ぼくらは群青を探している

「初めに教えておくと、無理矢理やるのは強姦、合意してやるのが和姦ね。だから例えば、どっかの神社で顔も名前も知らない男に押し倒されて突然犯されました、なんていうのは、まさしく強姦にあたるわけだよ」

 頭の中には、夏祭りの光景がフラッシュバックした。まさしく強姦だというその写真が、記憶の引き出しから乱暴に引っ張り出して眼前に叩きつけられたかのように、鮮明に。

「強姦は犯罪でしょ? でも和姦は犯罪じゃない。じゃあ強姦しちゃった後で和姦ってことにすればいいんじゃない? そのためにはどうすればいい? ――それでどこかの誰かが考えたのが、事後に、その女の子が笑顔でピースとかしてる写真を撮ること。ほら、例えばさ、女の子が普通にセックスした後にさ、『無理矢理された』って言えば全部強姦になるんだとしたら、女の子は簡単に男を嵌めることができちゃうでしょ? 女の子が強姦されたって言ってるからはい有罪、とはならないわけ。人間は嘘を吐くことができる生き物なんだから、どんな言葉でもそれには裏付けが必要なわけだよ」

 人間は嘘を吐くことができる。嘘を吐くことが、できるから――。

「そこで、だ。例えば三国ちゃんが俺に強姦されましたって警察に駆け込んだとするでしょ? そして警察が俺のところへやってきて、三国ちゃんが俺に強姦されましたって言ってますよと詰問するわけだ。そしたら俺は、三国ちゃんが裸でピースしてる写真を差し出すわけ。ごめんなさい、見てのとおり円満な恋人同士の和姦です、別れたがってた三国ちゃんが強姦ってことにして警察に駆け込みましたってね」
「の、せさん、待ってください、能勢さんは、一体何の話を……」
「ただ、実はこの写真というのは、そういう意味を持つわけじゃない」私の声には耳を貸さず、煙草を持つ手でそのまま口元を覆い隠しながら、視線だけ私に向けて「だって普通、強姦されましたって他人に言いたくなんかないでしょ? そこをあえて警察に駆け込むまでしたことに対して、痴話喧嘩だったなんてオチがつくと思う? そしてそれを捜査のプロが信じると思う? 仮に警察を騙すことができたとして、この国の司法を騙すことができると思う?」

 能勢さんが、ゆっくりと手を離す。口元はニヒルに歪んでいた。

「つまりね、三国ちゃん。ピースをすれば和姦になるっていうのは、正確には間違ってるんだ。裸でピースしてる写真撮ったって、そんなの事後に無理矢理撮ったって分かるに決まってるでしょ? 三国ちゃんの件でいえば、友達の池田さんが『男に無理矢理連れていかれるのを見た』って証言して、桜井くん達が『電話で助けてくれと言われた』と証言する。三人は三国ちゃんの友達だからって割り引いて考えたって、現に池田さんはあちこちに助けを求めるメールをしてるし、桜井くん達のいう通話記録だって三国ちゃんの携帯電話に残っていることを加味すれば、どう考えたって桜井くん達の言うことが正しいよね? そして助けを求める通話記録より後の時間に裸でピースしてる写真がある……一体そんな写真が何の意味を持つんだろう?」

 まるで、その事件の全容を企んだ人間だからこそ、雄弁に語ることができるのだとでもいうように。