私はどこへ行っても、異端だった。

 ここから遥か遠くの大陸、代々騎士団長を輩出する家系の中で、私は生まれた。

 強さは優秀さの証拠、尊ばれる家柄であってもなお、私の強さに家族全員が恐怖した。

 兄たち、父、師の心を殺したからだ。誰も私に勝てなかった。訓練をするたびに、相手は私を恐れ、戦う相手が消えていく。

 騎士団の入団が早まり、戦いに身を投じる環境に身を置くことになって、何か変わると思っていた。

 何も変わらなかった。

 私の強さにかなう人間はいない。どこにもいない。魔力も剣技も何もかも。戦う以上、一方的な試合になる。そうした中で、戦争が始まった。

 出征前の情報では、我が国が優勢だと聞いていた。

 しかしひとたび戦場に赴けば聞いていた状況とは全く異なっていた。

 我が軍は、壊滅的だった。相手の国は事前情報よりずっと性能のいい武器を手に、同盟国とともに戦いに身を投じていた。私の部隊が到着した段階で、ほかの部隊には戦える人間なんて数人程度、何とか怪我人が治療を受け、治癒士たちが戦いながら治療の場を守っているような惨状だった。

 だから、皆私の率いる部隊を見た時、希望だと言ってくれた。

 最後の救いだと。

 その顔を見て、私を恐怖しない人間の表情を見るのは久しぶりで、私は何とか守らなければいけないと思った。

 たとえこの身に代えてでも。皆を守りたかった。

 私は戦った。懸命に。この髪が、身が赤黒く染まってもなお、握った剣を動かすことをやめなかった。そして戦況は一変した。

 当然だ。全てを切り裂き、そしてどんなに切り裂かれても死なない兵士が居れば、どんな軍勢を相手にしても、武力なんて無いも同然。

 切りつけても切りつけても死なない化け物に勝てる人間なんて、いるわけがない。

 戦が終わって、国の脅威になったのは他ならぬ私だった。

 皆、私を恐れている。

 国があるのは、私の強さあってのもの。

 でもこれから先一生、私に恐怖し続けなければいけないのか。

 民の苦悩を間近で垣間見た私は、国を出た。

 

 放浪の旅といえば聞こえがいいかもしれないが、一人になれる場所。人に触れぬ場所を探した。そして辿り着いたのがあの洞窟。

 あの洞窟での生活は辛くない。魔物が出ては切って、その繰り返し、いつか朽ち果てるのを待つだけ。でも、誰も私にかなうことはない。

 それでもいつか、私に勝つ魔物が現れるかもしれない。

 化け物を殺すには、化け物が一番──、

「あのさ」

 私の話に、クロエが重々しい顔つきで口を開く。

 気が付けばいつの間にか空には満月が浮かんでいた。あれから、私はクロエ率いるパーティーに合流することになり、歓迎会を開いてもらった。夜も更けてきたころ勧められるがまま酒を飲み、身の上話をしてしまったが、とうとう怖がらせてしまったようだ。

 話をすべきではなかったと反省する。

「祖国、恩知らずすぎない? で、ギルダも結論早すぎじゃない? 世を捨てすぎじゃない?」

 クロエが眉間に皺を寄せながらこちらに問いかける。私はどう反応していいか分からず、ただ杯を握りしめたままクロエの顔を見つめていた。