ここ数ヶ月、胸に抱いてきた疑惑を吐露するときが来たらしい。誤った疑惑はまるで私の頭の悪さの証拠のようで、それをよりによって頭の良い能勢さんの前で口にするのは恥ずかしかった。ほんの少しの緊張を誤魔化すように髪を触りながら、そっと息を吐きだす。
「その……、大したことではないんですけど、いえ……蛍さんが、前から私を知ってたって聞いて」
「ふうん?」
「……能勢さんは、6月頃から、私の体が弱いって話してたじゃないですか。あれって嘘なんです」
「ん? そうなの?」
そう、その反応だ。病気を虚弱体質と勘違いしている、それを裏付ける、その反応。
「……嘘っていうか……その元ネタって、親が、中学生の時の担任の先生に『娘は病気です』って伝えて、それをアナウンスしたせいなんですよね。それで中学の同級生は体が弱いって勘違いしている人がいて、でも私は全然体弱くないからみんなそんなことは忘れて、今はそんなこと思ってるのは荒神くんとかごく少数の人だけで、荒神くんはそんなセンシティブな情報を他言はしないけど、新庄に拉致されたときに新庄に話してて……要は、それって新庄しか知らないことだと思ってたんです」
「つまり、それを知ってる俺は新庄と繋がってるんじゃないかって思ったってこと?」
さすが能勢さんだ、話が早い。こくりこくりと頷いたけど、能勢さんは心外そうな顔はしなかった。なんなら「なるほど、病気ね……」なんて頷いている。
「……でも、その、蛍さんが前から私のこと知ってたって聞いて……。なんなら荒神くんは蛍さんのパシリだから、荒神くんは私の体が弱いだのなんだのって話も蛍さんにしてて、それをみんなが知ってて。私が先輩達を──能勢さんを疑う理由ってなかったんだなって」
「ああ、なるほどね。それを月曜に蛍さんから聞いたんだ?」
「そういうことです……」
拙い説明だったのに、その行間を簡単に補いながら理解してしまって、能勢さんの頭の出来を痛感する。蛍さんがトップに就任する際に反対派閥にいた能勢さんを、いまこうしてNo.2に据えた理由が分かる。こんな人が敵に回るのは厄介極まりない。
「そっかそっか、それで、疑うだけ無駄だったって分かって、この有様ってわけだ」
「……反芻されると恥ずかしいんですけど」
笑う能勢さんに頬でも膨らませたくなった。うまい具合に手のひらの上で転がされて弄ばれているような、そんな気持ちになった。
「じゃ、俺を白だと断定した三国ちゃん。ピースしてたら和姦になるって、どういう意味か分かる?」
また、突飛のない話が始まった。能勢さんに対して警戒心を抱いて、そして捨てて、なんて話よりもずっと突飛のない話。
ただ、そんなことは問題ではなかった。文脈がないとか脈絡がないとか、そんな話ではなくて、あえて、私にそんな問いかけをする理由が見つからなかった。いや、問いかけをする理由がではなくて、能勢さんが私にそんな問いかけをすることができる理由が見つからなかった。
「……え……?」
蚊の鳴くような声しか出ないくらい呆然としている私とは裏腹に、能勢さんは相変わらずいつもの態度を崩さない。いや、さすがにいつもの笑みは消えていた。柔和な微笑みは消え、ただ表情作りに思考と筋肉を使うのをやめただけのような、特に名称のない表情をしていた。
そんな表情のまま、咥え煙草をゆらゆらと揺らし、ふーっと息を吐き出す。
「その……、大したことではないんですけど、いえ……蛍さんが、前から私を知ってたって聞いて」
「ふうん?」
「……能勢さんは、6月頃から、私の体が弱いって話してたじゃないですか。あれって嘘なんです」
「ん? そうなの?」
そう、その反応だ。病気を虚弱体質と勘違いしている、それを裏付ける、その反応。
「……嘘っていうか……その元ネタって、親が、中学生の時の担任の先生に『娘は病気です』って伝えて、それをアナウンスしたせいなんですよね。それで中学の同級生は体が弱いって勘違いしている人がいて、でも私は全然体弱くないからみんなそんなことは忘れて、今はそんなこと思ってるのは荒神くんとかごく少数の人だけで、荒神くんはそんなセンシティブな情報を他言はしないけど、新庄に拉致されたときに新庄に話してて……要は、それって新庄しか知らないことだと思ってたんです」
「つまり、それを知ってる俺は新庄と繋がってるんじゃないかって思ったってこと?」
さすが能勢さんだ、話が早い。こくりこくりと頷いたけど、能勢さんは心外そうな顔はしなかった。なんなら「なるほど、病気ね……」なんて頷いている。
「……でも、その、蛍さんが前から私のこと知ってたって聞いて……。なんなら荒神くんは蛍さんのパシリだから、荒神くんは私の体が弱いだのなんだのって話も蛍さんにしてて、それをみんなが知ってて。私が先輩達を──能勢さんを疑う理由ってなかったんだなって」
「ああ、なるほどね。それを月曜に蛍さんから聞いたんだ?」
「そういうことです……」
拙い説明だったのに、その行間を簡単に補いながら理解してしまって、能勢さんの頭の出来を痛感する。蛍さんがトップに就任する際に反対派閥にいた能勢さんを、いまこうしてNo.2に据えた理由が分かる。こんな人が敵に回るのは厄介極まりない。
「そっかそっか、それで、疑うだけ無駄だったって分かって、この有様ってわけだ」
「……反芻されると恥ずかしいんですけど」
笑う能勢さんに頬でも膨らませたくなった。うまい具合に手のひらの上で転がされて弄ばれているような、そんな気持ちになった。
「じゃ、俺を白だと断定した三国ちゃん。ピースしてたら和姦になるって、どういう意味か分かる?」
また、突飛のない話が始まった。能勢さんに対して警戒心を抱いて、そして捨てて、なんて話よりもずっと突飛のない話。
ただ、そんなことは問題ではなかった。文脈がないとか脈絡がないとか、そんな話ではなくて、あえて、私にそんな問いかけをする理由が見つからなかった。いや、問いかけをする理由がではなくて、能勢さんが私にそんな問いかけをすることができる理由が見つからなかった。
「……え……?」
蚊の鳴くような声しか出ないくらい呆然としている私とは裏腹に、能勢さんは相変わらずいつもの態度を崩さない。いや、さすがにいつもの笑みは消えていた。柔和な微笑みは消え、ただ表情作りに思考と筋肉を使うのをやめただけのような、特に名称のない表情をしていた。
そんな表情のまま、咥え煙草をゆらゆらと揺らし、ふーっと息を吐き出す。



