ぼくらは群青を探している

「……三国」携帯電話から耳を離した雲雀くんが小声で「そこのドクターコーヒーの窓側に座ってる連中を見てくれ。俺らと同い|年(タメ)くらいの男2人」

 雲雀くんに言われたところを見ると窓側の席に向かい合って男子が2人座っていた。取り立てて派手というわけでもない茶色い髪と装飾品、それでいて地味で真面目そうとは言えない制服の着こなし。さっきのいまで形容するのも馬鹿みたいかもしれないけれど、いわゆるありふれた高校生2人だ。

「アイツら、昴夜のほう見てないか?」
「……見てる」
「多分美人局だな。アイツら、あの女子と別れてから店入ったから」

 雲雀くんの観察眼に舌を巻いた。道行く人々の中で、その3人組に目をつけていたということだ。私は何も気が付かなかったのに。

「……よく見てたね」
「あの手の連中は挙動が怪しいからすぐ分かる」雲雀くんはカメラを取り出しながら「何ってわけじゃないけど。遊んでる男女3人組じゃねーなってのは分かるもんだよ」

 そんな目で見ようとなんて思っていなかったし、そんな目で見たところで私に分かったとも思えなかった。

「(じゃー中学同じじゃん。見たことないなー)」
「(中学の時チビだったから。久しぶりに会ったらよく言われる、誰だよお前って)」

 携帯電話の向こうからは桜井くんと相手の女子との会話が絶えず聞こえてくる。意外と桜井くんは上手くやっているらしい……。

「三国、こっち立って」
「え、あ、うん」

 雲雀くんは私を自分の前に立たせると「悪いな、隠してくれ」と私の腕と体の隙間に押し込むようにして――拍子にドキリと心臓が跳ねた――カメラのレンズを桜井くん達に向けた。

「ケータイ、貸してくれ」
「あ、うん……」

 15センチ定規が間に入るか入らないかくらいの距離。通り過ぎる人が「高校生カップルだ、かわいー」と話しているのが聞こえた。私達のことかは分からなかったけれど、私達のことだとしても不思議ではないくらい、雲雀くんとの距離は近かった。

 雲雀くんが携帯電話を受け取ってくれてよかった。きっと、いまの私は桜井くんの声を集中して聞ける有様にはない。

 私と違ってちゃんと桜井くんの会話に集中している雲雀くんは、携帯電話を耳に押し当てたまま「……当たりだな」と小さく頷いた。

「録音されるとか思ってないんだろ、普通に情報垂れ流しだ」
「……これ私の手柄じゃなくて雲雀くんと桜井くんの手柄だよね」
「考えたのは三国だろ。……昴夜が立った。三国、そのまま」

 つい振り向くと雲雀くんに注意されたので向き直った。雲雀くんは私と違って絶えず桜井くんの様子を見て、そして聞いている。

「……切れた」

 雲雀くんは眉間に皺を寄せながら携帯電話を胸元まで下ろした。「通話終了」と表示されている画面には、暫くして「新着メール1件」と表示される。桜井くん以外の可能性があるからか、雲雀くんは一度携帯電話を返してくれた。

「……桜井くんからメール。『つつ』だって」
「打つの早いんだから美人局まで打てよ。ま、そういうわけだな。一応|尾行する(つける)か」

 雲雀くんは少し視線を動かしたから、きっとドクターコーヒーの2人組の様子を確認したのだろう。それに気づいて私も視線を向けたけれど「三国、行くぞ」雲雀くんに腕を引っ張られてすぐに視線を外す羽目になった。さっきから右往左往してしまっている……。

 私と違い、雲雀くんは特に焦るわけでもなく、落ち着いて桜井くん達の後を追う。桜井くんと問題の女子は、のんびりと繁華街の人混みの中に紛れて歩いていた。