蛍さんは、そうして執拗(しつよう)に私と桜井くん達を切り離そうとする。

 桜井くん達は何も言わなかった。蛍さんの言葉が正しいからだ。

 でも、本当に、もう遅いのだ。スカートの上で手を握りしめた。

「……イヤです」
「……だろうな」
「えっ」

 きっと怒られると思っていたので面食らった。それどころかあまりにも簡単に引き下がられて、これからしようとしていた理由付けが頭から飛んだ。

「だろうなって……」
「誘拐されて、ろくに話したこともねー俺に電話かけてくる女がまともなわけねーからな。どうせゴネるとは思ってた」

 蛍さんは舌打ちした。そのセリフからすれば、分かりきっていたこととはいえいざ耳にすると苛立たずにはいられない、きっとそんな舌打ちだった。

「が、三国。俺はお前のその度胸を買ってやる」

 ピンクブラウンの髪の隙間から覗く、蛍さんの瞳が細められた。

「誘拐犯は六人、メンツは(ディープ・)(スカーレット)。お前と荒神つー人質がいる中で桜井と雲雀がろくに相手をできるわけがない。その中に、連中と最高に仲が悪い群青のトップを、使えるって理由だけで呼びつけて助かろうとした、その度胸を買ってやる」

 ぶるっと、さっきまでとは別の意味で背筋が震えた。

「さあ、三国、選びな」

 桜井くんも雲雀くんも口を出さないのは、きっとその選択をするしかないと分かっているからだ。

「群青に関するあらゆる決定権限は俺にある。――お前が群青に入るって言うなら、俺は受け入れる」

 群青とは、何なのか。そう問いかけた私に、蛍さんは、自分みたいなのが群れているだけだと言った。だから桜井くんも雲雀くんも――私も、群青に相応(ふさわ)しいのだと。

 私には、私と桜井くん達との共通点は分からなかった。むしろ私だけが異質に思えていた。私だって桜井くん達と同じだと思いたいのに、私だけが仲間外れに思えてならなかった。

「お前は、群青(おれたち)の仲間になる覚悟はあるか?」

 そんなもの、(つゆ)ほどしかなかった。

 記憶のフォルダに保存されてしまった、この倉庫内の光景が怖かった。新庄の顔が怖かった。耳元で永遠に(ささや)かれ続けているかのように鮮明に克明(こくめい)(よみがえ)る新庄のセリフも声も怖くて怖くて仕方がなくて、それなのにきっと何度も何度も自分の頭の中で再生できてしまうし、だからこそ忘れることができないと半ば確信できることが、私を一層恐怖で縛り続ける気がした。