ぼくらは群青を探している

「別にいいすけど……三国の髪とかどうすんの?」

 確かに、肩より下まであるし、ちょっと髪が長めの男子ですなんて言うわけにはいかない。大体、ただでさえ男装をするのだ、髪型は男っぽくあるに越したことはない。

「……必要なら切りますが」
「いやいやいや」
「それは待て」
「そこまではさせねーよ!」
「もっと自分の髪大事にしましょう!」

 しごく合理的な意見を述べただけだったのだけれど、全員にここまで反対されるとは思わなかった。蛍さんも覚悟を持てと言ったりそこまでさせないと言ったり忙しい人だ。

 雲雀くんは眉間に皺を寄せて私の髪を眺めながら「……編み込んで隠しても女にしか見えねーもんな。大人しくウィッグつけたほうがいいんじゃね」
「10万払うよりまあ安いしな」
「……こういう面倒があることを考えると私ではなく桜井くんとかがやったほうがいいのではと思えるんですけどね」
「桜井は顔に出るつってんだろ」
「……ところで、中津くんはお金を持ってこいって言われてるんですよね? それ期限いつですか?」
「来週の金曜日だな」
「じゃあ三国の計画実行すんなら木曜日までには美人局に遭ったほうがいいな」
「……そうなるともう少し情報を整理しておきたいんですが」トントンと机を叩きながら「その美人局が現れるのはいつどこなのか、狙われるときのパターンはどうか。闇雲に美人局を待ってもこっちも準備ができないので」
「なるほどね。分かった、そこらへんは俺が聞いといてやる。お前らが3年にそんな話聞いたら目立つからな」

 あれ、この人のこと信用していいんだっけ──一瞬警戒心が顔を出したけど、今回の件は中津くんという群青のメンバーに関することだ。桜井くん達をメンバーに引き入れるために新庄の件を仕組んだとしても、それは群青のためだったと考えれば、蛍さんの関心は群青にあると言っていい。その意味では中津くんの件に蛍さんが協力的に、私達を裏切らずに動くことは期待できる。

「お願いします。じゃああとは……」

 そう結論づけて、今日のうちに整理できることをまとめ、夕方くらいに蛍さんと中津くんは「衣装合わせだけやっときな」「三国さん、お願いしまーす!」と帰って行った。

「衣装合わせかぁー。どういう服がいい?」
「……まあ、なんでもいいけど。サイズが合えばいいし」
「それもそっか。んじゃ制服持ってくる」

 ちょっと待っててー、と桜井くんは居間を出ていき、そのまま階段を上る音が聞こえ始める。

 さっきまでとは打って変わってしんと静まり返った居間の中で、ぐるりと辺りを見回した。振り子時計の音がカチ、コチと響く居間は、襖から箪笥まで、ごく一般的にイメージされる日本家屋で、うちよりももう一世代古い。ただ、ざらりとした畳の感触はうちと同じだ。

「……桜井くんって、洗濯とかどうしてるんだろ」
「ああ見えて意外と適当にできるから、アイツ。時間があれば勉強もどうにかなるんだろうけどな」

 確かに、桜井くんの話しぶりは数学ができない人のそれではないし、さっきまでの話し合いだってあまりにも理解がスムーズだった。むしろあれで全く勉強ができないことに違和感がある。

「……桜井くんが英語だけ頑張ってるのって、お母さんがイギリス人だったから?」
「ああ、聞いてんの。多分そう。アイツははっきりとは言わないけど」
「……アメイジング・グレイスが上手かったんだよね」
「……カラオケでも行ったのか?」

 おもむろな私の情報に、当然雲雀くんは怪訝そうな顔をした。雲雀くんの表情はもう分かるようになってきた。