ぼくらは群青を探している

「ほらあ、そういうのは彼氏の役目だから」
「お前、こんだけ凶器が揃ってるのによくその軽口叩けるな」
「包丁とフォークは危ないから、マジでやめて。マジで」

 ……わざわざ買い直して、明後日渡すのも変だしな。パチンと携帯電話を閉じてカバンの中に突っ込むと、ガサガサとラッピングの袋が音を立てた。

 荒神くんは結局桜井くんの家に泊まると言い、桜井くんが「侑生も泊まる?」というのを雲雀くんは「なんもないし帰る」と断り、私と雲雀くんだけが玄関の外に出た。荒神くんはもうテレビゲームを始めていたので、見送ってくれたのは桜井くんだけだった。

「んじゃまた明日ァ」
「……またね」
「おやすみ」

 桜井くんは、私に誕生日プレゼントを要求しなかった。

 でも、別に胡桃にも要求して貰ったわけではなかったしな……。歩き出しながら、ぼんやりと桜井くんの家の中での光景を振り返る。

 桜井くんは胡桃から貰うのが当たり前みたいな顔をしていた。……胡桃は何も言わなかったけど、桜井くんは胡桃の誕生日にちゃんとプレゼントを渡したのかな。4月14日って何曜日だっけ。……実力テストも4月14日だったから、金曜日か。そうなると、少なくとも夕飯までは桜井くんは私達と一緒にいたな……。なんなら東中の近くにあるガスツにいたから、桜井くんの家とは逆方向……。ということは桜井くんは胡桃の誕生日は祝わなかったのかな……。いや、向かい側なんだから、夜、そう遅くならないうちに玄関チャイムを鳴らせばいくらでも……。

「三国」

 雲雀くんに声をかけられるまで、信号が青になっていることに気が付かなかった。

「ごめん、ぼーっとしてた……」
「それはいつもだろ」
「……そういえば、桜井くんから、雲雀くんが私をぼーっとしてるって悪口言ってたって聞いたことがある」
「悪口じゃねーよ、印象だから」
「結果的に悪口なんだよ」

 歩きだしながらも、頭にはカバンの中のクッキーの袋のことがちらついていた。これを渡すことは……、もうないのだけれど、桜井くんの誕生日に何も渡さないのも……。

 ……というか、雲雀くんの誕生日プレゼントは渡さなければ。駅前に差し掛かったところではたと気付いて、慌ててカバンの中を漁った。ガサリと、桜井くんに渡せなかったクッキーの袋が音を立てた。

「なんか忘れ物?」
「そうじゃなくて、誕生日プレゼント」

 ブルーの包装紙に包まれた四角い箱を取り出して差し出す。雲雀くんはきょとんと目を丸くして立ち止まった。雲雀くんも雲雀くんでどこか頓珍漢(とんちんかん)だな、自分の誕生日なのにその想定をしないなんて。

「……その、渡すタイミングがなくて。胡桃が渡してるときに一緒に渡せばよかったんだけど……、桜井くんのぶんがないから」

 本当は用意してたけど、クッキーを嫌いだと知ったので渡せなかった、そんなことは口に出せなかった。桜井くんのぶんも用意していたことを雲雀くんに言うべきではないのかもしれないと咄嗟の判断が働いたのと……、私がそれほどまでに桜井くんを知らないのだと口にしたくなかった。

 駅前で唐突に思い出しただけで、いわゆる雰囲気もなにもない、プレゼントを渡すには適切さも適格さもない状況だった。

 でも、雲雀くんの機嫌が少し良くなったかもしれない。今までだって別に機嫌が悪そうだったわけではないけれど、いつもの無表情から頬が緩んだ。

「……ありがとう」

 手のひらサイズのボックスを、差し出された手のひらに載せた。

「……開けていいか」