消えない声が響く夜に

 


 彼女の声が変わった。明るく無邪気な声は突然消え、代わりに冷静で落ち着いた声が響く。


「君、こんなところで何をしているんだ?」


 その声は僕の知らない彼女だった。戸惑いを隠せず問いかけられる僕に、彼女は黙って視線をそらす。


 彼女は「俺はここにいるけど、君が求める彼女とは今話せないね」と続けて呟く。

 心の中にぽっかりと穴が開いたようだった。誰を愛しているのかが、分からなくなる感覚。けれど、その混乱の中で一つだけ確かなことがあった。


「……どの君も、僕は愛している」

 驚いたように目を見開く。そして、彼女はようやく小さな声で言った。


「どの子も、全く違う人なんだけどね。でも、あの子の事を大事に思ってやってくれてありがとう」

 その夜から彼女の呼吸はゆっくりと落ち着きを取り戻した。