ぼくらは群青を探している

「つまりその写真はね、『強姦だって警察に言ってもいいけど、そしたら和姦の証拠として出しますよ。これを出せば、あなたの裸はたくさんの人の目に晒されますよ』っていう脅迫なわけだ。ピースをすれば和姦になるんじゃない、ただそういう写真があれば証拠として出す方便になるから女の子が黙らざるを得ないっていうだけだ。(ちまた)蔓延(はびこ)ってる手法だけど、最初の最初に考えたヤツはえげつない悪知恵の持主だよね」

 ね、分かった? 能勢さんはそう付け加え――笑った。

「病気と、体が弱い、ね。本当に人の認識ってあてにならないよね。俺は、三国ちゃんは体が弱いんだって思ってたよ。だって荒神くんがそう言ってたって新庄が言うんだから」

 違う、違う。能勢さんはきっとまた意地悪を言っているのだ。だって、荒神くんは蛍さんのパシリで、新庄に拉致された日のことを蛍さんにつぶさに語ったのだから。そもそも、九十三先輩だって言ってた、体が弱いってのはみんな知ってるって、でも元気そうだから嘘なんだろうなと思ってたって。蛍さんは、私達が中学2年生のときに荒神くんを介して私の体が弱い話を聞いてて、だから|みんな(・・・)知ってるって。

 みんなって、誰? 九十三先輩が言ったみんなって、誰のこと?

『俺らみたいな不良が絡んでいい子じゃなさそうだし? ほっとけ? って話になって終わってたんだよね、これ俺らが高1のときの話だから三国ちゃんが中2のときの話』

 九十三先輩達3年生が1年生のときの話、つまり、能勢さん達2年生が入ってくる前の話。

 そうだ、だって常盤先輩は私を知らなかったと言っていたじゃないか。何度かバイト先で見ていたことがあったけれど、それはバイト先にたまに来る子の顔を覚えていただけで、「三国英凜」を認識したのは私が群青に入ってからだと。

 私のことを、3年生の誰が知っていてもおかしくなかったけれど、2年生は知らなかった。蛍さんが私のことを知っててどうのこうのなんて話は、いま3年生の先輩達が1年生のときにして終わっていて、2年生の能勢さんは結局知り得なかったのだ。荒神くんが蛍さんに新庄の一件を報告したとしても、蛍さんがそれを他の群青のメンバーに仔細(しさい)に話すかは別の話だ。

「というか、結構俺は焦ってたんだよね。ほら、三国ちゃん、群青メンバーのリストを見てOBの名前を覚えたって言ってたでしょ? その文字列を一瞬で覚えるってことは、ヤバイくらいの記憶力があるってことじゃん? で、三国ちゃんが拉致られた赤倉庫、あそこに俺の煙草の吸殻が残ったままだったからさ。銘柄覚えられてたらどうしようって。ちゃんと捨てといてって新庄に言ったのに、ああいう詰めは他人任せにしちゃだめだよね」

 赤倉庫で、新庄とその仲間が座っていたソファ、その前にあったサイドテーブル。そのサイドテーブルの上の灰皿は煙草の吸殻で一杯だった。でも、新庄以外の人間は誰も煙草を吸っていなかった。遣り取りを聞く限り、あの日あの場所にいた人達はみんな新庄より立場が下だった。だから新庄の前では煙草を吸わなかったのだろう。

 そして、美人局を嵌めようと画策していたあの日、雲雀くんは、煙草の吸殻が2種類あったと言っていた。つまり、赤倉庫で煙草を吸っていた人間は2人いた。

 新庄以外にもう1人、煙草を吸う人がいた。そしてその人は、立場が新庄と同じか、上。

 そして、新庄と能勢さんは、2人とも北中学の出身で、接点を持つ機会はたっぷり2年間あった。