カチリと小さな音がした。ゴクリと緊張で再び喉が鳴る。ソファに座る四人をじっと観察しながら荒神くんの隣に隠れるように立ち位置を変えると、新庄が煙草に火をつけながらこちらを見て「三国ちゃんって、なんで桜井らとつるんでんの?」と暇潰しのような雑談を投げてきた。
「……ただ、同じクラスなので」
「へーえ。怖くなかった? だって死二神だよ?」
「……それは、別に。それよりも、あなたが――新庄篤史さんが、私と荒神くんを誘拐してまで桜井くんと雲雀くんを仲間に引き入れたい理由が、分かりません」
今度は、声が震えた。格好悪かったけれど、こんな目に遭ったことがない私の、それが精一杯だった。
「真面目っ子ちゃんには分からないって。あの二人、中学の頃からとにかく負けなしだったからね」
じっと辺りを観察する。ここにいるのは、私達を除けば六人。
「……そんな二人だから、わざわざ新庄さんも含めて六人も用意して、待ち伏せてるんですか?」
「そう。まー、六人いても、三国ちゃんとかがいると手出せないんだろうけどねえ。知ってる? 雲雀が妹のこと溺愛してる話」
新庄の、感情の起伏の薄そうな顔の中で、頬骨が少し上がる。細い目は一層細くなった。
「むかーしむかしの話だけどねえ、まあだから、あの妹、何歳だったんだろ? とりあえず誘拐するのは簡単だったんだよねえ。妹連れて行っただけで、もーあの雲雀が思うがまま。やっぱりああいうのがあると、味を占めちゃうものだよねえ、人間って」
ただ会話が続けばいいと思っていただけだったところに飛び込んできた情報に戦慄した。同時に、拳を握らずにはいられない。
「……昴夜に聞いたことあるけど、あれやったのお前か」
「ああ。お陰でこのとおり」顔の傷をなぞりながら「桜井にはばっちりやられたんだよねえ」
胸糞悪いというのは、こういう感情を言うのだろう。桜井くんが話していたことの──いわば事件の犯人が、こんなところにいた。桜井くんによればそのせいで雲雀くんは虫の息になるまで殴られ続けていた……。
「……喫煙者で外道なんて、最低ですね」
悪鬼と呼ばれる新庄に対してあまりに明け透けな物言いだったせいか荒神くんに少し小突かれたけど「なに、蛍永人の受け売り?」と新庄はさして気にしなかった。
「……新庄さんは、深緋の一員なんですよね? ここも──北海岸の漁場の三番目の倉庫って言ってましたけど、ここは深緋が使ってる倉庫なんですか?」
「いや、ここは普段は使ってないらしいねえ。俺は深緋に入ったばっかりでねえ、せっかくだから手土産のひとつでもと思って、それが桜井と雲雀ってわけ」
「そんなにあっさり、二人が深緋に入るんでしょうか」
「そのための三国ちゃんでしょ?」
「確かに、私と荒神くんがいれば、桜井くんと雲雀くんなら深緋に入るという条件を黙って呑んでくれると思います。私と荒神くんを人質にして、桜井くんと雲雀くんに深緋に入るよう脅迫するわけですから」
「うん。もし俺が外道ならね、桜井と雲雀は……なんだろう、外道の反対って内道なのかな? 脅しがきくっていうのは、やっぱりいい人だよねえ」
……本当に、反吐が出るほどの外道だった。
そっと視線を向ける場所を変える。私達を誘拐した二人のうち、新庄に殴られた一人も含めて、扉の前に立っていた。
倉庫の内側に立っているということは、見張りではない。それなのに座らずに立たされているということは、きっとあの二人は、このソファに座る人達よりも格下なのだろう。
「……私達には何もしないんですよね? こうやって、私のことは縛りもしないわけですし。私達に手を出すと桜井くん達が深緋に入ってくれなくなるかもしれませんもんね」
「うん、しないよ」
「……私は、この後どうなるんですか?」
少し声が震えた。それは緊張もあったけれど、危害を加えられるかもしれないという、ほんの少しの可能性がほんの少し、脳裏に過ったからだ。
「あー、あんま考えてなかったなあ。桜井と雲雀が深緋に入ればまあ用済みなんだけど」
「……手土産が必要ってことは、新庄さんも深緋ではまだ下っ端なんですか?」
「おい三国」
「大丈夫だよ、荒神くん。俺はそんなに気は短くないよ」
更に私を注意する荒神くんに、新庄は喉を鳴らして笑った。
「そお、下っ端。それがどうかした?」
「……この場にいる他の五人は新庄さんに敬語を遣っているということは新庄さんのほうが格上、それなのに三人は新庄さんと同じソファに座ってるので同格とも思える、ただ倉庫の入口の二人はソファから離れて立ってるのでいかにも格下っぽい、そう思うと深緋内での上下関係が読めないなと……」
少し喋り過ぎた気がして口を閉じた。新庄が少し黙って──ゆらりと立ち上がる。荒神くんの背後にサッと隠れると、荒神くんは「三国! 散々喋って俺の後ろに隠れんのやめて!?」と緊張感のない小声と共に半分だけ私を振り向く。
