ぼくらは群青を探している

 桜井くんの指が、桜井くんに借りたティシャツの(すそ)を引っ掛けるようにして掴む。その指が触れるか触れないか、ほんの数ミリ離れた部分から、ぞわりとした、くすぐったいような、それでいておぞましいような感覚が()いあがってきた。

「男なんて隙あらばヤりたい生き物だし。俺達だからってあんまり信頼し過ぎないほうがいいかもよ?」

 ティシャツの中に入った指が、そっとくびれの輪郭(りんかく)をなぞった。ドクリと心臓が跳ねる。

「そうやって無防備に転がってると、スイッチ入りそうになるからね」


 その瞬間、バシッと桜井くんの手が雲雀くんの手に払われた。

「イッテ……なに!?」
「いや普通に触ってんな何してんだコイツと思って」
「いや侑生が三国に荒療治(あらりょうじ)しようとしてるっぽいからノッただけじゃん!? つか侑生のほうが良くないじゃん押し倒してんじゃん!」
「俺は触ってないから」
「肩触ってんじゃん!!」
「だから肌に」
「俺だって肌には触ってないですう。三国はキャミソール着てますう」
「なんで知ってんだお前。着替え覗いたのか」
「だって制服って透けてるじゃん。三国ちゃんとキャミソール着てんだなあって見……。…………」
「語るに落ちたな」
「いや不可抗力じゃん! 仕方ないじゃん!」
「……あの」

 2人の行動の意味は理解した。桜井くんの言葉のとおり、荒療治だ。

 とはいえ、この体勢を続けていると、いくら頭では分かっていても体がついていかない。ドクリドクリと心臓はまだうるさく鳴っているし、雲雀くんに男と女という性別を強調されたせいか、私の体を支配するように上にいる雲雀くんとの距離に、怯えとは別の緊張を感じていた。

「……その……ごめんなさい、分かったので……あの、雲雀くん、退いてくれると……」
「ほーらー、だから言ってるじゃん」
「……悪いな」

 雲雀くんはほんの少しバツの悪そうな顔をして退いてくれた。おそるおそる起き上がろうとして、手が小刻(こきざ)みに震えていることに気が付く。

 怖かったことに気付かれないよう、ころりと再び横を向いた。その私の目の前に、雲雀くんは横向きに腰を下ろす。頬杖をついて私を見る雲雀くんは、もういつもの雲雀くんだ。

「……怖がらせ過ぎたかもしれねぇけどな、こういうことになるってことは分かってろ。ラブホがなんなのか分かんねーってのは仕方ねーよ、お前多分マジでこういうこと無縁だろうからな。ただホテルつーんだからベッドがあることくらい分かんだろ。ベッドがある部屋に男と行くんじゃねぇ」
「いや……あの……だからその、雲雀くんと桜井くんは信頼を……」
「うーん、あのね、三国、信頼してくれてるのは嬉しいんだけどね」

 桜井くんはその語尾のとおり困った顔をした。

「それ、多分マジで俺達だけにしたほうがいいから。普通の男はダメだよ、マジで普通に手出すよ」
「俺は俺達でも信頼すんなって言いたいけどな」
「でも三国のばーちゃんがいないときは三国の家行っちゃだめとか言われたら困るじゃん」
「そういう話はしてねぇだろ」

 はーあ、と雲雀くんは疲れたような溜息を吐き「下調べできたし、三国の社会勉強も終わったし、帰ろうぜ。気狂いそうだ、こんなとこいたら」いつもより苛立った声でぼやきながら立ち上がった。

「ほら三国、起きな」
「あ、ありがと……」

 雲雀くんはわざわざ私を転がし、仰向けにしてから腕を引っ張り上げてくれた。……もしかしたら、雲雀くんには震えているのがバレていたのかもしれない。