その二日後のことだった。

 いつまでもユリウスがやってこない。その日のぶんの薬を用意し終え、いつも以上に耳を澄ませ、堪えきれずに何度も窓の外を見て、それでもユリウスはやってこなかった。そのうちカスパーがやってきて薬を受け取り、あれやこれやと世間話をして夕方になってしまって、それでも来なかった。

「そういえば、王国側の間者が見つかったと大騒ぎだったなあ」
「……間者ですか?」

 そうか、ユリウスはその対応に追われてしまっているのか。クラリッサは納得しかけたが「昨日の話だがね、なんでもその間者が王国兵を招き入れたって」既に戦火を交えたかのような報告に、ゾッと背筋を震わせた。

「王国とはずいぶん長い間緊張関係にあるからなあ、いつ起きても不思議じゃなかったが……ああリサ、大丈夫、そう心配することはないよ」

 クラリッサが顔を青くしていたからか、カスパーはすぐにいつもの調子に戻った。

「ほら、あの騎士団長の」
「ユリウス様?」
「そう、騎士団長様が捕えたそうだ。だから心配することはなかろうよ」

 そう……か……。頷こうとしたが、安堵は胸に閊えてしまった。なにか得体の知れない不安が胸を襲っている。

 まさか。いや、大丈夫だ。ユリウスはもうすぐやってくるはず。いま感じている恐怖は、ただの勘違いか、妄想か……。

 カッカッカッと蹄の音が聞こえ始めたのはそのときだった。勢いよく振り向いた扉の向こう側からは、急くような音が聞こえてくる。ユリウスの馬ではない、気がするが……いやいつもより足が速いから別の音に聞こえるのか……。

 その足音が止まるか止まらないかのうちに、小屋の扉が勢いよく開け放たれた。

「リサ様!」

 ユリウスではない。そう気付いたクラリッサの前に現れたのは、ローマンだった。

 そのローマン、その片腕を首から三角巾で吊り、顔面にも痛々しいほどの怪我をしていた。それでもなお分かるほど、その顔には焦燥が露わになっている。

「どう……ユリウス様、は……」
「騎士団長が負傷なさったのです!」

 状況を訊ねる前に、彼はすがりつくように、ぼろきれのようなクラリッサの服の裾を掴んだ。その目には恐怖と――期待が映っており、クラリッサは瞬時に理解した。

「リサ様は、本当は聖女なのでしょう?」

 きっと彼は、あの日の皇子とのやりとりを聞いてしまったのだ。そしてきっとユリウスは――。

「どうか、騎士団長を救ってください」