「いま予備校から帰ったんだもん。昴夜にプレゼントだけ渡して帰るよ、出る時間、お母さんに言っちゃったし」
「ケーキは? 食べないの?」
「今から晩ご飯だし。ていうか英凜はこんな遅くまで大丈夫なの?」
胡桃の視線が掛け時計を見る。この文脈でそう言われるということは、きっと母親への報告だのなんだのを気にかけてくれているのだろうけれど、そんなものは私には必要ない。
「大丈夫。バスもまだあるし」
「そう? 英凜のお母さんって結構放任なんだね、真面目な子って親が厳しいイメージあったけど」
「胡桃、結局ケーキ要らないんだよね? 胡桃の分切らないよ?」
桜井くんがわざわざ台所から顔を出して確認したのは、もしかしたら私の親の話をやめさせるためだったのかもしれない。でも自意識過剰といわれればそうかもしれないと頷ける、その程度のことでもあった。
「いいよ、別に。あ、でもやっぱり一口食べたい。昴夜の分ちょっとちょうだい」
「えー、やだ、俺の分少なくなるじゃん」
「五等分して一切れお前の朝飯にすれば?」
雲雀くんは変わらず台所から顔を出さず、桜井くんが「いいの?」と顔だけ振り向かせ「いいよ別に」と声だけ返ってきた。本当に雲雀くんと桜井くんが話していると兄と弟みたいだな……。とはいえ私と荒神くんも、二人に任せてケーキが切られてくるのを待っているので、この場でお兄さん気質なのは雲雀くんだけかもしれない。
そんな台所に桜井くんと胡桃が引っ込んで「ていうかプレートは? あのお誕生日おめでとうみたいなの」「この年でそんなんつけないよ」と喋り始め、代わりに雲雀くんが戻ってきた。いや、避難してきたというほうが正しいかもしれない。
「……確かに、ケーキのプレートはつけなかったの?」
「要らなくね、この年で」
「あれ貰えると得した気分になるけど別に美味くないしな」
「だろ」
台所からは「ていうか昴夜、それ五等分できてなくない?」「じゃあ胡桃がやってくれればよかったじゃん」「あたしが来たときもう切ってたでしょ」と、まるで彼氏と彼女のような会話が聞こえてくる。桜井くんと胡桃が二人で喋っているのなんていつものことなのに、つい耳を欹ててしまっていることに気付いた。……いつのことだったかは思い出せないけど、こんなことが前にもあった。
……テーブルの上を片付けるついでに台所へ行こう。そんな口実を自分の中で見つけて、テーブルの上に残ったお皿を重ねて台所へ持って行く。台所テーブルの上に載っているホールケーキには、なんとか五等分になるようにと努力したらしい少しいびつな直線が引かれている。切り分けたケーキをお皿に乗せる段階らしく、ちょうど胡桃が「お皿は? どれ使うの?」と上の棚に手を伸ばしていた。
「4枚セットになってるヤツ。黄土色の」
「そんなのないよ? こっちの灰色のじゃない?」
「えー、どれ?」
胡桃の後ろから、桜井くんが手を伸ばす。ひょいとでも聞こえてきそうな余裕のある手の伸ばし方だった。既視感があると思ったら、夏休み前、家に桜井くんと雲雀くんが来たとき、私の代わりに雲雀くんがお茶筒を取ってくれたときと同じだった。胡桃が私で、桜井くんが雲雀くんだ。
……桜井くん、本当に背伸びたんだな。胡桃の頭上から悠々とお皿を引っ張り出した桜井くんは「これ黄土色じゃない?」「え、灰色でしょ、何言ってんの」とまた胡桃に怒られている。
「昴夜、中学のとき赤と白が混ざったらオレンジになるとか言ってたよね」
「そうだっけ? なんでそんなこと覚えてんの」
「ケーキは? 食べないの?」
「今から晩ご飯だし。ていうか英凜はこんな遅くまで大丈夫なの?」
胡桃の視線が掛け時計を見る。この文脈でそう言われるということは、きっと母親への報告だのなんだのを気にかけてくれているのだろうけれど、そんなものは私には必要ない。
「大丈夫。バスもまだあるし」
「そう? 英凜のお母さんって結構放任なんだね、真面目な子って親が厳しいイメージあったけど」
「胡桃、結局ケーキ要らないんだよね? 胡桃の分切らないよ?」
桜井くんがわざわざ台所から顔を出して確認したのは、もしかしたら私の親の話をやめさせるためだったのかもしれない。でも自意識過剰といわれればそうかもしれないと頷ける、その程度のことでもあった。
「いいよ、別に。あ、でもやっぱり一口食べたい。昴夜の分ちょっとちょうだい」
「えー、やだ、俺の分少なくなるじゃん」
「五等分して一切れお前の朝飯にすれば?」
雲雀くんは変わらず台所から顔を出さず、桜井くんが「いいの?」と顔だけ振り向かせ「いいよ別に」と声だけ返ってきた。本当に雲雀くんと桜井くんが話していると兄と弟みたいだな……。とはいえ私と荒神くんも、二人に任せてケーキが切られてくるのを待っているので、この場でお兄さん気質なのは雲雀くんだけかもしれない。
そんな台所に桜井くんと胡桃が引っ込んで「ていうかプレートは? あのお誕生日おめでとうみたいなの」「この年でそんなんつけないよ」と喋り始め、代わりに雲雀くんが戻ってきた。いや、避難してきたというほうが正しいかもしれない。
「……確かに、ケーキのプレートはつけなかったの?」
「要らなくね、この年で」
「あれ貰えると得した気分になるけど別に美味くないしな」
「だろ」
台所からは「ていうか昴夜、それ五等分できてなくない?」「じゃあ胡桃がやってくれればよかったじゃん」「あたしが来たときもう切ってたでしょ」と、まるで彼氏と彼女のような会話が聞こえてくる。桜井くんと胡桃が二人で喋っているのなんていつものことなのに、つい耳を欹ててしまっていることに気付いた。……いつのことだったかは思い出せないけど、こんなことが前にもあった。
……テーブルの上を片付けるついでに台所へ行こう。そんな口実を自分の中で見つけて、テーブルの上に残ったお皿を重ねて台所へ持って行く。台所テーブルの上に載っているホールケーキには、なんとか五等分になるようにと努力したらしい少しいびつな直線が引かれている。切り分けたケーキをお皿に乗せる段階らしく、ちょうど胡桃が「お皿は? どれ使うの?」と上の棚に手を伸ばしていた。
「4枚セットになってるヤツ。黄土色の」
「そんなのないよ? こっちの灰色のじゃない?」
「えー、どれ?」
胡桃の後ろから、桜井くんが手を伸ばす。ひょいとでも聞こえてきそうな余裕のある手の伸ばし方だった。既視感があると思ったら、夏休み前、家に桜井くんと雲雀くんが来たとき、私の代わりに雲雀くんがお茶筒を取ってくれたときと同じだった。胡桃が私で、桜井くんが雲雀くんだ。
……桜井くん、本当に背伸びたんだな。胡桃の頭上から悠々とお皿を引っ張り出した桜井くんは「これ黄土色じゃない?」「え、灰色でしょ、何言ってんの」とまた胡桃に怒られている。
「昴夜、中学のとき赤と白が混ざったらオレンジになるとか言ってたよね」
「そうだっけ? なんでそんなこと覚えてんの」