その荒神くんの背中からじっと新庄を見つめる。ドッドッドッと心臓は早鐘を打ち始めていた。
「……ただ、同じクラスなので」
「へーえ。怖くなかった? だって死二神だよ?」
「……それは、別に。それよりも、あなたが――新庄篤史さんが、私と荒神くんを誘拐してまで桜井くんと雲雀くんを仲間に引き入れたい理由が、分かりません」
今度は、声が震えた。格好悪かったけれど、こんな目に遭ったことがない私の、それが精一杯だった。
「真面目っ子ちゃんには分からないって。あの二人、中学の頃からとにかく負けなしだったからね」
じっと辺りを観察する。ここにいるのは、私達を除けば六人。
「……そんな二人だから、わざわざ新庄さんも含めて六人も用意して、待ち伏せてるんですか?」
「そう。まー、六人いても、三国ちゃんとかがいると手出せないんだろうけどねえ。知ってる? 雲雀が妹のこと溺愛してる話」
新庄の、感情の起伏の薄そうな顔の中で、頬骨が少し上がる。細い目は一層細くなった。
「むかーしむかしの話だけどねえ、まあだから、あの妹、何歳だったんだろ? とりあえず誘拐するのは簡単だったんだよねえ。妹連れて行っただけで、もーあの雲雀が思うがまま。やっぱりああいうのがあると、味を占めちゃうものだよねえ、人間って」
ただ会話が続けばいいと思っていただけだったところに飛び込んできた情報に戦慄した。同時に、拳を握らずにはいられない。
「……昴夜に聞いたことあるけど、あれやったのお前か」
「ああ。お陰でこのとおり」顔の傷をなぞりながら「桜井にはばっちりやられたんだよねえ」
胸糞悪いというのは、こういう感情を言うのだろう。桜井くんが話していたことの──いわば事件の犯人が、こんなところにいた。桜井くんによればそのせいで雲雀くんは虫の息になるまで殴られ続けていた……。
「……喫煙者で外道なんて、最低ですね」
悪鬼と呼ばれる新庄に対してあまりに明け透けな物言いだったせいか荒神くんに少し小突かれたけど「なに、蛍永人の受け売り?」と新庄はさして気にしなかった。
「……新庄さんは、深緋の一員なんですよね? ここも──北海岸の漁場の三番目の倉庫って言ってましたけど、ここは深緋が使ってる倉庫なんですか?」
「いや、ここは普段は使ってないらしいねえ。俺は深緋に入ったばっかりでねえ、せっかくだから手土産のひとつでもと思って、それが桜井と雲雀ってわけ」
「そんなにあっさり、二人が深緋に入るんでしょうか」
「そのための三国ちゃんでしょ?」
「確かに、私と荒神くんがいれば、桜井くんと雲雀くんなら深緋に入るという条件を黙って呑んでくれると思います。私と荒神くんを人質にして、桜井くんと雲雀くんに深緋に入るよう脅迫するわけですから」
「うん。もし俺が外道ならね、桜井と雲雀は……なんだろう、外道の反対って内道なのかな? 脅しがきくっていうのは、やっぱりいい人だよねえ」
……本当に、反吐が出るほどの外道だった。
そっと視線を向ける場所を変える。私達を誘拐した二人のうち、新庄に殴られた一人も含めて、扉の前に立っていた。
倉庫の内側に立っているということは、見張りではない。それなのに座らずに立たされているということは、きっとあの二人は、このソファに座る人達よりも格下なのだろう。
「……私達には何もしないんですよね? こうやって、私のことは縛りもしないわけですし。私達に手を出すと桜井くん達が深緋に入ってくれなくなるかもしれませんもんね」
「うん、しないよ」
「……私は、この後どうなるんですか?」
少し声が震えた。それは緊張もあったけれど、危害を加えられるかもしれないという、ほんの少しの可能性がほんの少し、脳裏に過ったからだ。
「あー、あんま考えてなかったなあ。桜井と雲雀が深緋に入ればまあ用済みなんだけど」
「……手土産が必要ってことは、新庄さんも深緋ではまだ下っ端なんですか?」
「おい三国」
「大丈夫だよ、荒神くん。俺はそんなに気は短くないよ」
更に私を注意する荒神くんに、新庄は喉を鳴らして笑った。
「そお、下っ端。それがどうかした?」
「……この場にいる他の五人は新庄さんに敬語を遣っているということは新庄さんのほうが格上、それなのに三人は新庄さんと同じソファに座ってるので同格とも思える、ただ倉庫の入口の二人はソファから離れて立ってるのでいかにも格下っぽい、そう思うと深緋内での上下関係が読めないなと……」
少し喋り過ぎた気がして口を閉じた。新庄が少し黙って──ゆらりと立ち上がる。荒神くんの背後にサッと隠れると、荒神くんは「三国! 散々喋って俺の後ろに隠れんのやめて!?」と緊張感のない小声と共に半分だけ私を振り向く。
その荒神くんの背中からじっと新庄を見つめる。ドッドッドッと心臓は早鐘を打ち始めていた。



