「俺はこの武闘大会に出場し、数多の猛者と戦って、そして魔王を打ち倒す! 混沌とした世界を、俺が終わらせる。」

 冒険者の衣装に身を包んだ男が、この街で一番有名とされている食堂の、最も目立つ中央の座席で杯をあおっている。毛先が少し肩にかかる黒髪に黒目、黒を基調とした冒険者服。周りには彼とより少し若い、年上、そして同世代くらいの女性3人。

 一目で分かる。異世界人だ。それも、チートだのスキルだのを持った、神に祝福されてる典型的な異世界人。

 どんなに修練を重ねた騎士団長も、軍を容易く屠る龍も叶わない、強い武器も加護も使役している動物も色々てんこもりの恵まれ人種。

「終わらせてくれないかな大会ごと」

 私は食堂の隅の席から冒険者を一瞥した後、机に顔を突っ伏した。

 闘技場で身に覚えのない選手登録について知った後、何度も、「登録した覚えは無い」「というか今この街に入ったばかりだから、誰かの悪戯のはず」「それか名前間違えてる」と訴えた。

 しかしおじさんは、「闘技場はトーナメント制ですので、敗退後すみやかに出店できるよう手配しておきます」と、訳の分からない配慮をしたあと、「辞退も可能ですが辞退金のお支払いをお願いさせていただくことになりますがよろしいですか」と、よろしいわけがない金額の請求書を出してきた。

 休憩時、自分で飲み物やお菓子を作っているけど、もう何もかもやっていられない気持ちになり、みんなを連れ食堂に入り──そこで大会の参加者を目撃し、今に至る。

 というかもう、店の中は大会の参加者しかいない。

「絶対死ぬじゃん。無理じゃんもう最悪だよ。辞退金って何あれ、罰金じゃん! 頭おかしいの……?」
「遊び半分の申請や、取り消しがされないようにですね。不戦勝の多い試合が起きてしまっては、大会の威厳にかかわるので」
「不戦勝なんて早々起きなくない? 大会の収益芳しくないからそこで帳尻合わせようとしてない?」
「どうでしょうね」

 私の言葉にローグさんは苦笑をする。辛い。目の前に置かれたこの街で最も美味しいと言われる食堂の料理を食べる。美味しい。

 異世界で有名な「お子様ランチ」という料理らしい。小さな「ハンバーグ」「エビフライ」「チキンライス」が同じ皿に盛り付けられている。

 異世界人判別方法あるある、揚げ芋のことを「ポテト」と呼ぶ、料理が何品か一度にまとめて出される様式を「セット」、それを昼に格安で出すことを「ランチセット」と呼ぶ、なんて前に常連客と言い合ってたな……と現実逃避をし、改めて私は皆に向き直った。

「とにかくここは一回戦敗退を狙う」
「敗退? クロエは負けたいの?」
「そうだよ、一回戦敗退を狙う。そして店を開く。っていってもどうせ勝てないしね。」

 シェリーシャさんは私の言葉に首を傾げた。どうせ勝てない試合。ならば一回戦即時敗退を決めて一儲けの夢を見るしかない。

「あー怪我したくない。治癒魔法とか馬鹿みたいに高くつくし」
「私には治癒魔法を施すよう手配してくれたけれど?」

 シェリーシャさんは首をかしげる。彼女を奴隷商人から泥棒したあと、治癒士に診てもらい、ひととおり検査もしてもらった。栄養失調とされ他は問題なしだったけど、それとこれとはわけが違う。

「だってそうしなきゃ危ないじゃないですか、不衛生な環境に居たんだから当然です。でも今回は違うじゃないですか。怪我したら終わりですよ」
「大丈夫、クロエは怪我なんてしないわ」

 シェリーシャさんは笑みを浮かべる。魔力がないのだから怪我しないわけがない。魔法でズタズタにされて終わりだ。そして大会で怪我をした場合の費用は自己責任。自分を犠牲に強力な魔法を使われても困るから、らしい。

