ぼくらは群青を探している

 どうして、見落とした。あんなに疑ってたのに、蛍さん達の話を素直に聞いて、大雑把な認識をして、安心しきって。こんなにもたくさんあったヒントを、どうして私は見落とした。どうして。

 ラーファーソードー……と昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り始めた。私の焦りなど意にも介さないかのように、一定のリズムをゆっくりと刻む。

 そしてそれは、能勢さんも同じだった。その顔はいつもどおりだったけれど、秘密を暴かれた側ではなく、秘密を暴露した側特有の余裕の笑みを称えているように見えた。

「さて、詰めの甘い三国ちゃんに問題です」

 短くなった煙草を携帯灰皿に押し込みながら、甘いマスクが、まるで恋人に向けるもののような優しい微笑を浮かべる。

「夏祭りで写真を撮られたとき、カメラの起動音がしたかどうか、覚えてる?」

 カメラの、起動音……? 茫然としたまま、意味と記憶を探る。

 新庄はデジカメを拾い上げ、デジカメに私の写真が映っているかのような態度をとった。だから桜井くんはデジカメのSDカードを抜いて壊した。

「ね、三国ちゃん。デジカメって起動音があるよね。電源を入れるとピロリンって音がするよね」

 能勢さんは指を動かして、デジカメの電源を入れるような仕草をしてみせた。

 知っている。デジカメを起動すると音がする、奇しくもつい3日前に実証したばかりだ。なんなら、格納されているレンズが出てくるときにも音がする。起動音やシャッター音は設定で消すことができても、レンズが物理的に出てくるときの音を消すことはできないだろう。

 自分が圧倒的に視覚優位であることは自覚している。ただ、相対的な問題とはいえ、耳で聞いたことも他人よりはずっとたくさん覚えているほうだ。

 その、他人より多い耳で聞いた情報の中に、カメラの起動音は、ない。

「それが聞こえなかったのに、三国ちゃんが撮られた写真は、本当にデジカメで撮られたものだったのかな?」

 頭の中には、2つの写真が浮かぶ。夏祭りの日、デジカメを拾い上げた新庄と、月曜日、私の前でデジカメを持ち上げてみせた桜井くん。

 一度起動したデジカメは、起動したらレンズが出たままになる。月曜日、桜井くんがくるくると弄んでいる間、デジカメのレンズは出たままだった。そしてそのレンズは、時間が経って勝手に電源が落ちるまで、格納されないままだった。

 でも、夏祭りの日、新庄が拾い上げたデジカメはレンズが出ていなかった。写真を撮っていた人達は、その撮影の途中で雲雀くんに襲われたのだから、わざわざ電源を切る余裕があったとは思えない。新庄が現れるまで少し時間が経っていたから、その間に電源が落ちた可能性もある、でも電源が落ちるときに音がすることに変わりないのだ、それなら私が気が付かなくても雲雀くんは気が付いたはず。

 何より、雲雀くんがやって来たとき、彼らが携帯電話でなくデジカメを手に持っていたら、雲雀くんが気が付くはずなのだ。それこそ、突然現れた雲雀くんの目からデジカメを隠す余裕なんてなかったはずなのだから。

 能勢さんはポケットの中から携帯電話を取り出し、閉じたままの状態で私に掲げてみせる。以前職員室で見た能勢さんの携帯電話はブルーだったのに、その手にあるそれはシルバーだった。

「こんな話、するつもりなかったんだけどね。永人さんから色々聞いて、自分がお気に入りな理由も分かっちゃって、永人さんを信用しちゃったもんね。そうなると厄介だよね、あんまり色々察知して推理して永人さんに吹き込まれたら困るし。ま、それは桜井くんと雲雀くんもそうなのかもしれないけど」

 能勢さんは、あの日、黒烏の2人の服を探っていた。財布を手に取って学生証を見ていた。どうしてわざわざそんなことをしたのだろうと疑問だったけれど、きっとあれはカムフラージュだった。携帯電話を抜き取るために脇に屈んで、その行動を怪しまれないように財布を抜き出したのだ。

「三国ちゃんのこの写真は、俺が守ってあげるよ。大丈夫、あの日あの場所で抜いたケータイだから、誰にもデータは渡ってない。もちろん、新庄にもね」

 体が震えた。気持ちが悪くて、吐き気がしそうだった。気付けば無意識に自分の体を抱いていた。そうでもしないと自分を守ってくれるものが見当たらなかった。

「だから三国ちゃん、俺の邪魔はしないでね。約束だよ」

 私は、また、人生の選択を間違えたのだ。