途端、ザッと4人の視線が一斉に私に向けられたのでたじろいだ。頭が良いという能勢さんがなぜその手段に言及しないのかが不思議なくらい、合理的な意見だったはずだけど……。

「えっと……駄目ですかね……」
「……いいけど誰と行くつもりだお前」
「え、おとりの桜井くん以外誰が……」
「雲雀ついて行け。……いやお前なんも安心できねーな」
「安心してもらって大丈夫ですけど」

 ややムキになった雲雀くんに能勢さんが吹き出した。別に、密室というか仕切られた空間の中に2人しかいないなんてついこの間も(うち)で起こっていたことだし、何か問題のあることではない。そこに雲雀くんがいてもいなくても同じことだ。

「……別に桜井くんと2人でも大丈夫ですよ」
「いやさすがにマズくね? いや俺は何もしないけど」
「ラブホ入って何もしてないが通用するわけねーだろ!」
「ラブホ? 問題のホテルってホテルGround-0ですよね」

 中津くんが美人局に遭ったホテルの名称は当然押さえているし、蛍さんと能勢さんが調べてくれた結果としても、美人局被害が出ているのはそのホテルだ。ラブホなんて名称ではない。

 その返事に、さっきと同じくザッと4人の視線が一斉に私に向けられたので、さっきと同じくたじろいだ。今度も間違ったことは言っていないはずだ。

「……あの?」
「……三国ちゃん、ラブホが固有名詞じゃないってことは分かるかな?」
「え、あ、そうなんですか?」

 有り得るとすれば通称だけど「ホテルGround-0」の通称はどうやってもラブホにはなりようがない。能勢さんから向けられた優しい眼差(まなざ)しに目を丸くしてしまった。

「じゃやっぱりホテルGround-0で……」

 なぜか蛍さんは額を押さえたし、桜井くんは「あー……まあそうなるよね……」と呟いたし、雲雀くんは参ったように眉間に皺を寄せて瞑目(めいもく)した。3人の反応の理由が分からず能勢さんに再び目で助けを求めると、能勢さんからの優しい眼差(まなざ)しは一層優しくなる。

「……三国ちゃん、ちょっと耳貸して」
「はい?」
「おいやめろ芳喜」しびれを切らしたように蛍さんが口を開き「分かったからお前ら三国連れて社会勉強させてこい。金は颯人(バカ)に出させろ」
「……どうしよ侑生、これ今後の三国の知識は全部俺らの責任じゃない?」
「いや俺何も教えられることないから」
「お前三国の隣だからってそれはズルいだろ! つか中津の動画見たときに聞かれたから無駄なあがきだ!」
「……あの、結局ラブホって……」
「分かった、分かった。三国、後で教えてやるからそれは口に出さないほうがいい」
「いつ行くの? 今から?」
「いやさすがにこの時間は目立ちますし……」
「つか制服はマズくないですか」
「分かってるねえ、2人とも」

 能勢さんの誘導尋問に引っかかった2人は2人して閉口した。何の話かは分からないけれど、文脈的に2人が軽々しく口にしたいことではなかったことは分かる。

「ねえ結局……」
「よし、分かった。飯食ってから集合しよ」
「遅くなって逆に補導されそうだな。あと三国、飯食った後に家なんか出れんのか」
「あー……」
「分かった! じゃあ明日の放課後! で、俺が適当な服持ってくるから三国はそれに着替えて! 分かった!?」