水曜日、桜井くんと雲雀くんの誕生日だということで、桜井くんの家で二人のお誕生日会をする──ために、ひたすら餃子を作ることになった。
学校帰りに私と雲雀くんで買い出しを済ませ、桜井くんの家に行き、二人が餃子のタネを作り、居間のテーブルにどんとボウルと皮とお皿とを置いて、餃子作りに取り掛かる。そんなことをしながら月曜日にあった一連の出来事を報告すると、雲雀くんは「ふーん、妹か」と頷いた。
「姉貴が死んでるだのなんだのって話があったけど、あれ結局妹だったんだな」
「うん、いや死んでないんだけど。妹がいるんだって話は能勢さんから聞いてたけど……、本当に全然似てないし、気付かないよね」
「そりゃ苗字違えばな」
「てか結局永人さんも妹溺愛してんじゃんね。兄貴ってみんなそうなの?」
「知らね」
「溺愛っっていうか……なんやかんや大事って感じじゃない? 中学になってから会話もしてないみたいな話してたし……」
「てか先輩らみんなそんな感じだよな。妹欲しかったとか妹いたら絶対溺愛してたみたいな話、時々してる。ツクミン先輩とか、もう一人頑張ってほしかったってよく言ってるし、だから英凜のこと好きなのかな?」
「妹を溺愛するお兄ちゃんなんてフィクションにしかないんだと思ってた」
「英凜と兄貴ってどうなの?」
「……別に仲悪くはないけど。おかずとか果物とか、よく盗られてたし、プロレス技かけられた記憶もあるし……。あのお兄ちゃんに実は溺愛されてなんて聞いたら寒気がする」
「喧嘩の内容つか扱いが完全に男兄弟のそれだな」
「侑生は? 妹の飯盗んの?」
「盗らねーよ」
「雲雀くんは分けてあげそう」
「やっぱシスコンじゃん、キモチワルッ」
「お前それ言いたかっただけだろ」
ピンポーン、と玄関チャイムが鳴って、桜井くんが顔を上げた。私と雲雀くんも顔を上げつつ、でも手元で餃子の皮にタネを包むのは止めない。
「牧落か?」
「ううん、アイツならチャイムの次に声かける」
「こーやー」
「舜だ」
声は聞こえたけど、荒神くんのものだった。桜井くんが「開いてるー!」と声を張り上げれば、ガラガラと引き戸の開く音がし、ドタドタと足音が聞こえ、すぐに襖が開いた。学校から直接来たにしては少し遅いけど、制服姿でカバンも持っていた。
「よっす。あ、やっぱ侑生と三国もいると思った」
「手洗ってこい。んでさっさと手伝え」
「なにこれ餃子?」
居間のテーブル上に並んだお皿、そしてそのお皿に敷き詰められた生の餃子を見て、荒神くんは眉を吊り上げた。
「なんでこんな作ってんの?」
「4人で割ったら大した数ねーよ」
「てかまだタネと皮あるから手洗って来てつってんじゃん。はやく」
ドタドタとやってきた荒神くんはまたドタドタと足音をさせていなくなり、すぐにまたドタドタと戻ってきて、桜井くんと雲雀くんの間に座り込んだ。
「これどうやって包むの?」
「見りゃ分かんだろ」
「見て分かったら聞かねーよ。三国おーしえて」
「言っとくけど、英凜の餃子が一番下手だよ」
……桜井くんに心の傷を抉られて黙り込んだ。荒神くんは「え?」と笑顔のまま首を傾げ、お皿に並んだ餃子を見る。そこにはいかにも製作者が3人いますと言わんばかりの三者三様の餃子が並べられている。中程度の大きさできちんと口を閉じられたもの、大振りでタネはパンパンだけどなんとか口は閉じられているもの、そして大きさと口の閉じ方にばらつきがあるもの……。
荒神くんは首を傾げたままじっと餃子を観察した。
「……まあ、侑生は手先器用だもんな。このピターッと揃ってんのは侑生のだな」
「正解」
言いながら、雲雀くんは新しく包んだ餃子をお皿の上に置いた。
「んでー、昴夜は飯は上手いけど別に手先器用じゃないもんな。あと男飯って感じがする。このデカいのだな」
「せいかーい」
「……ってことはこれ三国か……」
「……剥がれてるところは見つけたらくっつけ直してもらえると」
荒神くんの眉が、悲痛そうとは言わずとも、少しだけ切なそうに八の字になった。雲雀くんと桜井くんと一緒に餃子を包んで、それで一番下手なのが私だなんて、女の子として泣けてくる──きっとそんな気持ちを、荒神くんは私の代わりに顔に出してくれているに違いない。
「だいじょーぶだいじょーぶ、俺手先不器用だし、餃子とか包んだことないし」
それは私に対するフォローなのかなんなのか。フォローされているとしても、荒神くんが私より餃子を包むのが下手なんて事実は私の地位を左右しない。
