数年後、帝国には疫病が蔓延した。身分を問わず平等に人々が罹患していったそれは、歴史書によれば、過去にも蔓延したものであったが、その治療法は不明であった。帝国には腕利きの薬師はおらず、その資料もなく、また薬草庫もなかった。
皇帝は、帝国中の医師を集めよとの勅命を出したが、間もなく病死した。帝国は混乱に陥り、エーヴァルト皇子もやがて床に伏し、「クラリッサを連れてこい」と喚き続けていた。
そんな中、ある辺境伯領の騎士団が帝都に入り、薬と食料を配給した。これにより、蔓延していた病はあっという間に終息の兆しをみせ始めた。それにもかかわらず、ただ王宮にだけ、薬が届かなかった。
阿鼻叫喚の図を作っていた王宮に現れたのは、例の薬を配り歩いた騎士の主の、辺境伯だった。
「私に帝国を譲ることを条件に、この薬を差し上げましょう。いかがですか?」
命あっての物種、なにより、皇族はこの混乱を収束させる力を持たず、それどころか帝国を混乱へ陥れた元凶そのものであり、病に苦しむ者をよそに莫大な財を糧に自分らだけ生き延びようと手練手管を尽くしていたと反感を買いすぎた。既に、現皇家を支持する者など誰もいなかった。
エーヴァルト皇子はなすすべなく、その年、その地位を辺境伯へ譲り渡した。
辺境伯領は、その領主が辺境伯令息──現皇家の次男坊すなわち公爵令息となったこと以外、何も変わらずにいる。



