でも、群青にいることは、その怖さを誤魔化す方法のひとつだろうし、新庄の口にした「また」は、今後の私がどんな立場になってもなかったことにはならないのだろう。それなら群青にいるべきだし……、それに、しいていうなら、(つゆ)ほどなら覚悟があった。

 なにより、この人達の仲間だという言葉の響きが、ただただ耳に心地が良かった。

「……まだ、あるとまでは言えませんけど。仲間になるのに必要なら、持ちます」
「……いいね」

 蛍さんが口角を吊り上げたけれど、その笑みの意味は、分からなかった。

「正式なメンバー告知はまた後日。そん時は連絡するから顔出しな。で、今日は桜井、雲雀、お前らが三国を送れ。荒神、お前は知らねー、一人で帰れ」
「……はーい」

 ふと、蛍さんと荒神くんの関係に疑問が浮かぶ。蛍さんは、結局、荒神くんを群青には誘っていないのだろうか。そして荒神くんはなぜ、蛍さんに認識されているのだろう。認識でいえば、新庄も、桜井くんと雲雀くんと一緒にいるヤツとして荒神くんを認識していたけれど、それとは別に能勢さんは荒神くんと面識があったみたいだし……。

 いくつもの疑問が頭に浮かんで、そのまま答えを見つけられずに(ただよ)う。ぼんやりとしていると「つか、三国よお」と蛍さんが携帯電話を振った。

「お前、俺のケー番登録してないつってたろ。どうやって電話かけた」
「……覚えてました」
「あぁ?」

 蛍さんの眉が跳ね上がった。

「蛍さんが、手書きで番号を渡してくれたから、覚えてました。……あの時はまだ、私は蛍さんと関係のない人間だったので、登録する必要はありませんでしたけど、電話をする可能性はあったので」
「永人さん、三国、めちゃくちゃ記憶力いいんですよ」

 なぜか桜井くんが横から口を出した。蛍さんは少し目をぱちくりさせていたけれど――ハハッと声を上げて笑った。

「そっか、そうだったか。電話番号って……十一桁だろ? いざってときのために覚えるけど登録はしない、か。三国、やっぱりお前の度胸スゲェな」
「……これでも必死だったんですが」
「安心しろ、褒めてんだよ。で、ついでにそろそろ俺のバイクから降りな」
「あ、すみません――」

 慌てて降りようとすると、まるで子供を抱き上げるようにして正面から抱きしめられた。ほんの僅かな煙草の臭いが鼻孔をくすぐるほどに密着した、それによる緊張か、狼狽(ろうばい)か、恐怖か、どれともつかぬ感情に支配された心臓が再び跳ね上がる。

 一体何をされるのか――(まど)う間もなく、ストンと地面におろされた。

 あ、なんだ、バイクから降ろしてくれただけか。動揺している私を、蛍さんはバイクから見下ろした。

「三国英凜、お前、群青に入るならもうちょっと男に慣れな」

 そんなこと言われたって、急に先輩に抱きしめられて動揺しない子のほうがどうかしてる。つい、口を(とが)らせてそんな文句を言いたくなった。煙草の臭いがするくらい密着して平気な顔をしろなんて、そんな――。

 ……あれ? ふ、と妙な違和感が脳裏を掠める。蛍さんって、煙草嫌いなんじゃないっけ。ああ、でも、臭いがするから吸ってたってことにはならないな。誰かが蛍さんの近くで煙草を吸ってた可能性だって――。

 脳裏に新庄の咥え煙草の姿が(よぎ)った。

 その瞬間、ゾッと背筋が震えた。

 もし、蛍さんが、仕組んだのだとしたら?