「接客担当を雇おうと思う」
営業終了後、人気の無さそうな森に入りテントを立てたところで、私は皆に言った。
「半分くらい客燃やします? そうしたら今までの半分の量になりますよ」
「静かにして」
野宿の準備をしながら、カーネスが明るい調子で声をかけてくる。カーネスに疲労の概念は無いのか。
「あの、一生に六百度くらいのお願いなので、声出しちゃだめだからね……って上目遣いで言ってくれません?」
私はカーネスを無視した。無視は良くないけど許してほしい。
「もういっそ、店を開かず討伐に専念するのはどうかしら」
「駄目だ天啓に聞こえる」
シェリーシャさんの殺意衝動による思考すら、救いに感じてきた。落ち着かないと。
「すまない、私は何も思いつかない……」
「ありがとう、ギルダ。一人くらい平和主義がいないと収集つかないからね。そのままでいて」
「女神の御心のままに」
最後の一言を聞かなければ、安心だった。女神ままごとさえしなければ、ギルダは一番まともだけどその「さえしなければ」の部分があまりに濃い。
「でも、どうして接客担当が欲しいの? 魔法はいらないのに」
シェリーシャさんが聞いてくる。確かにその通りだった。接客に魔法はいらない。魔法で運ぶにせよ、店を構えているわけでもないから、客席はそう多くない。持ち帰りのお客さんも多い。接客ももちろん大切だけど、拡充を考えるなら調理だ。でも、
「損害賠償がものすごく多いんだわ」
カーネス、シェリーシャさん、ギルダ。
三人とも、客を殺しかける接客しかしない。
たまに普通に接客するときもあるけど、子供とお年寄りに対してだけだ。ゆりかごから墓場までではなく、ゆりかごと墓場のみ正常な接客になる。
あとはもう、戦闘になり周囲に迷惑をかけお金で解決をして結果赤字だ。だから、接客担当がほしい。魔法は、三人を止められればなんでもいい。どんな属性でも。
しかし、三人はいい顔をしない。「え……」と嫌そうにこちらを見ている。
「なに」
「普通の人間をご希望なら無理だと思いますよ」
「そうね。耐えられないと思うわ」
「二人に同意する。客とも合わないだろう」
自称化け物設定で勝手なことを言ってくるけど、普通の人間相手の商売をしているのだから普通の人間でいいんだ。最近は「もふもふ」が流行り、もふついた接客係が流行っているけど、ただ普通に何かあったときお客様を攻撃しないだけでいい。
「すみませーん、今お時間って空いてますか?」
「すみません、お店もう閉めちゃったんですよ」
人影は、落ち着いた雰囲気を持った、私より二歳か三歳くらい年上の青年だった。
見るからに「信頼にたる人物です」という雰囲気をまとっている。優しそうで、子供やお年寄りに好かれそう。
とはいえ、もうお店は閉めてしまった。残り物もないし、近くに町もある。そちらはまだ開いているはずだ。
「近くにお店があるので……」
「あ、違います。ここじゃなきゃダメで」
「え……?」
「ここで、働きたいんです」
青年はにこやかにそう言った。



