桜井くんにも蛍さんにも怒られたし、なんなら能勢さんには男の目に疎いだのなんだの言われたし……。とはいえそんなことをはっきりと口に出すことはできないので黙っていたけれど、陽菜は察知してくれたらしい。にんまりとその口は弧を描く。
「じゃオススメ貸してやるよ! んーとね、最近読んだのだと『片恋ギャンブル』かな」
「……内容を要約して教えてほしい」
「えーとね、罰ゲームで好きな人と付き合うことになるんだけど、実は両片思いなの。だからヒーローはちょいちょい好きアピールするんだけど、ヒロインは罰ゲームで付き合ってるって思ってるから全部スルーしちゃって、そのせいでヒーローは片思いなんだって落ち込むんだよね。でも本当はヒロインだってヒーローのこと好きなの! でもでもヒロインにはヒロインを好きな幼馴染もいるの! 読んでてめっちゃキュンキュンするよ」
何も分からなかった。「キュンキュン」という擬態語を理解できたことはないので、そんなことを言われても作風が伝わってこない。そもそも「リョウカタオモイ」という言葉を知らない。文脈から推測するに、両方が片思いだと思い込んでいる、ということだろうか。そういうことなら相手の心情を理解できずに苦悩する描写を期待できるかもしれない。
「分かった、とりあえず貸してほしい」
「いいよ、明日持ってくる。てか英凜、お前今日日直だろ? あれ持ってくんじゃないの?」
陽菜が指さしたのは教卓の上に散らばったプリントだ。2週間前のセンター模試のやり直しプリントで、明らかにクラスの人数に満たない更紙が折りたたまれて積まれている。
「……そうだね。食べたら持って行く」
「手伝おっか?」
「いいよ、少ないし」
とはいえ職員室へ行くのは雲雀くんとの付き合いを咎められた(?)日以来だから、先生達の視線はちょっと気になるところだ。……でも先生達の視線なんてものに私が気が付くわけないのだから関係ないといえば関係ない。
そんなことしか考えていなかったのに、いざ職員室へ行くと「あー、三国ちゃんじゃん」と職員室前で視線どころか声をかけられた。なぜか九十三先輩と蛍さんが、職員室前の机に横柄な態度で座り込んでいる。三人掛けの真ん中が空いているし、その机の上にはプリントと筆記用具が置かれているし、真ん中には先生が入って補習かなにかをするのだろう。
「……こんにちは」
「あ、ちょうどいいや、三国ちゃんでよくね?」
「教えるのはイヤです」
「え、なんで」
だってこんなに人が通るところで、群青の3年生の先輩達に勉強を教えるなんてそんな……気まずいことを。首をふるふると振って「とりあえずプリントを出してきますので」と職員室に引っ込んでから廊下に出ると、その隙に、空席には能勢さんがいた。ただ、椅子には座らずに立ったまま机に手をつきプリント覗きこんでいる。
「だから、キリスト教は一度結婚したら離婚できないんですよ。だったらそもそも結婚したなんてことはなかったことにすればいいという発想が出てきたわけで」
「マジかよ、ヘンリ8世ヤベーヤツだな。てか兄貴の嫁寝取るとかやべーよなー」
「寝取ってねーだろ、先に兄貴死んでんだろ」
「父親のヘンリ7世が再婚させたんですよ」
「気狂ってるよな、つかこのキャサリンかわいそー」
「コイツが離婚したがらなけりゃ俺らが余計なこと覚える必要もなかったってわけだな。やっぱ離婚ってよくねーな」
「じゃオススメ貸してやるよ! んーとね、最近読んだのだと『片恋ギャンブル』かな」
「……内容を要約して教えてほしい」
「えーとね、罰ゲームで好きな人と付き合うことになるんだけど、実は両片思いなの。だからヒーローはちょいちょい好きアピールするんだけど、ヒロインは罰ゲームで付き合ってるって思ってるから全部スルーしちゃって、そのせいでヒーローは片思いなんだって落ち込むんだよね。でも本当はヒロインだってヒーローのこと好きなの! でもでもヒロインにはヒロインを好きな幼馴染もいるの! 読んでてめっちゃキュンキュンするよ」
何も分からなかった。「キュンキュン」という擬態語を理解できたことはないので、そんなことを言われても作風が伝わってこない。そもそも「リョウカタオモイ」という言葉を知らない。文脈から推測するに、両方が片思いだと思い込んでいる、ということだろうか。そういうことなら相手の心情を理解できずに苦悩する描写を期待できるかもしれない。
「分かった、とりあえず貸してほしい」
「いいよ、明日持ってくる。てか英凜、お前今日日直だろ? あれ持ってくんじゃないの?」
陽菜が指さしたのは教卓の上に散らばったプリントだ。2週間前のセンター模試のやり直しプリントで、明らかにクラスの人数に満たない更紙が折りたたまれて積まれている。
「……そうだね。食べたら持って行く」
「手伝おっか?」
「いいよ、少ないし」
とはいえ職員室へ行くのは雲雀くんとの付き合いを咎められた(?)日以来だから、先生達の視線はちょっと気になるところだ。……でも先生達の視線なんてものに私が気が付くわけないのだから関係ないといえば関係ない。
そんなことしか考えていなかったのに、いざ職員室へ行くと「あー、三国ちゃんじゃん」と職員室前で視線どころか声をかけられた。なぜか九十三先輩と蛍さんが、職員室前の机に横柄な態度で座り込んでいる。三人掛けの真ん中が空いているし、その机の上にはプリントと筆記用具が置かれているし、真ん中には先生が入って補習かなにかをするのだろう。
「……こんにちは」
「あ、ちょうどいいや、三国ちゃんでよくね?」
「教えるのはイヤです」
「え、なんで」
だってこんなに人が通るところで、群青の3年生の先輩達に勉強を教えるなんてそんな……気まずいことを。首をふるふると振って「とりあえずプリントを出してきますので」と職員室に引っ込んでから廊下に出ると、その隙に、空席には能勢さんがいた。ただ、椅子には座らずに立ったまま机に手をつきプリント覗きこんでいる。
「だから、キリスト教は一度結婚したら離婚できないんですよ。だったらそもそも結婚したなんてことはなかったことにすればいいという発想が出てきたわけで」
「マジかよ、ヘンリ8世ヤベーヤツだな。てか兄貴の嫁寝取るとかやべーよなー」
「寝取ってねーだろ、先に兄貴死んでんだろ」
「父親のヘンリ7世が再婚させたんですよ」
「気狂ってるよな、つかこのキャサリンかわいそー」
「コイツが離婚したがらなけりゃ俺らが余計なこと覚える必要もなかったってわけだな。やっぱ離婚ってよくねーな」



