ただ、桜井くんの断り方がまずかったのだろう。牧落さんは眉を八の字にして誰がどう見たって(それこそ私が見たって)分かるくらいには悲しそうな顔をした。
おかげで全然関係ない隣の蛍さんまでが「……お前彼女には優しくしてやれよ」と注意する始末。桜井くんは慌てて手を横に振った。
「いやいや、あの、ほら、群青の集会って胡桃には関係ないことだし、なんか下手に話したら巻き込みそうだし、なっ!」
「……だったらそう言ってくれればいい話じゃん」
「だって説明すると長いじゃん!」
いやいまの説明短かったじゃん……と思ったけれどさすがに口には出さなかった。
「でも桜井くん、女子は相手のことを何でも知りたがるものだから、下手に隠そうとしたように見えるのはよくないんじゃない?」
やっぱり能勢さんの色気は経験の豊富さからくるものなのだろうか、妙に説得力があった。桜井くんも(能勢さんのことはなんかやだなんて口では言いつつ、むしろだからこそ)納得はしたのだろう。口をへの字に曲げながら「……まあ悪かったですけど、俺の言い方も」と少し反省する。
「ていうか、その群青って三国さんはいるんでしょ? わたしもメンバーなりたい!」
「え、群青ってそういうもんなの?」
「違うな。俺、基本的に女子受け付けてねえから」
桜井くんの素朴な疑問に蛍さんは端的に答えた。……じゃあ私は?
「じゃあ三国が群青なのはなんでですか?」
そんな私の心の声は雲雀くんが代弁した。
「三国は特別だ」
蛍さんは立て膝に頬杖をつき、その口角を吊り上げた。
まさしく“特別”に聞こえるその響きに、背筋が震えてしまうのは、新庄の一件から生じた不信感を私が拭えていないからだ。
「特別……?」
牧落さんが首を傾げる横で、桜井くんも「てか蛍さん、マジで三国のことお気に入りですよね」と首を傾げた。
「ゴールデンウィークも三国のことで怒るし。なんも知らないヤツが見てたら蛍さんの女が三国って勘違いされそう」
「そ──」
「ああ、俺はいいけど。三国、俺と付き合うか?」
「は!?」
そんな畏れ多い、というか正直意味が分からなすぎて怖い、冗談でもそんなこと言われたら困る、と色々な文句が口をついて出る前に蛍さんはサラッと頷いたどころか私にとんでもない爆弾を投げてくれた。
呆然と振り向くも、私には蛍さんが冗談で言っているのかなんなのか全く分からない。蛍さんのことはまだ分類はおろか、観察とパターン化さえできていないのだ。そんな状態で冗談なのかなんなのか分かるはずがない。
……けど、さすがに、こんなにも人が揃っている場であっけらかんとなんの躊躇いもなく、他人の広げた風呂敷に乗っかって飛ぶような告白をするわけがない。それに何より私には蛍さんに気に入られる理由がない。だからここで必要なのは、冗談に対して冗談めいた返事をすること。
「……私、ピンクブラウン恐怖症なんで無理ですね」
「ひでーこと言いやがる女だな」
冗談に聞こえたのか、冗談に聞こえたとして適切だったのか、酷かったのか酷くなかったのかも分からなかった。ただ蛍さんは笑い飛ばしてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
「ま、とりあえず俺が言いたかったのはこんなとこで」蛍さんはそのまま立ち上がり「そこの3人、今日の集会忘れんな。で、桜井、てめぇはケータイ買え。じゃな」
「じゃあね」
おかげで全然関係ない隣の蛍さんまでが「……お前彼女には優しくしてやれよ」と注意する始末。桜井くんは慌てて手を横に振った。
「いやいや、あの、ほら、群青の集会って胡桃には関係ないことだし、なんか下手に話したら巻き込みそうだし、なっ!」
「……だったらそう言ってくれればいい話じゃん」
「だって説明すると長いじゃん!」
いやいまの説明短かったじゃん……と思ったけれどさすがに口には出さなかった。
「でも桜井くん、女子は相手のことを何でも知りたがるものだから、下手に隠そうとしたように見えるのはよくないんじゃない?」
やっぱり能勢さんの色気は経験の豊富さからくるものなのだろうか、妙に説得力があった。桜井くんも(能勢さんのことはなんかやだなんて口では言いつつ、むしろだからこそ)納得はしたのだろう。口をへの字に曲げながら「……まあ悪かったですけど、俺の言い方も」と少し反省する。
「ていうか、その群青って三国さんはいるんでしょ? わたしもメンバーなりたい!」
「え、群青ってそういうもんなの?」
「違うな。俺、基本的に女子受け付けてねえから」
桜井くんの素朴な疑問に蛍さんは端的に答えた。……じゃあ私は?
「じゃあ三国が群青なのはなんでですか?」
そんな私の心の声は雲雀くんが代弁した。
「三国は特別だ」
蛍さんは立て膝に頬杖をつき、その口角を吊り上げた。
まさしく“特別”に聞こえるその響きに、背筋が震えてしまうのは、新庄の一件から生じた不信感を私が拭えていないからだ。
「特別……?」
牧落さんが首を傾げる横で、桜井くんも「てか蛍さん、マジで三国のことお気に入りですよね」と首を傾げた。
「ゴールデンウィークも三国のことで怒るし。なんも知らないヤツが見てたら蛍さんの女が三国って勘違いされそう」
「そ──」
「ああ、俺はいいけど。三国、俺と付き合うか?」
「は!?」
そんな畏れ多い、というか正直意味が分からなすぎて怖い、冗談でもそんなこと言われたら困る、と色々な文句が口をついて出る前に蛍さんはサラッと頷いたどころか私にとんでもない爆弾を投げてくれた。
呆然と振り向くも、私には蛍さんが冗談で言っているのかなんなのか全く分からない。蛍さんのことはまだ分類はおろか、観察とパターン化さえできていないのだ。そんな状態で冗談なのかなんなのか分かるはずがない。
……けど、さすがに、こんなにも人が揃っている場であっけらかんとなんの躊躇いもなく、他人の広げた風呂敷に乗っかって飛ぶような告白をするわけがない。それに何より私には蛍さんに気に入られる理由がない。だからここで必要なのは、冗談に対して冗談めいた返事をすること。
「……私、ピンクブラウン恐怖症なんで無理ですね」
「ひでーこと言いやがる女だな」
冗談に聞こえたのか、冗談に聞こえたとして適切だったのか、酷かったのか酷くなかったのかも分からなかった。ただ蛍さんは笑い飛ばしてくれたので、ほっと胸を撫で下ろす。
「ま、とりあえず俺が言いたかったのはこんなとこで」蛍さんはそのまま立ち上がり「そこの3人、今日の集会忘れんな。で、桜井、てめぇはケータイ買え。じゃな」
「じゃあね」



