ぼくらは群青を探している

「屋上のことなんだと思ってるの? ……ああそうか、そういうこと」急に能勢さんは納得した返事をしながら「俺、結構一人が好きなんだよ。三国ちゃんに声かけたのはね、たまたま横にいたから。みんな俺が屋上で煙草吸ってるなんて知らないよ」

 ……女の子に夢を売るためだろうか。好きな人には煙草を吸わないでいてほしいけど、それは私が煙草の臭いを嫌いだからそう思うだけかもしれない。

「さっきの蛍さんの話だけどさ」
「ああ、誕生日の」
「三国ちゃん、桜井くんには誕生日プレゼントあげたの?」

 ……そうやって、また能勢さんは私を見透かす。デジャヴだと思ったら、体育祭で蛍さんの元カノさんから助けてもらったときと同じだ。あの時も、能勢さんは見張りと称して私を連れて行って、暫く話し相手にした。

 もしかしたら、今日も桜井くんの話を──いじわるをしようとして、私を屋上に連れてきたのかもしれない。

「……あげてないです」
「なんで? 雲雀くんにしかあげなかったんなら、桜井くん拗ねちゃってるでしょ」

 ……昨日も今日も、桜井くんは何も言わなかった。様子にも何も変わったところはなかった。

 でもいつだって、私は相手を理解していない可能性を充分すぎるほど残している。そして能勢さんはきっと私と真逆だ。ということは、何も言わなかったことは、まさしく拗ねていたという事実を裏付けるのだろうか。

「……どうなんでしょう。あげるつもりはあったんですけど」
「あれ、そうなの」
「……クッキーを用意してたんですけど、あげる直前に、桜井くんはクッキーが嫌いだと聞いてしまって。それで……」
「へーえ、桜井くんが。なんでも食べるイメージあるのにね、意外」

 ふー、と能勢さんは煙と息を吐き出す。

「それであげなかったんだ」
「……まあ」
「クッキーはさすがに好き嫌いあると思わないよね。残念だったね」
「……でも胡桃から別のお菓子を貰ってたんで、それで満足したんじゃないかと……」
「俺が残念だったって言ったのは桜井くんじゃないよ」

 能勢さんは意味深に口角を吊り上げた。

「三国ちゃんが、だよ。三国ちゃんは、桜井くんに誕生日プレゼントをあげたかったでしょ?」

 ……だから、私は余計に能勢さんを疑ってしまったんだ。私は能勢さんを見透かすことができないのに、能勢さんはそうやって私を見透かすから。

「雲雀くんと別れるの?」

 集会の日、桜井くんの頭の良し悪しを訊ねた私に、能勢さんはそんなことは言わなかった。つまり、私が桜井くんを好きだということだけでなく、私が桜井くんを好きだということに集会の日以降、今の時点以前に自覚していたと分かっているのだ。

 能勢さんの洞察力に、今更驚きはしなかった。むしろ、殊、恋愛感情というものに対してこそ、その洞察力は最大限発揮されると言われても納得する。

「……別れませんよ」
「どうして?」
「……単純接触原理を教えてくれたのは能勢さんじゃないですか」
「どうして雲雀くんを好きになりたいの、って聞いてるんだよ。高校生の恋愛は大人の結婚とは違うでしょ? 別れたってみんなの記憶以外の記録が残るわけでもないし、人生を左右するような選択でもないんだから誰かに何かを言われる筋合いもない」
「……でも、軽々しく雲雀くんと付き合うと決めたわけじゃないです」

 能勢さんのいうことは(もっと)もだった。能勢さんが言っていることそれ自体に、私から何か反論できることなんてなかった。ただ、それは“雲雀くんと別れることを正当化してくれる理由”に過ぎない。