエラノクルシムコエヲキイテイナイ、オマエラノチニクヲクラッテイナイオマエラニイノチゴイヲサレテイナイ! オマエラヲジゴクニオトスマデ!! マケナイ!」

 そしてドラゴンは人語を話しているようだけど、何を言っているか分からない。

「まだ、まだだまだだまだだ、まだお前らの苦しむ声を聞いていない、お前らの血肉を食らっていない。お前らに命乞いをされていない、お前らを地獄に堕とすまで負けない、そうですよ」

 ローグさんが言う。前に感覚を支配できると言っていたけど、これなら変なお客さんが来た時、声を発さず対応できるのでは。

「ふふ、支配されているというのに、恐れないどころか利用しようとしてくるなんて。案外、人は見かけによらない、ということかな。普通に見えるのに、君は君で狂っているところがあるみたいだ」

 ローグさんは笑う。何がおかしいのか。抽象的すぎて本気で理解できない。駄目だ高度すぎる。馬鹿がバレる。っていうかもうバレてるかもしれない。薄々勘付いてるなら出来ればもう少し優しい説明が欲しい。

「退屈すぎて……いっそすべて終わらせてしまおうかと思っていたけれど……決めた。君の成し遂げることを、僕はそばで見届けることにするよ」

 そう言ってローグさんは手を空にかざす。すると崩落していたコロシアムの瓦礫が這うように集まっていき、強大な渦を描いたかと思えば、一瞬にして空にも届かんとするゴーレムが現れた。

 でも本当にゴーレムだろうか。ゴーレムのわりには体が黒いし、接客で出せない雰囲気がある。

「察しがいいね。ゴーレムじゃないよ。外界の神だ。すべてを深淵に堕とすモノ……そして、見た者すべてを狂わせる。ああ、安心して? 君の視覚を調整して、君が狂わないようにしてる」
「太陽直視しちゃいけない感じですか」
「ああ。それに近いね。君は愚かだと思っていたけど、部分的には察しがいい。好きだよ」
「どうも」

 何だろう、ローグさん、口調変わってない?

 ゴーレム操ってると性格変わるタイプなのだろうか。というかこれ、ゴーレムもどきか。

 巨大なゴーレムもどきはドラゴンの首を掴むと片手で締め上げ、もう片方の手で雑巾を絞るようにねじり上げていく。

 何か想像してた戦い方と全然違う。

 もっとかっこよく殴るとか蹴るのを想像してた。

 すごい残酷な気がするけど、周りを破壊しないようにって考えると、こういう戦い方になるのかもしれない。

 と思ったのも束の間、ゴーレムはねじり上げていた手を止めると、首を絞めながらドラゴンのお腹を拳でえぐり始めた。

 武闘家の訓練の道具扱いされてる!

「龍族は愚かだ。不死身だからと、おごりを持って生きているから。こちら側にとっては、龍族も何もかも、ただそこに在るだけだというのに」

 ローグさんは再度手をかざすと、ドラゴンの足元に黒い渦が現れた。

 ローグさんが指示をすると、ゴーレムもどきがドラゴンをその渦に押し付ける。ドラゴンは沼地に沈むように渦に飲み込まれていく。

「さようなら、暗い深淵の中で、永遠に覚めることのない悪夢をどうぞ」

 指揮棒を振う様にローグさんが片腕を振うと、ドラゴンは渦に飲み込まれていく、そしてやがてその渦も霧散した。

「なんですかローグさんあれは一体」
「まぁ、何でものみ込む穴かな。ゴミ箱みたいなものだよ」
「すっごいですねえ! ゴミ出しし放題じゃないですか!」

 ばしん、と興奮のあまりローグさんを叩く。便利だ。屋台で野営をすると当然ゴミが出てくる。カーネスに焼いてもらうけどやっぱり匂いは出るし、普通に臭い。

 でもローグさんがあの渦を出してくれれば、臭くないし捨て場所を気にしなくていい!

「ローグさん採用です! 採用! ローグさんが良ければですけど! よろしくお願いしますこれから!」

 見る感じ皆もローグさんと打ち解けていると言うか、ローグさんによって空気が変わる感じは無い。というかさっき、てんこもり勇者と戦っていたとき、私は裏切られていたけど、ローグさんと皆は結託していた。

 ゴーレム操ってる時は人格的にちょっとアレっぽいけど、普段は普通。社会に適合している。やっぱり絶対ほしい!

