その一角である雲雀くんの隣の席につけば、二人の目は揃って私を見た。本当に、二人に見られると、まるで野生の肉食獣に狙われているかのような気分になる。
「あれ、三国じゃん」
「そういえば隣に名前書いてあったな」
そして、さも知り合いかのように話しかける、と……。いや、知り合いといえば知り合いではあるのだけれど、つい十数分前にちょっと話しただけの関係だ。それなのに、二人がそんな態度で話しかけると、クラスメイトには勘違いをされてしまう。実際、視界に入るだけでも片手を超える人数の目がこちらを向いた。当然、その中には陽菜も入っていた。
でも二人は意にも介さず、桜井くんは「つか、マジで三国がこの教室にいるのって違和感あるなあ」なんて呑気にぼやく。雲雀くんも、頬杖をついて、式が始まる前にしていたように、じろじろと私を見ている。
「……三国、なんで普通科なんだ?」
そういえば、桜井くんと雲雀くんは、なんで私が普通科なのか聞かなかったな──なんて考えていたことの伏線を回収するかのような質問だった。
「……特別か普通か、って訊かれたら、まあ、普通だから」
「は?」
とはいえ、返事を用意していたわけではなかったので、つい、素直な返事をしてしまった。そしてそれに対する短い返事と、それとは裏腹に大きな音量のお陰で、雲雀くんが呆気にとられたのが分かった。隣の桜井くんもその目を開いているから、予想外の返事だったのだろうことが伝わってくる。
そして二人は――ちょっと顔を見合わせた後「ははは!」と明るい声と大きな口で笑った。
「それもそっか!」
「自分が特別か普通かって訊かれたら、そりゃ普通だな!」
二人の爆笑する声に、目を白黒させてしまった。クラスメイトたちもこちらに視線を向けていて、何事かと言わんばかりだった。
「お前、真顔ですげー面白いこと言うな」
「先公たち、願書見て絶対つっこんだよなー。なんでこの成績で普通科なんだって」
「特別か普通か聞かれたので普通に丸つけました、って言われたら何も言えねーな」
「舜、三国のこと知ってんのかな」
「知ってたら絶対口説いてるだろ、アイツ。なあ、三国、お前、荒神舜に口説かれたことあるか?」
雲雀くんは、笑い過ぎて涙まで浮かべていた。ちなみにその名前には覚えがあって、二年生のときに同じクラスだった。
「……いや、ないけど」
「なんだ、ないのか」
「舜に口説かせたいなー。そんですげー斜めの方向にフラれてほしい」
ゲラゲラと二人は笑い続けているけれど、なんとなく、馬鹿にされているわけではないことは分かった。お陰でどこかホッとした。〝死二神〟なんて呼ばれていて、二人が通った後はぺんぺん草も生えない焼野原と化すなんて噂はやっぱりただの噂だ。そんなに怖い人達じゃない――。
その時だ。ズン、ズン、と廊下から地響きのような足音が聞こえ始めたのは。