「怪我するに決まってるじゃないですか。あぁ〜もう自分で転んで昏倒しましたって感じに出来ないかなあ」

 本当に憂鬱だ。今すぐ闘技場の建築基準が実は危ないなんて分かって、大会中止になって欲しい。

「本当に負けるんですか?」

 カーネスが真面目に聞いてくる。正気なカーネス、あまりにも久しぶりでちょっと戸惑った。

「当たり前じゃん、っていうか勝てないし。私魔法使えないからね。剣とか買っても秒で折られるから買う意味ないし」

 拳で戦う時も、剣で戦う時も弓で戦う時も、いかなる戦いにおいて、人はその武器に魔力を込め、攻撃力や防御力、いわゆる耐久性を上げるのだ。

 そのため、魔力が豊富であれば剣も武器も防具も必要がない。それこそ化け物じみた魔力があれば、服なし全裸で氷山日帰り登山、火山の溶岩の中で水泳ならぬ溶泳も可能だ。

 一方、私が巨万の富をはたいて剣を買ったところで、普通に赤ちゃんの哺乳瓶のほうが丈夫だし、防具だって紙と同じだ。

 赤ちゃんに変な気起こされたら、秒殺される。生まれつき人権が無い。

「なら、対戦相手のあの子を痛めつけておく? ある程度弱らせておけば、クロエ主導で戦って、そのまま抜けられるんじゃないかしら」

 そう言って、シェリーシャさんは中央座席の冒険者を見る。

「え」
「一回戦、クロエと戦うのはあの男だ」

 ギルダが男を見据える。

 え、あのてんこもり異世界人が、私の相手?

「あの男、名前はユウヤと言う」

 完全だ。異世界人確定。重傷確定。

「っていうかギルダ……なんで知ってるの?」

「無宗教の冒険者の顔と名前は一通り頭の中に入れているからな」
「な、なぜ」
「貴女を敬い共に貴女の教えを広める同胞を、随時探しているんだ。ああ、心配しないでほしい。活動を営業時間に行う気はない。営業時間は従業員として働き、私的な時間に、私は信徒としての活動を行う」

 心配しかない。私は思わず絶句した。

「ちなみにあの男は入店から一度もクロエを視界に入れていない。神々しいあまりならば合格だが、そうでなければ信徒として不適合だ。さらに店員の女性の胸を、俯くふりをして見る習性がある。入信により邪悪な心の持ち方を清めるかもしれないが、どうだろうか。ああ、クロエの神力や、哀れな道化を導く采配を疑うわけではないぞ」
「いや神力とかないし哀れな道化も導けないよ」

 どこから否定していいか分からない。そしてカーネスが胸という単語に反応し「店長を見る前に焼きましょうか」と立ち上がろうとする。もう駄目だ。全部駄目。カーネスを押さえていると、冒険者御用達革靴の音が聞こえてきた。これは……、

「お、君が一回戦の対戦相手か! 俺の名はユウヤ! ってトーナメント表を見て分かってるよな、クロエ! よろしく」

 そう言って、てんこもり冒険者がやってきて、手を差し出してきた。

「ああ、どうも、よろしくお願いします」

 握手をしようとすると、カーネスが「あ、接触厳禁なので」と、私の前に立とうとした。

「カーネス、やめて」
「何でですか? なにした手か分からないんですよ?」
「さっきまで食べてたんだから綺麗でしょ」
「分からないですよ。食事後に手洗い行って今こいつ自分の席に戻る途中だったんですよ。なにした手か分からない」
「洗ってるだろうし行く前より綺麗でしょ」
「綺麗だとしてもですよ。そういう性癖の可能性あるじゃないですか。へへ、俺二分前は……みたいな性癖の可能性往々にしてあるじゃないですかむしろその性癖じゃないことを証明する方法なんてどこにもなくないですか⁉」

