ぼくらは群青を探している

 ……つまり、大抵の男子が私より胡桃を高く評価するという認識は何も間違っていないと。だから、その胡桃を幼馴染に持つ桜井くんを好きになっても仕方がないと認識することも、何も間違っていないと、きっと能勢さんはそう言いたいのだろう。

「もう一回聞くね。どうして雲雀くんを好きになりたいの?」

 能勢さんは、私の思考の整理のお手伝いをしてくれたのだろうか。それとも、ただ後輩を虐めて楽しんでいるのだろうか。

 能勢さんは新しい煙草を取り出した。昼休みのチャイムはまだ鳴らない。日直のためにお弁当を早く食べたお陰だろう。

 誰かに話したいとは思っていなかったけれど、そんな風に感じるということは、きっと私は誰かに話したかったのだろう。

「……能勢さんのいうとおりですよ」

 誰にも話せるはずのない、私の選択。今度こそ間違っていないと、いつだって信じて選んで、そして間違え続けていた選択を、今度は正しいと。

「……私は多分、桜井くんを好きだって気付くより先に、桜井くんを好きでも仕方がないって気付いちゃったんです。好きでも仕方がない人を好きになっても仕方がない。それでもって雲雀くんのことは友達としてすごく好きで、ちゃんと異性として見ることもできる。きっと雲雀くんのことなら好きになると思ったのも本当です。それなら、雲雀くんと付き合うのが正しいって、私は思ったんです」

 だから、せめてちゃんと好きになりたい。雲雀くんは私は雲雀くんを好きじゃないと言ったけれど、そして現に私は桜井くんを好きだけれど、その感情から目を逸らして、代わりに雲雀くんを見つめ続ければきっと好きになる。

 私が正しいと思った選択は、ともすれば雲雀くんにとっては最低の選択だったのかもしれない。だから私が働かせているのは最低な理性なのかもしれない。それでも、私は正しい選択をしたかった。

 能勢さんは紫煙をくゆらせながら、いつもどおりの笑みを浮かべていた。でも、まるで「よくできました」とでも言っているかのようだった。

 続ける言葉はなく、ただじっと能勢さんを見つめ返す。能勢さんは少し目を伏せて、とんとんと煙草の灰を落とした。

「ま、前にも言ったけど、俺は三国ちゃんと雲雀くんはお似合いだって思ってるし、結構祝福してるし。俺は三国ちゃんの選択は間違ってないと思うね」
「……そうですか」
「ところで、俺、三国ちゃんになにかした?」
「……急になんですか」

 また随分と突飛(とっぴ)な話が始まった。正直、もう少し能勢さんの感想も聞きたかったのに、さっきまでの話はどこへ行ったのやら。でもきっと、能勢さんが聞きたい話は終わってしまったのだろうから仕方がない。

「ほら、今、桜井くんと雲雀くんのあれこれを色々喋ってくれたし。壁が一枚なくなったような──警戒心が(やわ)らいでるような感じがしたからさ。多分だけど、前までの三国ちゃんなら、俺と二人きりってちょっと緊張してたし、そこまで明け透けには喋ってくれなかったなあって」
「……能勢さんって本当になにかが見えてますよね」

 むしろ見えすぎてて怖い。私は見えてなさすぎておかしいと言われるけど、能勢さんのそれはそれでおかしいのではないだろうか。

 そして、私の警戒心が和らいでいるとしたら、自覚はなかったけれど、それは事実なんだろうし理由も明らかだった。