そんな能勢さんの後ろからは「お前が帰るのはいいけど三国ちゃんは置いてけよ!」と九十三先輩の太い声が響き、廊下にいる人達が肩を竦ませた。でもすぐに能勢さんが「誘拐犯みたいなこと言わないでくださーい」と柔らかい声で返事をしたので多少みんなの恐怖心は緩和されただろう。……私は私で群青の先輩達には慣れてきたけど、やっぱりあの人達って普通にいたり怒鳴ったりすると怖いんだな……。
「で、三国ちゃん」
ぽんっと軽く肩を押すようにして手を離した能勢さんは、なぜか階段を指さした。特別科の2年生の教室は校舎が違うので、行先は違うはずだ。
「俺、煙草吸いにいくけど、屋上行ってみる?」
前半にとんでもない宣言が入っていたので一瞬耳を疑った。学校で見ると──特にさっきの蛍さんと九十三先輩と見比べると──いかにも品行方正な優等生の能勢さんに似合わないセリフ過ぎる。そもそも、職員室帰りの足でそのまま煙草を吸いに行くということは職員室に煙草を持って行っていたということだ。私なら生まれ変わってもそんな度胸は持てないだろう。
というのはさておき、学校の屋上は行ってみたいスポットだったので、コクリコクリと頷いた。能勢さんは動物でも扱うように軽く手招きする。
「高校生になったとき、漫画で見るのと違って屋上は入れないんだなって思わなかった?」
蛍さんから、能勢さんが煙草のために屋上の鍵を持っている話は聞いていたし、その話を聞いて行ってみたいとは思っていたけど、能勢さんがいうのはそれよりもっと前段階の話だ。通常なら、お昼ご飯を友達と食べるときにでも「屋上に行ってみる?」という発想が出てきて「でもあれって漫画の中だけらしいよ」と残念がるまでがワンセットだと、そういうことだろう。
「……思う間もなく色んな感情が桜井くんと雲雀くんに持って行かれました」
「はは、そっかそっか。入学式に庄内先輩が来たんだったね」
そして、案の定、屋上の扉には「立入禁止」と貼紙がしてあった。さび付いた古い鉄扉には古いセロハンテープがくっついているけど、それに比べると貼紙は少し新しい。きっと破れたり落書きされたりで何度も貼り直しているのだろう。……今もこうして能勢さんが我が物顔で鍵を開けているけれど。
初めて踏み入れる屋上は、想像していたよりも綺麗だった。原則立入禁止だということを考えれば、誰にも何の手入れもされず、雨風に晒されるがままに汚れているものだとばかり思っていたけれど、一見するとただ広いだけのコンクリートの床だった。なんなら、能勢さんがいつも煙草を吸っているというのにその痕跡すらない。
「……能勢さんがお掃除してるんですか?」
「まさか。そりゃ、多少手すりを拭いたりはするけどね。普通に座ると汚いと思うよ」
屋上の扉の手前に掃除用具入れがあったことを思い出した。屋上の掃除用ではなく屋上に至るまでの階段の手入れ用なのだろうけれど、きっとそれを使っているのだろう。
ヒュオッと風が吹き、スカートがバタバタッとはためいた。慌てて押さえながら能勢さんを見たけど、手すりに寄りかかって、風に背を向ける形で煙草を咥え、ポケットからライターを取り出しているところだった。危なかった。
でも私のスカートが捲れたことには気づいていたらしい、火をつけると顔を上げて「女の子はあんまり来ないほうがいいかもね」と暗に注意を促された。
「……能勢さんは屋上に女の子を連れてこないんですか?」
「で、三国ちゃん」
ぽんっと軽く肩を押すようにして手を離した能勢さんは、なぜか階段を指さした。特別科の2年生の教室は校舎が違うので、行先は違うはずだ。
「俺、煙草吸いにいくけど、屋上行ってみる?」
前半にとんでもない宣言が入っていたので一瞬耳を疑った。学校で見ると──特にさっきの蛍さんと九十三先輩と見比べると──いかにも品行方正な優等生の能勢さんに似合わないセリフ過ぎる。そもそも、職員室帰りの足でそのまま煙草を吸いに行くということは職員室に煙草を持って行っていたということだ。私なら生まれ変わってもそんな度胸は持てないだろう。
というのはさておき、学校の屋上は行ってみたいスポットだったので、コクリコクリと頷いた。能勢さんは動物でも扱うように軽く手招きする。
「高校生になったとき、漫画で見るのと違って屋上は入れないんだなって思わなかった?」
蛍さんから、能勢さんが煙草のために屋上の鍵を持っている話は聞いていたし、その話を聞いて行ってみたいとは思っていたけど、能勢さんがいうのはそれよりもっと前段階の話だ。通常なら、お昼ご飯を友達と食べるときにでも「屋上に行ってみる?」という発想が出てきて「でもあれって漫画の中だけらしいよ」と残念がるまでがワンセットだと、そういうことだろう。
「……思う間もなく色んな感情が桜井くんと雲雀くんに持って行かれました」
「はは、そっかそっか。入学式に庄内先輩が来たんだったね」
そして、案の定、屋上の扉には「立入禁止」と貼紙がしてあった。さび付いた古い鉄扉には古いセロハンテープがくっついているけど、それに比べると貼紙は少し新しい。きっと破れたり落書きされたりで何度も貼り直しているのだろう。……今もこうして能勢さんが我が物顔で鍵を開けているけれど。
初めて踏み入れる屋上は、想像していたよりも綺麗だった。原則立入禁止だということを考えれば、誰にも何の手入れもされず、雨風に晒されるがままに汚れているものだとばかり思っていたけれど、一見するとただ広いだけのコンクリートの床だった。なんなら、能勢さんがいつも煙草を吸っているというのにその痕跡すらない。
「……能勢さんがお掃除してるんですか?」
「まさか。そりゃ、多少手すりを拭いたりはするけどね。普通に座ると汚いと思うよ」
屋上の扉の手前に掃除用具入れがあったことを思い出した。屋上の掃除用ではなく屋上に至るまでの階段の手入れ用なのだろうけれど、きっとそれを使っているのだろう。
ヒュオッと風が吹き、スカートがバタバタッとはためいた。慌てて押さえながら能勢さんを見たけど、手すりに寄りかかって、風に背を向ける形で煙草を咥え、ポケットからライターを取り出しているところだった。危なかった。
でも私のスカートが捲れたことには気づいていたらしい、火をつけると顔を上げて「女の子はあんまり来ないほうがいいかもね」と暗に注意を促された。
「……能勢さんは屋上に女の子を連れてこないんですか?」