 耳元でひっそり言ってくるけど量が量で疲れる。もう相手にしないほうがいいと呆れていれば、ふいにてんこもり冒険者がこちらをじっと見渡していた。

「炎、水、風、そして……土? そして君自身の魔法適性は……分からないな。それにしても随分、ふふ、面白い偽装スキルだ。いくら何でも……ふふ丸わかりじゃないか! ぜ、ゼロだなんて……」

 てんこもり冒険者が私の魔力なし扱いのステータスを見ているらしい。分かりやすく馬鹿にするな。気を使ってほしい。怪訝な顔をすると、彼は半笑いを微笑みに昇華させてきた。
 
「ああ、失礼。僕は普段、魔王を倒す勇者として活動していてね。君はいつも何をしてるの?」

 まるで「僕普段慈善活動の団体に参加してるんだ」とでも言うように、平然と勇者を自称してきた。普通に怖い。この世界に魔王がいて、絵本では魔王と戦うのは勇者、みたいな感じになっているけど、勇者は別に国であれこれ定められた試験に合格するとか、実績を認められたりして認定してもらうものではない。

 だから勇者はいくらでも名乗れる。魔王や魔物と戦いたければ普通に冒険者の肩書で十分だし、固定給がほしければ国に仕えればいい。ゆえにわざわざ「勇者です」と名乗るのは普通に怖い人だ。


「料理人です」
「料理人? ああ、退役軍人かなにかかな」
「いえ、戦いは一切……」

 嘘をつけば経歴詐称。

 正直に否定すれば自称勇者様が、訝し気な目をこちらに向けた。

「こんなに属性に溢れた仲間を連れているのに料理人なんてもったいないな、冒険者になればいいのに」
「ハハハ」

 私は愛想笑いをする。こういうこと、よくある。冒険者至上主義。強くないと冒険者になれない。お金を稼ぐならば冒険者になるのが一番。

 だから、冒険者になれないことは可哀そう。

 みんな普通に頑張って生きてるだけなのに、ほかの人から勝手に哀れみの目を向けられて、楽しいこと幸せなことを、自覚ない気遣いでうっすら、否定される。

 私は私で幸せだけど、この人の世界の中ではもうだめなんだろうな。

 まぁ、見てるものも何もかも違うし。

 少しだけ感傷に浸っていると、なんだか寒気がして振り返る。

 カーネスもシェリーシャさんもギルダも、ユウヤを見ていた。冷ややかでも、怒りを示すわけでもなく、普通の目。感情が一切、読めない。

 だからこそ、恐怖を感じた。このままだと絶対何かする。

「まぁ、大会ではお手柔らかに頼むよ。料理人は腕が命だろ? 気を付けるから。俺もまぁ、最もしなければいけないことは魔王の討伐だからね。肩慣らし程度でいきたいし」
「本当にお願いします。骨が折れただけで治癒魔法、打撲料金から倍に跳ね上がるので」

 私はさっていく自称勇者様を見送りながら、従業員三名の進行方向をさえぎるようにして、接客用の笑顔を浮かべた。

  大会の参加者は、近隣の宿に参加者の関係者含め無償で宿泊できる。怪我前提で宿に泊まるのか、怪我をせず野営か、どちらが得だろう。

 そんなことを考えながら夜道を散歩し、何となく近くの切り株に腰を下ろす。

 宿には「温泉」があり、色々効果効能をうたっていたけど、男子の時間、女子の時間の区分があり、今は男子の時間だ。今頃カーネスが入っているだろう。というか温泉どこにあるんだろう。地図を見ずに散歩に出てしまった。温泉の匂いはするから、もしかしたら結構近くにあるのかもしれない──、

