「いやいやいや、侑生もフッツーに男だからね? 女なの顔だイタイッ」

 雲雀くんと雲雀くんに踏まれる桜井くんを横目に、そっと襖を開けて仏間を覗く。真っ暗だったので明かりをつけると、仏間とは反対の位置に小さな棚があり、その上に写真立てがいくつか並んでいた。

 襖を閉めながらそれに目をやると、一見して外国人の顔が見えた。桜井くんのお母さんの写真かな……と近寄ると、いくつかある写真立ての中心は3人組の家族写真で、まるで映画で見るような、金髪にグリーンの目をした美人な女性がいる。隣にいる男性はきっと桜井くんのお父さんだけど、お母さんと違って、どこにでもいそうなおじさんだった。その代わり写真だけでも全力でいいお父さんなのが伝わってくる。

 そして、真ん中にいる、おそらく小学生低学年の桜井くんは、栗色より明るい茶色い髪にくりんくりんの目をしていて、今よりもずっとハーフっぽかった。

「……めっちゃ可愛い子役にいそう……」

 つい、写真立ての前に立ってじろじろと見てしまった。どうやら桜井くんの鼻の高さは幼少期から変わっていないらしく、高校生(いま)の顔ならそれほど違和感がないけれど、幼少期の顔ではそれが目立つ。本人は「ハーフっぽくなかった」なんて言ってたけど、これを見ると「きっとハーフ」としか思えない。

 ハーフっぽくなかったから変だって言われていじめられたなんて話してたけど、これを見るとモテるからいじめていたか、男子から見ても可愛くていじめてしまったかのどちらかな気がした。

 なんて桜井家の家族写真を見ている場合ではない。手始めにティシャツを脱いで桜井くんのシャツを着ようとしたけれど、男女ではボタンの向きが逆で手間取った。次にズボンをはくと意外と桜井くんの足が長かった。

 鏡を見ないでも分かる。シャツはともかく、ズボンの丈が長い。

「これやっぱり無理なんじゃ……」

 ぶつぶつと独り言を言いながらベルトをしめようとして──視界を遮るものの存在に気付いて硬直してしまった。

 スルスルと襖を開けると、桜井くんと雲雀くんはこたつテーブルの前に座って昼間のメモを見ていて、私が入ってきたことに気づいて振り返る。

「……え、めっちゃ似合うじゃん。なに?」
「お前よりイケメンじゃねーか」
「やめて! 今それ俺も思ったけど!」
「やっぱ髪長いと一見して女だよな。長くてもウィッグの中に隠せるもんなのか?」
「ねー三国、髪持って頭の後ろに隠してみて。……おお、イケメンだ」
「一般的にイケメンってどことなく女っぽい顔つか、中性的な顔らしいな」
「自分がイケメンって言ってる?」
「言ってねーよ。……三国、なんで黙ってんだ」
「……やっぱり私には無理だと思う」
「なんでぇ。いいじゃん自信持てよ、イケメンだよ三国」
「……胸が邪魔」

 一向に2人が言及しないから、ボソリと小さな声でその最大の難点を指摘した。途端に桜井くんは固まったし、雲雀くんがそっと目を逸らした。どうやら雲雀くんは気づいていたらしい。でも確かに自分の体の凹凸(おうとつ)に気付かなかった私がバカだった。

 気まずい沈黙の中で、カチ、コチ、カチ、コチと振り子時計の音だけが静かに響く。この音を一体何回聞けばこの状況を打開するセリフを口にできるのか、私には見当もつかなかった。

「……やっぱ俺がやるかなあ……」

 桜井くんの男前な返事に、深く頷いた。