「本当にいいの?」

 私の熱意に引き気味になりながらもローグさんは苦笑する。

「当然です!」
「分かった。これからよろしくね」
「はい! ぜひ!」

 ローグさんの加入に喜んでいると、段々とドラゴンの登場で固まっていた観客たちが状況を把握しはじめてきたらしい。会場全体がざわめいている。

「じゃあ、帰ろうクロエ」
「え」

 ローグさんは気軽にそう言って笑う。いやでもすんなり帰っていいのこれは? なんか観客の人たちは、歓声上げてるし。

「大丈夫。ここで見たことは全て、忘れるさ。あのタイプのドラゴンは死ぬとき、周りの記憶を消してしまうんだ。あんまりここにいると闘技場を破壊した犯人に仕立て上げられてしまうよ? だから行こう……クロエ」

 急かすローグさん。確かに闘技場は半壊しているし、これを弁償するなんて普通に不可能。破壊したと疑われるだけでも危ない。いつの間にか他の皆も私の傍にいて、早く行こうと押してくる。

「じゃあ私も忘れるんですかね。何か勿体ないですね」

 とても勿体ない……と俯けば、カーネスやシェリーシャさん、ギルダ、そしてローグさんが足を止めた。

「もったいない?」
「裏切られたけど……何か皆わりと生き生きしてて、すごいなーと思ったから。何か勿体ないなと思って。すごいかっこいい劇みたいだったし」

 そういうと、ローグさんは優しく笑った。今回の返答はバカみたいな返しじゃなかったらしい。

「まぁ、きっと大丈夫だよ。僕たちがいたところは、ドラゴンの記憶消去が届かない範囲だ。だから覚えているだろう、今も」
「なるほど、便利ですねえ!」

 ならいいかと闘技場の出入り口の方に向かっていく。

 するとローグさんは振り返り、観客席に向かってぐるりと、手をかざすような動作をする。一瞬に空が紫色に瞬いた。

「今のは?」
「ちょっとゴーレムの瓦礫、邪魔にならないところに置いておいたんだ」
「そうなんですね。確かに沢山積まれてたら驚きますもんね」
「うん。後にうるさく纏わりついて、邪魔になったら、面倒だからね」

 そう言って笑うローグさんは微笑む。その笑みは、接客用ではなく自然な笑みだった。
「はーあ、お疲れー!」

 街を出て、テントを設置し乾杯をする。今日は慰労会だ。主に闘技場でのお疲れ様会と、ローグさん歓迎記念をかねて。

 正直大会での従業員たちの大裏切りは許せないけど、よくわからない竜の対処は皆がいないと出来なかった。

「ふふふ、お揃いですよ! じゃーん!」

 カーネスが私の前に立つ。カーネスが私にくれた魔法石の装飾品と同じものを身に着けていた。

「何魔法石作るの楽しくなった? 屋台で売る?」
「売りません! これは貴女専用です! そして俺自身も貴女のものです。おっそろーい」
「返す」
「だあめ! です!」

 こちらにすり寄るカーネス。でも今日は裏切られたと言えどお世話になったし、無下にもできない。

「おや抵抗しない……? これはもしや相思相愛? いちゃら……」
「今日はお世話になったから! ……ありがとう、今日」
「はい、幸せにします。俺子供は何人でもいいです。いなくてもいいです。貴女さえいればいいので、今夜は、ゆっくりしましょうね」

