私、クロエ・ノウルリーブは、どうしようもなく無能だ。
それは、別に勉強が全くできないわけでも、運動が全くできないわけでもない。基本的に、私の全能力は平均よりちょっと下だ。「この無能が!」と罵られるほどでもない。
しかしどうしようもなく私は無能だ。手の施しようがないくらいに。
それは、私が生まれ育ったこの国が、魔法の国であるからに他ならない。
私の産まれた王国ユグランティスでは、国民全員が魔力を保持し、平民だろうが貴族だろうが全員少なからず魔力を持っている。というか、さも、ユグランティスだけは国民全員魔力持ってます! みたいな言い方をしてしまったけれど、今まで出会ったどんな国の人も、大なり小なり魔力は持っていた。
森の外れの方では、魔力を持つ獣──魔獣とかが出て、強大な魔力を持つ魔王とかもいるらしい。さらにそれを倒すため、勇者とかもいるらしい。
全部「とか」「らしい」なのは劇とか絵本でしか見た事がないからだ。
私は生まれつき、びっくりするくらい魔力が無い
少ない、ちょっとしかない、わずかしかないではなく本当に無い。無である。無。
ちなみに私の家の血筋は国有数の魔力の高さを誇る血族であり、兄弟姉妹も絶大な魔力を持ち産まれた。
しかし私には魔力というものが体内に存在していなかったのである。
普通ならここで魔力が無いことで虐げられたり、冷遇されるものだと思う。
よそでも「お前本当にあの家の子供かよ」みたいな、そんな感じの扱いを受ける。「成り上がり」とか、「役立たず」とか「不遇」とか「外れスキル」と題名に入っている物語で無限に読んだ。
でも現実では、魔力があまりに無いと、異質すぎるあまり虐げられない。腫れものとして扱われるどころか待遇は良くなる。
魔力というものは、いわば全身を保護する鎧の様なもの。赤子でも魔力は少なからずある。
国民全員(私以外)が魔法によって人々が生活する国で、前代未聞の魔力の無い私。
どんなに血筋がよく高潔で血を重んじる血族でも、全裸の赤子を攻撃できない。
というわけで私は、特に虐げられることも冷遇されることも無く、むしろかなり過保護に育てられた。自他ともに手厳しいと評判の兄も姉、弟や妹も、「ここまで魔力無いって何……? 大丈夫なの……?」と手厚く扱ってくれていた。
しかし、私は十歳の時、自分が魔力の無さゆえ学校に通えないことを知ったのである。
本来この国では、十二歳になると魔法の使い方を学ぶ為、全寮制の魔法学校に通う。
でも、魔力が無く魔法が使えない私は、学校に通えない。それに危ない。そこらへんで魔法による事故が起きた時、真っ先に死ぬ。真っ先に死ぬ存在がそばにいる状態で授業を受けるのは、他の生徒に悪影響だ。
そして就職するとき、魔法学校の卒業が必須となる場合が多い。というかほぼ全部だ。
私はこのままいけば、一族の面汚しになる。いやもう既になっている。兄弟姉妹は屋敷に友人を連れてこないし、ずっと家にいていいと言う。ようするに私は、何処に出しても恥ずかしい存在だった。
どうしたらいいか考え、閃いた。
料理人になればいいのだと。
料理。
どんな魔力がある人間も、お腹がすく。朝昼晩毎日三食食べるし、何なら間食だってする。私と同じ。人間の身体は食事をとり栄養を取らなければ生きられないようになっている。ならばその食に関する仕事をすれば、困ることはない。
それにどんな人間も少なからず魔力を持っているということは、少ない魔力しかない人間もいる。
むしろ魔法を使わないで生きている人間だっているはずだ。
街には人がいっぱいいる。街の料理屋でなら、魔力が無くても料理が出来れば働けるかもしれない。
そう考えた私は、それから料理の勉強を始め、ついでに屋敷を出る準備も開始。十八歳の春、家を出た。
「この家の名に恥じないような存在になりたいと思います。探さないでください」
と部屋に書置きを残して。
それから本格的に街の料理屋で下っ端として働きはじめ、私は知ったのだ。
街ではどんな料理人も魔法を使って料理をすると。
火をつけるのも、皿を洗うのも何もかも魔法を使う。「私は生まれつき魔力が少なくてへへへ」と誤魔化して雇ってもらい働けたものの、「少なくてへへへ」にも限界がある、
就労七日目に人の店で働くより自分の店を出した方がいいという結論に至った。
しかしさすがにすぐ店を出す資金力は無く、二年間血のにじむような嘘と誤魔化しをして働き、土地代不要の移動式屋台と魔法で料理をする演技(ものすごくうまい)を得た。
移動式屋台で料理屋を営めば、客引きしながら売ることが出来る。
持ち歩いて食べられるようにすれば配膳の必要は無い。一人で出来る。色んな町を巡って、様々な料理を知りながら腕も上げられる。
それに魔力が無いことが知られてもすぐに逃げられる。
そう思って移動式屋台を営み三か月、私の思惑は崩壊した。忌々しき転移魔法によって。