学校帰りに私と雲雀くんで買い出しを済ませ、桜井くんの家に行き、二人が餃子のタネを作り、居間のテーブルにどんとボウルと皮とお皿とを置いて、餃子作りに取り掛かる。そんなことをしながら月曜日にあった一連の出来事を報告すると、雲雀くんは「ふーん、妹か」と頷いた。
「姉貴が死んでるだのなんだのって話があったけど、あれ結局妹だったんだな」
「うん、いや死んでないんだけど。妹がいるんだって話は能勢さんから聞いてたけど……、本当に全然似てないし、気付かないよね」
「そりゃ苗字違えばな」
「てか結局永人さんも妹溺愛してんじゃんね。兄貴ってみんなそうなの?」
「知らね」
「溺愛っっていうか……なんやかんや大事って感じじゃない? 中学になってから会話もしてないみたいな話してたし……」
「てか先輩らみんなそんな感じだよな。妹欲しかったとか妹いたら絶対溺愛してたみたいな話、時々してる。ツクミン先輩とか、もう一人頑張ってほしかったってよく言ってるし、だから英凜のこと好きなのかな?」
「妹を溺愛するお兄ちゃんなんてフィクションにしかないんだと思ってた」
「英凜と兄貴ってどうなの?」
「……別に仲悪くはないけど。おかずとか果物とか、よく盗られてたし、プロレス技かけられた記憶もあるし……。あのお兄ちゃんに実は溺愛されてなんて聞いたら寒気がする」
「喧嘩の内容つか扱いが完全に男兄弟のそれだな」
「侑生は? 妹の飯盗んの?」
「盗らねーよ」
「雲雀くんは分けてあげそう」
「やっぱシスコンじゃん、キモチワルッ」
「お前それ言いたかっただけだろ」
ピンポーン、と玄関チャイムが鳴って、桜井くんが顔を上げた。私と雲雀くんも顔を上げつつ、でも手元で餃子の皮にタネを包むのは止めない。
「牧落か?」
「ううん、アイツならチャイムの次に声かける」
「こーやー」
「舜だ」
声は聞こえたけど、荒神くんのものだった。桜井くんが「開いてるー!」と声を張り上げれば、ガラガラと引き戸の開く音がし、ドタドタと足音が聞こえ、すぐに襖が開いた。学校から直接来たにしては少し遅いけど、制服姿でカバンも持っていた。
「よっす。あ、やっぱ侑生と三国もいると思った」
「手洗ってこい。んでさっさと手伝え」
「なにこれ餃子?」
居間のテーブル上に並んだお皿、そしてそのお皿に敷き詰められた生の餃子を見て、荒神くんは眉を吊り上げた。
「なんでこんな作ってんの?」
「4人で割ったら大した数ねーよ」
「てかまだタネと皮あるから手洗って来てつってんじゃん。はやく」
ドタドタとやってきた荒神くんはまたドタドタと足音をさせていなくなり、すぐにまたドタドタと戻ってきて、桜井くんと雲雀くんの間に座り込んだ。
「これどうやって包むの?」
「見りゃ分かんだろ」
「見て分かったら聞かねーよ。三国おーしえて」
「言っとくけど、英凜の餃子が一番下手だよ」
……桜井くんに心の傷を抉られて黙り込んだ。荒神くんは「え?」と笑顔のまま首を傾げ、お皿に並んだ餃子を見る。そこにはいかにも製作者が3人いますと言わんばかりの三者三様の餃子が並べられている。中程度の大きさできちんと口を閉じられたもの、大振りでタネはパンパンだけどなんとか口は閉じられているもの、そして大きさと口の閉じ方にばらつきがあるもの……。
荒神くんは首を傾げたままじっと餃子を観察した。
「……まあ、侑生は手先器用だもんな。このピターッと揃ってんのは侑生のだな」
「正解」
言いながら、雲雀くんは新しく包んだ餃子をお皿の上に置いた。
「んでー、昴夜は飯は上手いけど別に手先器用じゃないもんな。あと男飯って感じがする。このデカいのだな」
「せいかーい」
「……ってことはこれ三国か……」
「……剥がれてるところは見つけたらくっつけ直してもらえると」
荒神くんの眉が、悲痛そうとは言わずとも、少しだけ切なそうに八の字になった。雲雀くんと桜井くんと一緒に餃子を包んで、それで一番下手なのが私だなんて、女の子として泣けてくる──きっとそんな気持ちを、荒神くんは私の代わりに顔に出してくれているに違いない。
「だいじょーぶだいじょーぶ、俺手先不器用だし、餃子とか包んだことないし」
それは私に対するフォローなのかなんなのか。フォローされているとしても、荒神くんが私より餃子を包むのが下手なんて事実は私の地位を左右しない。