 目をとろけさせながら唇を突きだす狂人の頭を押さえながら、他の皆の方を見る。

「シェリーシャさん、ギルダ、ローグさんも、今日ありがとう」

 一人ひとりの目を見て感謝の気持ちを伝えると、皆は穏やかに微笑んだ。

 なんだか、一人で屋台をやっていたころと比べ、随分賑やかになった。

 はじめは雇われることに限界を感じた私が人を雇うとは一体、とか考えてたけど、案外なんとかなった。

 カーネスは変態で狂ってるけど頑張りやだし、シェリーシャさんは倫理観狂ってるけど素直だし、ギルダはたまに狂ったこと言うけど誠実だし。

 ローグさんは私含め、至らぬ皆の隙間を埋めるごとく、社会に適合してる。

 何だかじんわり目頭が熱くなってきた。

「ごめんちょっと手洗い行ってくる」
「俺お世話しましょうか!?」
「するな」

 カーネスをさおえ、テントから離れる。そのまま軽く散歩でもするかと伸びをすると、何者かに肩を叩かれた。

「ギャッ」

 振り返ると、ローグさんが立っている。完全に衝撃で涙が引っ込んだ。完全に恐怖を主題とした演劇のおばけの出方だった。すごいびっくりした。

「ど、どうしました、お手洗い……?」

 驚きのあまり恐る恐る尋ねてしまう。

 いやこれで「お手洗い」って答えられても「あ、そうですか」しか答えられないし、なんかカーネスがいつも私にやってくるいやがらせみたいじゃないだろうか。しくじった。

「ううん、君と少し話がしたいと思って」

 目を細めるローグさん。思えば闘技場の一件があってから、口調が砕けただけじゃなく、その雰囲気も変わったような気がする。なんだろう。

 みんなに慣れてきた、ということだろうか。この短期間であんな劇物の煮凝り三人衆に慣れるなんて、さすが社会性社交性共に問題のない人間は違う。やれ異世界人が「チート」「レベルカンスト」と、もてはやされているけど、彼は完全に社会性カンスト社交性チートだ。

「うん、君は世界が欲しくない?」

 ……世界が、欲しくない? とは?

「……は?」
「君が欲しいって言ったら、すぐにでも手に入るよ、皆で分けあうのも楽しいかもしれないねえ」

 けらけらと笑うローグさんは、楽しそうにしているけれど、限りなく突拍子もないことを言っている。

「いっそ滅ぼして、新しい世界を作ってみる? 創造主になってさ」

 うん、これは夢だ。それか酔っているに違いない。酒は人を狂わせる。そしてローグさんは今酒に狂わされているのだ。

 ローグさんお酒飲んでたっけ……?

「創造主、とは」
「世界は巡りがある。人間の血脈と変わらない。ほら、人間の血の中にはいくつもの細胞が絶え間なく移動しているだろう。宇宙の惑星で例えることもできるね。あれと同じように、世界はぐるぐると巡っているんだよ。時の流れに合わせて、世界戦の流れに合わせて。でも、細胞や惑星が寿命を迎えるように、世界も失われる。でも細胞が消えれば新しい細胞が生み出されるように、世界も生み出される。そうしたとき、一から世界を作るのは時間がかかってしまうよね。だから、物語の力を借りることもあるんだ。君の世界にもあるだろう。こんな世界で過ごしてみたいと思う物語が。あるんだよ。実際。まぁ、異世界人で言うとコピーにあたるかな。ゲームや漫画、小説の世界、そしてそこで暮らす人間たちを生み出し世界の一つとして加えるんだ。でも、何事も生み出すのには力がいる。君たちが栄養を欲するのと同じように。そして世界は互いに栄養を分配しあってる。その過程で、人を飛ばす。人ほど、繋がりに長けた種はない。適度に弱くて、適度に儚い。だから、たびたび転生や転移が起きるんだ。動物が突然飛んでいくことは稀だろう? 異界のアリなんて見たことがないはずだ。ようは世界の均衡を保つため、転移や転生が起きている。転移はそうした世界の仕組みに近づいている世界や国が、自らの困難に打ち勝つため仕組みを利用していることも多々あるけど、転生はたいてい、輪廻を使用してのものだ。死者の命を、よそにもっていく。転移は相手の生活がある以上、あまり推奨されていないから。さらに……世界の仕組みに近づいている世界や国が、いわゆるこうして魔法文化が発達している場所では、時間に干渉できる天才が出てきてしまったりする。でも本来、それらは推奨されてないし、時間遡行なんてされると、まぁ大変だ。異世界でたとえるなら交通渋滞や逆走が起きる。事故が起きるだろう。だから、時間を巻き戻したりして、交通渋滞や逆走の緩和を起こすんだ。その過程で、色々世界戦の分岐が起きる。たとえば、乙女ゲームのサイドストーリーとか? そういうのを、手配したり管理するのが世界を管理する創造主たちなんだけど、人手不足だからね、適宜人材を募集してるんだ」

 あらまぁ思想が途方もないことに。世界は巡りがあるしか分からなかった。巡りはあると思う。暖かくなったり寒くなったりするんだから。

「えっと、ローグさん、酔ってますよね……?」
「全く。君が世界をどうしたいのか、決まったら教えて? 君の思うまま選んでいいから」

 ローグさんは私に微笑みかけると、テントへと戻っていく。

 私は彼を見送りながら、愕然とした。

 冷や汗が止まらない。今まで、社会不適合っぽいメンバーばかり集まってる気はしてた。けれどローグさんが来て、まぁ大体つり合いが取れてまともになったと思った。

 平均的には。

 いわば狂気3、私とローグさんの正気2で、狂気と正気の比率は半々。

 でも、どうしよう。確実にローグさん、従業員たちのアレさに浸食され、染まってしまった。過半数狂気だ。