「あーあ、店長と入りたいなぁ! 混浴だったら良かったのに」

 あるな近くに。カーネスの声が聞こえる。しかもわりとはっきり。

「クロエさん……?」

 移動すべく立ち上がると、丁度後ろにローグさんが立っていた。

「あれ、ローグさんお風呂は……今男湯の時間では」
「店長の護衛をと思って」

 そう言ってローグさんは私の隣にあった切り株に座った。あれ、切り株は二つもあったっけ……? 一つじゃなかったっけ……? 何か余計頭がぼーっとしてきた。

「クロエさん。少し私とお話してくれませんか?」
「え、あぁ、はい」

 答えると、ぼーっとしていた感覚が、ふわふわするような、とても心地のいい感覚に変わっていく。ローグさんは私をじっと見つめた後、口を開いた。

「……クロエさんは、この世界に生まれ落ちた邪神の話をご存知ですか」
「邪神……? ああ、絵本とかに出てますよね。魔物とも私たち生き物とか、神様とも違う第三勢力、みたいな感じで」

 この世界には、聖なる感じの勢力と、闇の勢力があって、邪神はどこにも属さない、属せないらしい。理由は簡単、二つの勢力を食べたり出来るからだ。

 でも、あくまで空想の存在だ。

「まぁ、そうですね。はい」

 私の答えがあまり良くなかったらしい。ローグさんは少しひきつった笑みを浮かべ、薪をくべる。

「クロエさんは邪神についてどう思われますか」
「え……すごく、強いとか?」
「まぁ、そうですね。はい」

 やはり私の答えがあまり良くなかったらしい。ローグさんは先ほどと同じ相槌だった。
「邪神は、文字通り神なのです。当然強大な力を持っている。そして何より彼らの恐ろしいところは人の身を持っているということなのですよ」
「はぁ」
「恐ろしいでしょう? もしかしたら今貴女の隣にいるかもしれないんですよ。もしかしたら僕がそうかもしれない」
「だとしたら、安心じゃないですか」
「え」

 ローグさんが眉間にしわをよせた。

「どうして安心なんて言えるんですか?」
「だって……全裸で話通じるおじさんと、服着て話通じないおじさんだったら、全裸のおじさんのほうがいいから」
「……まぁ、そうですね。はい」

 私の答えはとうとうどうにもならない領域にまで達しているらしい。ローグさんは顔を背け頷いている。というか、ローグさんは何でこんな邪神について熱く語っているんだろう。

「……カーネスという少年、シェリーシャ、ギルダと名乗る女性……どう見ても使用できる魔力がおかしいと思いませんか」
「ああ、そうなんですよね。それ私も思ってました。無制限にいけるよとか言ってますけど絶対大嘘なんですよね。だから休憩取らせるようにしてるんですよ。私が魔法使えてたらステータス! とかかっこよく唱えて大嘘暴いてやるつもりだったんですけど」
「……まぁ、そうですね。はい」

 私駄目かもしれない。ローグさんの求めている答えからことごとく外れたことを言っていることだけは分かるけど、どう返事をしていいか全くわからない。

「……もし彼らが邪神であったらどうします」
「どうもしませんよ」
「邪神はすべてを食らう存在なのに?」
「まぁ、絵本ではそんな感じにのってますけど、実際どうか分からなくないですか?」
「え?」
「そもそも第三勢力なら、こう、どちらにもつかない、第三者としての立ち位置なわけで、対立する二つを繋げる存在になる可能性もあるわけじゃないですか。だから、まぁ……邪神は恐ろしいもの、と判断するのもよくないというか、それでもし邪神だった場合……あの三人だったら……まぁ、どうなんでしょうね、というか」

 もしカーネスたちが邪神であったら。

 対立する聖なる感じの種族と闇の種族の懸け橋になれそうだけど、それ以前に私は反乱を起こされるだろう。

 給料が安い。こき使いすぎ、野宿させるな。

 思いつく沸点はいくらでもある。

 でも神と名がつくのであれば、もう少しかしこい気がする。だって──、

「今からでも、辞退なさったらいかがですか」
「どういう意味だ?」
「バカにした料理人に屈するさまを観客に見られたい性癖でもない限り、完全敗北が目に見えてる試合に参加するのはバカだって言いたいんですよ」

