「とっとと帰れってか。まあ暴走族に襲われてるとしか思えねーもんな」
「そうは言いませんけど……」
ほんの少し、逡巡した。……私が蛍さんに話すべきことは、こんな、どうでもいい場所では相応しくなかった。
「……疑ってごめんなさい」
「あ?」
それでも変にタイミングを逃してしまいたくなかった。ヘルメットを被ろうとしていた蛍さんは、そのまま膝の上にヘルメットを下ろした。
「ああ、新庄がか?」
「……もしかしたら新庄と組んでるんじゃないかって」
「あれ聞けば怪しいは怪しいだろ、別にいい。お前ら1年でろくに群青のことも知らねーしな」
蛍さんは片手でヘルメットを支えたままバイクに肘をつく。と、いうことは、蛍さんも多少は話をしてくれる気があるらしい。
「……別に今日の話を聞いたからじゃなくて」
「……前になんかあったか」
「……私の体が弱いって話」
「……弱いんじゃないのかよ。だから兄貴と別々に住んでるって言ってなかったか」
「……それをなんで知ってるんだろうって」
「んなもんお前の同級生に聞けば一発だろ。俺らが聞いたのは荒神だけど」
「……本当は弱くなんかないからですよ」
「はあ?」
なんじゃそりゃ、と蛍さんが眉を吊り上げる。そうだ、当たり前だ、思いっきり勘違いをしている荒神くんから聞けば、そうなる。
「そりゃ……なあ、お前が体育普通にやってんの知ってるし、大したことねーのかと思ってたけど。荒神が嘘吐いてんのか?」
「……荒神くんがしてるのはただの勘違いです。……荒神くんって、私のことどこまでどう話してたんですか? っていうか、荒神くんをカツアゲから助けた後で、どのくらいどんな風に聞いたんですか?」
「…………」
ガシガシと蛍さんはそのピンクブラウンの髪を掻き混ぜた。そんなことをしなくても、風のせいでその髪はぼさぼさだった。
「……そもそも、荒神はな。俺が永久パシリにしてる」
「……え?」
永久パシリ? 質問に対する斜め上の回答だったせいで首を傾げるけれど、蛍さんはだんまりだった。言いづらそうに口を真一文字に結んでいる。
「……永久パシリ、とは……その、読んで字のごとく永久にパシリにしてるんですか……?」
「……そうだよ」
「……それは、その、豊池さんの一件があったから……?」
「……そうだよ」
蛍さんは、はーあ、と秋の夜長に響く深い溜息を吐いた。
「……荒神は、うちの妹虐めてたってんで謝りに来た。んで……、これは俺の想像だが、荒神なりに反省した、そしたら男子連中内でのノリがクソ悪くなった、だからハブられてカツアゲされてた」
……豊池さんのノートを拾ったのは中学1年生。私が荒神くんと同級生だったのは中学2年生。でも中学2年生のときも荒神くんはいつも誰かに囲まれている人気者だった。
「……多分、サッカー部は1年のときに辞めてるはずだぞ。部の連中に虐められてたはずだからな」
「……そう……だったんですか……」
中学2年生のクラスにサッカー部員はいたか? そこまでは覚えていなかった。ただ「まあちょっとハブられてたのと、話聞いてる感じ、先輩連中にカツアゲされてたくらいだな」ということらしいので、クラス内で大っぴらに何かが行われていなかったとしてもおかしくはなさそうだ。
「んで……九十三が言ってた、俺らが助けたカツアゲってのは、荒神がサッカー部の先輩共にやられてたヤツ。俺らが手出したせいで、荒神は『バックに蛍がいる』って言われてる」
「そうは言いませんけど……」
ほんの少し、逡巡した。……私が蛍さんに話すべきことは、こんな、どうでもいい場所では相応しくなかった。
「……疑ってごめんなさい」
「あ?」
それでも変にタイミングを逃してしまいたくなかった。ヘルメットを被ろうとしていた蛍さんは、そのまま膝の上にヘルメットを下ろした。
「ああ、新庄がか?」
「……もしかしたら新庄と組んでるんじゃないかって」
「あれ聞けば怪しいは怪しいだろ、別にいい。お前ら1年でろくに群青のことも知らねーしな」
蛍さんは片手でヘルメットを支えたままバイクに肘をつく。と、いうことは、蛍さんも多少は話をしてくれる気があるらしい。
「……別に今日の話を聞いたからじゃなくて」
「……前になんかあったか」
「……私の体が弱いって話」
「……弱いんじゃないのかよ。だから兄貴と別々に住んでるって言ってなかったか」
「……それをなんで知ってるんだろうって」
「んなもんお前の同級生に聞けば一発だろ。俺らが聞いたのは荒神だけど」
「……本当は弱くなんかないからですよ」
「はあ?」
なんじゃそりゃ、と蛍さんが眉を吊り上げる。そうだ、当たり前だ、思いっきり勘違いをしている荒神くんから聞けば、そうなる。
「そりゃ……なあ、お前が体育普通にやってんの知ってるし、大したことねーのかと思ってたけど。荒神が嘘吐いてんのか?」
「……荒神くんがしてるのはただの勘違いです。……荒神くんって、私のことどこまでどう話してたんですか? っていうか、荒神くんをカツアゲから助けた後で、どのくらいどんな風に聞いたんですか?」
「…………」
ガシガシと蛍さんはそのピンクブラウンの髪を掻き混ぜた。そんなことをしなくても、風のせいでその髪はぼさぼさだった。
「……そもそも、荒神はな。俺が永久パシリにしてる」
「……え?」
永久パシリ? 質問に対する斜め上の回答だったせいで首を傾げるけれど、蛍さんはだんまりだった。言いづらそうに口を真一文字に結んでいる。
「……永久パシリ、とは……その、読んで字のごとく永久にパシリにしてるんですか……?」
「……そうだよ」
「……それは、その、豊池さんの一件があったから……?」
「……そうだよ」
蛍さんは、はーあ、と秋の夜長に響く深い溜息を吐いた。
「……荒神は、うちの妹虐めてたってんで謝りに来た。んで……、これは俺の想像だが、荒神なりに反省した、そしたら男子連中内でのノリがクソ悪くなった、だからハブられてカツアゲされてた」
……豊池さんのノートを拾ったのは中学1年生。私が荒神くんと同級生だったのは中学2年生。でも中学2年生のときも荒神くんはいつも誰かに囲まれている人気者だった。
「……多分、サッカー部は1年のときに辞めてるはずだぞ。部の連中に虐められてたはずだからな」
「……そう……だったんですか……」
中学2年生のクラスにサッカー部員はいたか? そこまでは覚えていなかった。ただ「まあちょっとハブられてたのと、話聞いてる感じ、先輩連中にカツアゲされてたくらいだな」ということらしいので、クラス内で大っぴらに何かが行われていなかったとしてもおかしくはなさそうだ。
「んで……九十三が言ってた、俺らが助けたカツアゲってのは、荒神がサッカー部の先輩共にやられてたヤツ。俺らが手出したせいで、荒神は『バックに蛍がいる』って言われてる」



