「してないよ、こう、弟みたいだなって思ってるだけで。そういえばね、この間うちに来たとき、桜井くんピアノを子守唄に寝ちゃって」
「アメイジング・グレイスを歌ってたっていうあれ?」
「うん。桜井くん、バイト明けだったんだよね。アメイジング・グレイスの後にカノン弾いてたんだけど、その途中で寝ちゃって」
「アイツ犬っころみたいな寝方するよな。広くても丸まって」
「犬っころ……確かにそうかも」
おばあちゃんが昔飼っていた雑種犬を思い出す。確かに冬になるといつも丸まって寝ていて、くしゃくしゃの毛玉が転がっているようだった。桜井くんが寝ている姿の写真を引っ張り出して並べてみると、確かに近い。
「……桜井くん、よく寝るの? 雲雀くんがそうやって見るくらい」
「ああ、アイツ家の鍵開けて寝てるから」
「……不用心」
「それこそ牧落とか勝手に入ってんだろ」
牧落さんは最近よく6組に遊びに来る。特に桜井くんと雲雀くんが群青のメンバーとなってから、その頻度は増した。理由はきっと桜井くんが夜不在にする日が多くなったせいだ。
「牧落さんって桜井くんと幼馴染なんだよね? 蛍さんも言ってたけど、ご飯持ってきたりする仲なんだ」
「いや別に、そんなんじゃねーよ。あれは最近の話。家には来てたけど飯は全然」
「そうなの?」
「そうだよ。昴夜も言ってたけど、もともと牧落の家は親が厳しいからな、あんまり昴夜の家に入り浸ってたら怒られるんだろ」
「ロミオとジュリエットみたい」
「そんな大げさなもんじゃねーだろ。……来たかもな」
雲雀くんの声で桜井くんへと視線を向ける。携帯電話片手に座り込んでいる桜井くんに高校生くらいの女子が話しかけている。今度は1人だ。
「美人局の人ってどんな人なんだっけ」
「黒髪ってことしか分からん。あー、でも顔は、まあ、近い気もする」
さすがにその美人局の女子の顔や名前までは分かっていない。ヒントは例の中津くんの動画だけで、いわく一瞬だけ顔が写っているのだそうだ。私は中津くんの動画を見ていないので、そこは雲雀くん頼りだ。
桜井くんとその女子が話している様子を見ていると、私の携帯電話に着信が入る。雲雀くんの携帯電話からなので、桜井くんからだ。美人局に出会ったときは携帯電話を通じて会話内容を聞く手筈になっていたので、慌てて耳に押し当てる。こちらの音はあまり拾われないよう、マイク部分を指で塞いだ。
「(じゃあ俺と一緒? 俺も友達と待ち合わせてたんだけどブチられちゃって)」
桜井くんの声は聞こえるけれど、周囲の雑踏と混ざって少し聞こえにくい。眉間に皺を寄せていると――不意に頬に雲雀くんの髪が触れた。
「えっ」驚いて携帯電話を耳から離すと、雲雀くんは「しーっ」と口の前に人差し指を立てて、携帯電話を私の耳に押し戻す。そしてそのままそっと自分の耳を携帯電話の外側から押し当てた。
どうやら雲雀くんも会話内容を聞きたかったらしい。ああ、なんだそんなことか……と少し驚いている心臓を押さえた。急に距離が近くなるから何かと思った。
「(いいじゃん、一緒に遊びにいこー)」
「(おねーさん高校生? 俺年上は2コまでだよ)」
雲雀くんと肩同士が触れ合う。その触れ合った部分から伝わってくる熱のせいで気が散って、ケータイから聞こえてくる音声に集中できなかった。ただ……おそらく今のところ、美人局と断定できそうな発言はない。
「アメイジング・グレイスを歌ってたっていうあれ?」
「うん。桜井くん、バイト明けだったんだよね。アメイジング・グレイスの後にカノン弾いてたんだけど、その途中で寝ちゃって」
「アイツ犬っころみたいな寝方するよな。広くても丸まって」
「犬っころ……確かにそうかも」
おばあちゃんが昔飼っていた雑種犬を思い出す。確かに冬になるといつも丸まって寝ていて、くしゃくしゃの毛玉が転がっているようだった。桜井くんが寝ている姿の写真を引っ張り出して並べてみると、確かに近い。
「……桜井くん、よく寝るの? 雲雀くんがそうやって見るくらい」
「ああ、アイツ家の鍵開けて寝てるから」
「……不用心」
「それこそ牧落とか勝手に入ってんだろ」
牧落さんは最近よく6組に遊びに来る。特に桜井くんと雲雀くんが群青のメンバーとなってから、その頻度は増した。理由はきっと桜井くんが夜不在にする日が多くなったせいだ。
「牧落さんって桜井くんと幼馴染なんだよね? 蛍さんも言ってたけど、ご飯持ってきたりする仲なんだ」
「いや別に、そんなんじゃねーよ。あれは最近の話。家には来てたけど飯は全然」
「そうなの?」
「そうだよ。昴夜も言ってたけど、もともと牧落の家は親が厳しいからな、あんまり昴夜の家に入り浸ってたら怒られるんだろ」
「ロミオとジュリエットみたい」
「そんな大げさなもんじゃねーだろ。……来たかもな」
雲雀くんの声で桜井くんへと視線を向ける。携帯電話片手に座り込んでいる桜井くんに高校生くらいの女子が話しかけている。今度は1人だ。
「美人局の人ってどんな人なんだっけ」
「黒髪ってことしか分からん。あー、でも顔は、まあ、近い気もする」
さすがにその美人局の女子の顔や名前までは分かっていない。ヒントは例の中津くんの動画だけで、いわく一瞬だけ顔が写っているのだそうだ。私は中津くんの動画を見ていないので、そこは雲雀くん頼りだ。
桜井くんとその女子が話している様子を見ていると、私の携帯電話に着信が入る。雲雀くんの携帯電話からなので、桜井くんからだ。美人局に出会ったときは携帯電話を通じて会話内容を聞く手筈になっていたので、慌てて耳に押し当てる。こちらの音はあまり拾われないよう、マイク部分を指で塞いだ。
「(じゃあ俺と一緒? 俺も友達と待ち合わせてたんだけどブチられちゃって)」
桜井くんの声は聞こえるけれど、周囲の雑踏と混ざって少し聞こえにくい。眉間に皺を寄せていると――不意に頬に雲雀くんの髪が触れた。
「えっ」驚いて携帯電話を耳から離すと、雲雀くんは「しーっ」と口の前に人差し指を立てて、携帯電話を私の耳に押し戻す。そしてそのままそっと自分の耳を携帯電話の外側から押し当てた。
どうやら雲雀くんも会話内容を聞きたかったらしい。ああ、なんだそんなことか……と少し驚いている心臓を押さえた。急に距離が近くなるから何かと思った。
「(いいじゃん、一緒に遊びにいこー)」
「(おねーさん高校生? 俺年上は2コまでだよ)」
雲雀くんと肩同士が触れ合う。その触れ合った部分から伝わってくる熱のせいで気が散って、ケータイから聞こえてくる音声に集中できなかった。ただ……おそらく今のところ、美人局と断定できそうな発言はない。



