ぼくらは群青を探している

 心臓がドクリドクリと不気味に、そして激しく鼓動を始めた。あれ、雲雀くんは何をしようとしてるんだろう。なんで新庄と雲雀くんがだぶったんだろう。雲雀くんがしようとしてることが新庄と同じことだから? 桜井くんがいるのに? あれ、でもそれってもしかして関係ないのかな。桜井くんと雲雀くんがそんなことするはずないって分かってるのに、なんで私はこんなに――(おび)えてるんだろう。

 一気に不安に襲われ、頭が真っ白になりそうだったところに、ピッ――と小さな電子音が聞こえた。

 次の瞬間、この部屋にいない男女の声が聞こえ始めた。テレビの音声だ。どうやら雲雀くんが片手を離したのはリモコンを手に取ったからだったらしい。

 そして……、いくら私でも、一部の映画の一部に流れるものとしてそれが何の音声なのか知っていた。そして無造作につけたテレビの音がそれということは……。

「ラブホってのはいまテレビでやってることをする場所。分かったか?」

 ブツッという音と共にテレビは消え、音声も聞こえなくなったけれどもう遅い。頭には、いつしか見た映画のそういったシーンがフラッシュバックした。途端に雲雀くんに見下ろされた今の状態が――怖いのか恥ずかしいのかは分からなかったけれど、少なくともそれに似たものに思えて、サッと体を横に向けて雲雀くんの視線から逃れた。そんなことをしたって雲雀くんの視線から逃れられるわけはなかったのだけれど、体の何かを逃がしたかった。いつの間にか雲雀くんの手は肩から離れていた。

「……わ、分かりました……」

 胸の前で手を握りしめれば、心臓がまだドクリドクリと(おび)えているのが伝わってくる。新庄と雲雀くんがだぶった理由が分かった、新庄がいう『続き』の生々しさを知ってしまったからだ。

「おい三国、こっち見ろ」
「え、えと、なんで……」

 ぐるんと再び肩を掴んで仰向けにされた。これ以上ないくらいうるさい心臓が再び跳ねる。今度は肩から手が外れない。

「ラブホはそういうことをするところだし、それは俺とか昴夜が相手でも関係ない。で、この年になれば女の力なんてクソみたいに弱いんだから何されたって痛くもかゆくもない。声出して助け呼んだって気付かれやしねーし、なんなら口塞ぎながらやるくらい簡単だ」

 まるで予行演習のように、雲雀くんの手のひらが私の口に添えられた。雲雀くんのいうとおり、その手は私の口をすっぽりと覆い隠す。その手の中で呼吸をして初めて、自分が短く速く呼吸をしていることに気が付いた。

 雲雀くんも、きっとそれに気づいたのだろう。少し変わった表情は、雲雀くんが不可解な反応をするときのそれだった。

「……一緒に来た時点で、そういうつもりがあるって思われて当然だぞ。分かってんのか」
「……桜井くんと雲雀くんは……」

 何もしないじゃないですか、と言おうとしてぐっと言葉を飲み込んだ。つまりその「何か」の可能性が一切頭に浮かばないわけではなかったのだ。でもその可能性を、ほとんど無意識に排除していた。2人には他の人にない特別な関係が付加されているから。

「……その……信頼、してるので……」
「わーい、三国に信頼されてる」

 緊張感のない声で茶々を入れながら、ぼふんと桜井くんが私の横に座り込んだ。顔を向けると、背を向けて座った桜井くんがニッと口角を吊り上げる。

「――なんてね。あんまり男を信頼しちゃだめだよ、三国」
「え……」