それは、別に勉強が全くできないわけでも、運動が全くできないわけでもない。基本的に、私の全能力は平均よりちょっと下だ。「この無能が!」と罵られるほどでもない。
しかしどうしようもなく私は無能だ。手の施しようがないくらいに。
それは、私が生まれ育ったこの国が、魔法の国であるからに他ならない。
私の産まれた王国ユグランティスでは、国民全員が魔力を保持し、平民だろうが貴族だろうが全員少なからず魔力を持っている。というか、さも、ユグランティスだけは国民全員魔力持ってます! みたいな言い方をしてしまったけれど、今まで出会ったどんな国の人も、大なり小なり魔力は持っていた。
森の外れの方では、魔力を持つ獣──魔獣とかが出て、強大な魔力を持つ魔王とかもいるらしい。さらにそれを倒すため、勇者とかもいるらしい。
全部「とか」「らしい」なのは劇とか絵本でしか見た事がないからだ。
私は生まれつき、びっくりするくらい魔力が無い
少ない、ちょっとしかない、わずかしかないではなく本当に無い。無である。無。
ちなみに私の家の血筋は国有数の魔力の高さを誇る血族であり、兄弟姉妹も絶大な魔力を持ち産まれた。
しかし私には魔力というものが体内に存在していなかったのである。
普通ならここで魔力が無いことで虐げられたり、冷遇されるものだと思う。
よそでも「お前本当にあの家の子供かよ」みたいな、そんな感じの扱いを受ける。「成り上がり」とか、「役立たず」とか「不遇」とか「外れスキル」と題名に入っている物語で無限に読んだ。
でも現実では、魔力があまりに無いと、異質すぎるあまり虐げられない。腫れものとして扱われるどころか待遇は良くなる。
魔力というものは、いわば全身を保護する鎧の様なもの。赤子でも魔力は少なからずある。
国民全員(私以外)が魔法によって人々が生活する国で、前代未聞の魔力の無い私。
どんなに血筋がよく高潔で血を重んじる血族でも、全裸の赤子を攻撃できない。
というわけで私は、特に虐げられることも冷遇されることも無く、むしろかなり過保護に育てられた。自他ともに手厳しいと評判の兄も姉、弟や妹も、「ここまで魔力無いって何……? 大丈夫なの……?」と手厚く扱ってくれていた。
しかし、私は十歳の時、自分が魔力の無さゆえ学校に通えないことを知ったのである。
本来この国では、十二歳になると魔法の使い方を学ぶ為、全寮制の魔法学校に通う。
でも、魔力が無く魔法が使えない私は、学校に通えない。それに危ない。そこらへんで魔法による事故が起きた時、真っ先に死ぬ。真っ先に死ぬ存在がそばにいる状態で授業を受けるのは、他の生徒に悪影響だ。
そして就職するとき、魔法学校の卒業が必須となる場合が多い。というかほぼ全部だ。
私はこのままいけば、一族の面汚しになる。いやもう既になっている。兄弟姉妹は屋敷に友人を連れてこないし、ずっと家にいていいと言う。ようするに私は、何処に出しても恥ずかしい存在だった。
どうしたらいいか考え、閃いた。
料理人になればいいのだと。
料理。
どんな魔力がある人間も、お腹がすく。朝昼晩毎日三食食べるし、何なら間食だってする。私と同じ。人間の身体は食事をとり栄養を取らなければ生きられないようになっている。ならばその食に関する仕事をすれば、困ることはない。
それにどんな人間も少なからず魔力を持っているということは、少ない魔力しかない人間もいる。
むしろ魔法を使わないで生きている人間だっているはずだ。
街には人がいっぱいいる。街の料理屋でなら、魔力が無くても料理が出来れば働けるかもしれない。
そう考えた私は、それから料理の勉強を始め、ついでに屋敷を出る準備も開始。十八歳の春、家を出た。
「この家の名に恥じないような存在になりたいと思います。探さないでください」
と部屋に書置きを残して。
それから本格的に街の料理屋で下っ端として働きはじめ、私は知ったのだ。
街ではどんな料理人も魔法を使って料理をすると。
火をつけるのも、皿を洗うのも何もかも魔法を使う。「私は生まれつき魔力が少なくてへへへ」と誤魔化して雇ってもらい働けたものの、「少なくてへへへ」にも限界がある、
就労七日目に人の店で働くより自分の店を出した方がいいという結論に至った。
しかしさすがにすぐ店を出す資金力は無く、二年間血のにじむような嘘と誤魔化しをして働き、土地代不要の移動式屋台と魔法で料理をする演技(ものすごくうまい)を得た。
移動式屋台で料理屋を営めば、客引きしながら売ることが出来る。
持ち歩いて食べられるようにすれば配膳の必要は無い。一人で出来る。色んな町を巡って、様々な料理を知りながら腕も上げられる。
それに魔力が無いことが知られてもすぐに逃げられる。
そう思って移動式屋台を営み三か月、私の思惑は崩壊した。忌々しき転移魔法によって。



