常盤先輩が走り去る前、そのバイクにまたがる桜井くんを振り返った。桜井くんは常盤先輩のバイクに乗る前からあれやこれやとバイクの話をしていて、バイクのことを知らない私には耳慣れない単語ばかりを口にしていた。知らない英単語は聞き取れないように、何の話をしているのかよく分からなかった。そしてバイクに乗った後は「渚先輩ってバイトいつ行ってんの?」「大体水金以外だけどなんで?」「今度侑生も誘って行こうと思って」「サービスしねえよ言っとくけど」なんでもない会話だから内容は分かったけれど、本当になんでもないだけの会話だった。
そしてそのまま、ドォンと常盤先輩のバイクから発せられる爆音に声はかき消され、轟くその音と一緒に帰って行った。
「おい三国、お前もさっさと乗りな。乗り方分かんねーとか言わねーよな?」
分かりませんけど……? ヘルメットを持ったまま呆然としていると「三国ちゃん雲雀のバイクとか乗ってないの?」ひょいと後ろから九十三先輩に抱えられ「んぎゃっ」と可愛げのない声が出た。そのままストンと蛍さんのバイクの後ろに下ろされる。本当に九十三先輩に扱われると子供にでもなった気分だ。
「つか上着着ろよ。なんで9月も終わろうかってのにティシャツ一枚で来てんだ、真夏じゃねーんだぞ」
「すいません……荷物は増やしたくなかったので……」
「お前マジで今度から俺らにかける迷惑計算に入れな」
ブチブチと厳しいことを言いながらも蛍さんは上着を貸してくれた。長袖ティシャツ一枚になるので寒そうで申し訳ない……けど多分これを断ると余計な問答で迷惑なんだろうなと思ったので「ありがとうございます……」と言うに留めた。いそいそと袖を通すと……明確に体温が伝わってきた。なんだか恥ずかしい。
「んじゃ、俺も帰るね。また明日ねー、三国ちゃん」
「……お疲れ様でした」
九十三先輩のバイクも、ドォンだかバララララだか、上手く言語化できないけたたましい音を立てて走り去った。本当に暴走族みたいだ……いや同じなのだろうか? 首を捻りながらヘルメットを被ると、まるで頭の重量が3倍くらいになったかのように首の上が重たくなった。手で持つよりも更に重たい。
「掴まってないと危ねーぞ」
「……掴まって……?」
シールド越しに「俺でもバイクでもなんでもいいからちゃんと掴まれ。事故って顔面崩壊すんぞ」なんて脅されて慌てて掴むところを探すけれど、バイクのどこかなんて掴もうにもどこを掴めばいいのか分からなかった。一生懸命ない想像力を働かせれば、運転者の腰に腕を回しているイメージが浮かんだ。……おそるおそる、蛍さんの腰を見下ろす。
「……こ、腰をお借りしても……?」
「腰借りるってなんだ。いいからさっさとしろ」
「……いや、その、さっさとしろと言われてもですね、蛍さんは慣れてるのかもしれないですけど、私は同年代の男子の腰なんて触ったこともないので、正直に言うと緊張しちゃうんですよ!」
本当に真っ正直に話すと、ぶっと吹き出す音がした。途端に自分が恥ずかしいことを言ってしまった気がして目を白黒させてしまう。
「な……なんで笑うんですか」
「雲雀の腰くらい触ったことあんだろ」
「私ってそういう変態かなにかだと思われてるんですか?」
「……アイツ、マジで十一ヶ条守ってんのか?」シールド越しの蛍さんの目はまん丸く見開かれ「すげーな、見直した。今度ジャーキーでもやるか」
「……雲雀くんは犬じゃないですよ」
「犬は桜井だったな。ほら行くぞ」
そしてそのまま、ドォンと常盤先輩のバイクから発せられる爆音に声はかき消され、轟くその音と一緒に帰って行った。
「おい三国、お前もさっさと乗りな。乗り方分かんねーとか言わねーよな?」
分かりませんけど……? ヘルメットを持ったまま呆然としていると「三国ちゃん雲雀のバイクとか乗ってないの?」ひょいと後ろから九十三先輩に抱えられ「んぎゃっ」と可愛げのない声が出た。そのままストンと蛍さんのバイクの後ろに下ろされる。本当に九十三先輩に扱われると子供にでもなった気分だ。
「つか上着着ろよ。なんで9月も終わろうかってのにティシャツ一枚で来てんだ、真夏じゃねーんだぞ」
「すいません……荷物は増やしたくなかったので……」
「お前マジで今度から俺らにかける迷惑計算に入れな」
ブチブチと厳しいことを言いながらも蛍さんは上着を貸してくれた。長袖ティシャツ一枚になるので寒そうで申し訳ない……けど多分これを断ると余計な問答で迷惑なんだろうなと思ったので「ありがとうございます……」と言うに留めた。いそいそと袖を通すと……明確に体温が伝わってきた。なんだか恥ずかしい。
「んじゃ、俺も帰るね。また明日ねー、三国ちゃん」
「……お疲れ様でした」
九十三先輩のバイクも、ドォンだかバララララだか、上手く言語化できないけたたましい音を立てて走り去った。本当に暴走族みたいだ……いや同じなのだろうか? 首を捻りながらヘルメットを被ると、まるで頭の重量が3倍くらいになったかのように首の上が重たくなった。手で持つよりも更に重たい。
「掴まってないと危ねーぞ」
「……掴まって……?」
シールド越しに「俺でもバイクでもなんでもいいからちゃんと掴まれ。事故って顔面崩壊すんぞ」なんて脅されて慌てて掴むところを探すけれど、バイクのどこかなんて掴もうにもどこを掴めばいいのか分からなかった。一生懸命ない想像力を働かせれば、運転者の腰に腕を回しているイメージが浮かんだ。……おそるおそる、蛍さんの腰を見下ろす。
「……こ、腰をお借りしても……?」
「腰借りるってなんだ。いいからさっさとしろ」
「……いや、その、さっさとしろと言われてもですね、蛍さんは慣れてるのかもしれないですけど、私は同年代の男子の腰なんて触ったこともないので、正直に言うと緊張しちゃうんですよ!」
本当に真っ正直に話すと、ぶっと吹き出す音がした。途端に自分が恥ずかしいことを言ってしまった気がして目を白黒させてしまう。
「な……なんで笑うんですか」
「雲雀の腰くらい触ったことあんだろ」
「私ってそういう変態かなにかだと思われてるんですか?」
「……アイツ、マジで十一ヶ条守ってんのか?」シールド越しの蛍さんの目はまん丸く見開かれ「すげーな、見直した。今度ジャーキーでもやるか」
「……雲雀くんは犬じゃないですよ」
「犬は桜井だったな。ほら行くぞ」



