ぼくらは群青を探している


 そんな親子の後に、おばあちゃんと並んで受付前に立つ。

「……一年五組、三国(みくに)英凜(えり)です」

 受付を担当している(おそらく)三年生から二度見された。

「三国……、五組……?」
「五組の、三国です」

 繰り返すと、三年生は「ね、三国英凜さんなんだけど……」と隣の三年生に耳打ちした。二人で名簿を覗き込み「あ、あるじゃん」「いやあるんだけどさ……」とコソコソ内緒話をする。

「……五組で、間違いないですよね?」
「間違いないです」

 もう一度頷くと、コホンと三年生が咳払いした。

「……どうぞ。ご入学、代表挨拶、おめでとうございます」

 胸につける花のリボンには「新入生代表」と書かれていた。五組の列に向かいながら胸につけようとすると「英凜ちゃん、不器用なんだから、こっち向きなさい」とおばあちゃんにつけられた。

「ね……なんで五組なんだろ」
「間違えたんじゃないの?」
「代表なのに?」

 体育館内では、向かって左側に特別科、右側に普通科が着席させられていた。その結果、左側は黒々としているのに反し、右側は――もちろん黒や茶もあるけれど、それよりなにより金や銀に赤や青まで、非常にカラフルにまとまりのない様相(ようそう)(てい)していた。当然、特別科はおとなしく着席しているのに反し、普通科はざわざわとお喋りをやめず、しかも着席せずに友達同士で立って喋っている有様だった。

 おばあちゃんはそんな様子を見て「あらまあ……」と困った顔をした。

「昔は男の子はボウズって決まってたんに、今時やねえ……」
「……そういう問題じゃないと思うけど」

 髪型に言及するなら、どちらかというと色を問題にするべきではないか。とはいえ、戦時中のことを引き合いに出されてもうまく反論ができない。とりあえず、おばあちゃんには保護者席で大人しく座っておいてもらうことにした。

 そして――分かっていたこととはいえ、私は五組のグループを前に、立ち尽くす。

 灰桜高校は、荒れ狂ってる部分とそうでない部分とが混在されているけれど、それは色々な側面から厳格に区分けされている。そのひとつが特別科と普通科という区別で、一組から四組は特別科、そして五組と六組は普通科だ。

 普通科を選んだことを一瞬で後悔したくなるほど、左右の違いは歴然としていた。五組では、椅子に座っているとは到底思えない態度で「でさー、俺は言ってやったわけよ、文句あんなら金持ってきてから言えよって」「カワイソーだな、ないから言ってんだろ」と恐喝(きょうかつ)かなにかの犯行告白みたいな話をしていた。

 本当に後悔した。うっかり選んだわけではなく、自分できちんと丸をつけたときの光景を脳裏に浮かべながら、この普通科を選んだことを後悔した。いくら玉石の石側といったって、不良が多いといったって、犯罪者集団がいるとは思わなかった。想定が甘かった。あの時の自分の頭を後ろから叩いてあげたい。

「オイ、どけよ」

 ほらどやされた! ヒッと怯えて飛びのきそうになったけれど……、私ではなく、犯行告白じみた話をしていた男子達が、ガタガタッと音を立ててパイプ椅子から立ち上がった。

「……なんだコイツ」
「しっ、雲雀(ひばり)だよ。目つけられたら厄介だ」

 彼らの目線を追って振り返れば、そこには一人の男子が立っていた。

 まるで狼だった。そのくらいきれいな銀髪だった。ワックスかなにかでセットされたその髪には、まるでチャームポイントのように赤いヘアピンが止まっている。そして耳にはこれでもかというくらいピアスがくっついていた。

 更にヤバそうな人が出てきた……。さっきから後悔しっぱなしなせいで、私の内心は今すぐ回れ右して家に帰りたい気持ちでいっぱいだ。

 ただし、その「雲雀」という名前の狼は、私を無視してドカッとパイプ椅子の一つに腰を下ろした。途端、彼の周辺に座っていた生徒達は慌てて列の反対側に避難した。まるで下手くそな人がやるマインスイーパのように、彼の周りはぽっかりと席が空いた。