 どうやらカーネスが自称勇者に喧嘩を売っているらしい。買われたら困る。異世界人の冒険者に喧嘩を売って現地人が勝ったところを見たことがない。

「ハッ、矮小な子供が何を言っているのやら」

 自称勇者が鼻で笑った。良かった。喧嘩を買う気はないらしい。本当に良かった。異世界人はあらゆる「チート?」がてんこもりだから、カーネスは勝てない。

「矮小な子供?」

 聞き捨てならないと言った調子でカーネスが聞き返す。本当にやめてほしい。喧嘩を売るな、と外から祈るが男湯の時間のため止められないし、外から声をかけるのも犯罪だから出来ない。

「どっちの意味ですか」
「どちらでもだ。世間を知らないという意味でもな。まだ自分の殻を破らず、大海を知らぬ未熟な子供に心配される道理などない」

 ふっ、と自称勇者は笑う。

 聞いたことある笑い声だ。よく氷属性の魔法を使う、あんまり笑わない騎士がそういう笑い方をしている。だからか婚約者の令嬢がいたりすると「自分の前ではあまり楽しそうじゃない」と、不安そうにしているのを目にする。「絶対好きですよ」と励ます。何百回励ましたか分からず、途中で自称賢者からもらった「お互いの想いがないと効かないが想いがあった場合効果絶大のご都合媚薬」でもあげようかと思ったけど、自主的になんとかなり、この春に無事、結婚していた。

 結婚式用のケーキ作るの、大変だったな。

 思い返していれば、カーネスが「くだらないですね」と、冷ややかに一蹴する声が聞こえてきた。

「贈り物、たいていは包装しますよね? 紙で包んであったり、箱に入ってる。だからこそ、その包みをむいた瞬間に、心がときめく。むき出しのまま渡されても、ねえ」
「あ?」
「まだ理解できませんか? ようするに、大切なものは守られているべきなんですよ。大切な人の手に届くその瞬間まで」

 カーネスはあたかも哲学を論ずるように話す。でも、全単語、なんの問題もないはずなのに、ものすごく嫌な予感がしてならない。

「そして大切な人に、暴かれるわけです。至らない中身かもしれませんけど、それでも受け入れてもらえたらそんなに幸せなことはない。それに……ふふ」
「……それに、なんだ」
「上位、優位な立場を喜ぶ人間は多いですが、ねぇ、見上げることで得られる幸福もありますから。まぁ、物理的に見下ろして? でも精神的には主導権を握られ……ふっ……これ駄目だな駄目かもしれない……はは、はは、ふふっ」

 カーネスが途中で笑い出した。

「まぁ、突き詰めて言えば、優位に立たれているのが一番なんですよ。それに、俺にはどんなに恵まれたスキルでも決してかなわない特権があるんですよ……私がいっぱい教えてあげるね、一緒に頑張ろ、あはは、かわいいとか、言ってもらえる。自然と主導権を相手にゆだねることが出来るんです。その特権を俺は持ってる。生まれつきね? 異世界人の言葉で言えば、まさにレディーファーストだ。これをギフトと呼ばずになんと呼ぶのでしょう? 勇者様?」
「ぐ……」

 喧嘩に発展する前に、終わってほしいと思ったやり取りだけど、普通になんか、邪悪なやり取りな気がしてきた。私はローグさんに止めてもらうかと、彼に振り返る。

「……そろそろ、眠りましょうか」

 ローグさんは関わりたくないらしい。やはり、良くないやり取りなのだろう。

 私はそっと切り株から立ち上がる。するとふっと身体が軽くなったような感覚がした。めっちゃ眠い。さっさと寝よ。

「ローグさん……」

 おやすみなさいと声をかけようとすれば、さっきまで隣にいたローグさんの姿が消えていた。もしかしたら止めに行ってくれたのかもしれない。私はお礼を言わなければと思いつつ、自分の部屋に戻った。