「もう、終わりだ」

 何度計算し直しても赤字になり、収益がゼロどころかマイナスになる帳簿を前に、頭を抱える。

 お金が無い。ものすごくお金が無い。このままいけば、間違いなく破産する。

「転移魔法さえ、存在しなければ……!」

 帳簿を握りしめて、歯を食いしばる。言葉通りこの破産は、転移魔法が原因だ。

 転移魔法。

 私が最も苦手とするものである。勿論私は使えない。使う人が苦手、というか存在が苦手だ。

 けれど今はもう、嫌いになって来た。憎い。転移魔法が憎い。使ってる人間も憎いし、これを生み出した先人も憎い。故郷の村を気まぐれに焼かれたくらい憎い。

 この魔法は言わずもがな、遠方からの移動が瞬時に出来るというものである。列車や馬車は必要ない。場所を指定して、呪文を言って、飛んでくる。だから離れた恋人と一瞬にして会えるし、病人の元へ医者がすぐに駆けつけることが出来る。

 つまり移動時間を短縮どころか、消すことが出来るのだ。

 その為、「あの屋台今隣町にいるから買いに行けないなー」とか、「今から行っても店じまいして間に合わないなー」ということが存在しない。

 転移魔法により瞬時にかけつけてくるお客様。捌く私は一人であり、そして無能。使えるのは私の身体だけ。

 それにより生みだされる、大行列。

 店が繁盛することはいいのだ。本当に感謝している。

 しかし転移魔法でぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん飛んでくるせいで、どんなに下準備をしようとも、おびただしい行列が出来てしまう。

 魔法を使うには魔力を消費する。転移魔法においてその消費量は距離に比例し、本来はそう何度も転移できない。

 なのに、「チート持ち」だの「外れスキル持ち」のほか、忌々しい前世の記憶持ちや異世界からきた異世界人、お荷物だの役立たずを自称する現地人たちは、何かズルをしているらしく何処に行っても瞬時に店にやってくる。毎日毎日毎日だ。追放されてしまえばいいのに。

 特に異世界人は何でか知らないけれど王族に追われてたり、厄介ごとまで持ってくる。そして厄介なお客様を持ち帰ってくれない。最悪である。

 転移魔法により瞬時にかけつけてくるお客様。捌く私は一人であり、そして無能ということで使えるのは私の身体だけ。

 それにより生みだされる、大行列。

 店が繁盛することはいい。お客様には本当に感謝している。けれど夥しい行列により訪れた町全体に迷惑がかかり、結果的に街や近隣の店から営業妨害をしていると訴えられ、迷惑料などのお金を払ううちに赤字になるのだ。

 売っても売っても終わらない。

 しかし一向に出ない利益。

 増える赤字。

 最早店を開く行為自体が赤字を生む原因だ。食料を提供しているだけの店と同じ。それもありかもしれないが、屋台を維持するのにも食材を買うのにもお金がいる。先立つものはお金、それ以外に無い。

 深刻過ぎる人手不足。間違いなくこのまま誰か雇わなければ、終わる。

「魔力がある人を雇うしかない……」

 人の店で働くことに限界を感じた私が人を雇うなんて本末転倒だが、このままだといずれ借金をすることになり、借金地獄に陥る。

「あ、うちの娘、借金地獄に陥っているんですよね、ははは」なんて家族に言わせる訳にはいかない。

 炎の魔術が得意な人に火力系の仕事をお願いして、水の魔術が得意な人に洗浄の仕事をお願いしよう。

 あと野菜の皮の処理とか、刻んだりできるような人とか、魔法で物を運ぶのが得意な人とかも欲しいから四人くらい雇おう。

 流石に四人くらいいれば、きっと転移魔法があっても大行列にはならないはずだ。それで駄目なら、すごい魔導士の人にお願いして、屋台の周りは転移できない呪いでもかけてもらおう。

 そう考えて町を巡りながら優秀な人材を探すと、普通にさくさく見つかった。欲しかった人材はすぐ全員揃った。

 能力は完璧、性格に大問題のある四人が。