ぼくらは群青を探している

 別に私が桜井くんの感情に(にぶ)いわけじゃない。雲雀くんだって、桜井くんには私に告白した以上のことは言わなかったのだから。仮に、雲雀くんから見て桜井くんが私を好きだったとしたら、例えば──、“俺は告白したけどお前はいいのか”なんて、気遣いか、それこそ牽制(けんせい)かをしてもおかしくないのに、雲雀くんは何も言わなかった。つまり、親友の雲雀くんから見たって、桜井くんにとって私は特別じゃない。

 そうだ、私はそう思ったんだ。体育祭の日に胡桃が話すのを聞いていて、きっと私は、ずっと桜井くんの部屋のことなんて知らないままだと。桜井くんの隣に胡桃がいることがあっても、私がいることなんてないと。

 胡桃は、浮き輪を膨らませてほしいとかケーキを一口ほしいとか、桜井くんに抱き着いて甘えることを当たり前のようにできても、私にはそんなことはできないままだと。

 私と桜井くんはその程度の関係のまま変わらないんだと確信して、私は、私を好きになってくれた雲雀くんを選んだんだ。

「……やっぱり、桜井くんのこと好きなんだなあ」

 帰りのバスを降りた後、一人きりのバス停で、そっと呟いた。

***

 次の日、桜井くんは「おはよー」と言いながら教室に入ってきて、すぐに鍵を差し出してくれた。手を差し出すと、ぽとりと手のひらに冷たい鍵が降ってくる。

「……ありがと」
「昨日、なくてよかったの?」
「家におばあちゃんいるから。でも今日帰るときは困るから、持ってきてくれて助かった」

 ほら、桜井くんって忘れっぽいから、と付け加えると「さすがに鍵は忘れない、英凜困るじゃん」と明るく笑われた。その背景で、気だるそうに雲雀くんが入ってくる。体を傾けて、雲雀くんの視界に入った。

「おはよう、雲雀くん」
「……はよ」

 雲雀くんが無表情なのはいつものことなので、機嫌の良し悪しは分からない。でも耳には昨日のピアスが刺さっていた。

「なー、ゆーき、数学の予習した? 今日俺当たるの忘れてた」
「してねーし、知らねーよ」

 桜井くんは、雲雀くんのピアスには触れなかった。でも桜井くんのことだし、雲雀くんのピアスが変わっていても気づかないのだろう。

 逆に、陽菜は目敏(めざと)くチェックしていて、昼休みに二人が外へ出て行くと、すぐに私のところへやってきて「雲雀! ピアスつけてんなあ!」と興奮気味に叫んだ。

「……そうだね」
「やっぱああいうとこ雲雀はいいよな。彼女に貰ったら絶対使ってくれるの。カッコイー!」
「……雲雀くんの優しさだと思うけど」

 デザインが気に入る気に入らないなんて話しではなく、雲雀くんは私からのプレゼントなんてつけたくなかったのでは? 脳裏には、東西線のホームに降りる前の雲雀くんの顔が目に浮かぶ。三国は俺を好きじゃない──雲雀くんがそう断言できるのは、どうしてだろう。

 私が雲雀くんを好きじゃないと確信しているだけなのか。それとも、私が桜井くんを好きだと確信しているのか。

「てかさー、雲雀のことそろそろ名前で呼んだら?」
「……なんでみんなそんなに名前に拘るの」
「え、だって彼氏彼女の特権じゃん。あー、でもベッドで呼んでほしいなー、雲雀にはそうしてほしい」

 無言でお箸を進めた。さすがにベッドが何を意味するのかくらいは分かる。それにしてもみんなどこでそういう知識を……。

「……陽菜、今度なにか少女漫画貸してくれない」
「え、なんで。お前全然興味ないつったじゃん」
「……なんか恋愛について色々と学ぼうと思って」