ぼくらは群青を探している

 私は何の気なしに車を見ていたのだけれど、荒神くんは「……マズくね?」と小さく呟いた。

「え、なに?」

 一体何事――なんて尋ねる間もなく、大きな扉がスライドして男が二人降りてきた。

 そこまでくれば、さすがの私も状況を理解した。蛍さんから、そして陽菜から散々に指摘されたことは、どうやらフラグだった。フラグだけに白旗を揚げたいくらい、どうしようもない状況だった。

「三国さんだよねえ?」

 一人が、片手の携帯電話と私の顔を見比べる。きっとその携帯電話にあるのは私の顔写真だ。

「ちょっとさあ、来てくんない」

 いくら私でもこの「ちょっと来て」が相当危険なニュアンスを持っていることくらい分かる。ぶんぶん首を横に振りたい気持ちでいっぱいだった。あまりの身の危険に、相手男子のグレーのスエットは私の墓石のように思えてきた。

 途端、荒神くんが私の肩を抱いた。

「えーっと、もしかして桜井と雲雀になんか用すか?」

 まるで庇おうとするような、連れていかれるにしても私を一人では行かせまいとするような、そんな抱き方だった。

「なんか用なら、二人に直接お願いします。三国と俺、デート中なんで」
「お前、荒神だっけ? よくアイツらにくっついてるよな。ちょうどいいや、三国はこっち、お前は桜井ら連れてきて」

 そりゃそうだ、そりゃ無視だ。庇ってくれようとしたのは分かるけど、そんなことで見逃してもらえるわけがない。走って人通りのあるところまで逃げるほうがまだ望みがあったかもしれないけれど、車から二人降りてきたこの状態じゃもう無理だ。

 そうやって頭の動きは平常運転なのに、体の動きは畏縮(いしゅく)戦慄(せんりつ)しているといっても過言ではない。体は硬直しきっていて全く動こうとしない。荒神くんの口から出まかせが全く役に立たないとしても、何も言えない、何もできない私よりはずっとマシだった。

 ぎゅ、と荒神くんの手に力が籠る。

「……この子、体弱いんで、俺も一緒に行きます」
「え、そうなの? そういう話、あったっけ?」
「いや全然、知らん」
「でも荒神連れてったら誰に呼びに行かせんの」

 ああ、本当にあまりにも綺麗で分かりやすいフラグ回収だ。蛍さんのいうとおり、私は桜井くんと雲雀くんを呼びだすための非常に都合のいいエサらしい。

 それ自体はもう分かりきっていたことなのだけれど、まさか荒神くんが巻き込まれにくるとは思っていなかった。知らん顔して桜井くん達を呼びに行ってくれればそれで解放された話なのに、なんだかそこは荒神くんに申し訳ない。

 目の前にいる二人に怪しまれないように、さり気なく両手を動かした。そっと、スカートのポケットの中にある携帯電話を押さえる。大丈夫だ、ちゃんとスカートの中に携帯電話はある。

「……私、雲雀くんのケー番分かります」

 じろりと、四つの目が私を見た。なんなら荒神くんの目まで私を見た。

「……大丈夫です。私から連絡できます。荒神くんも、いなくて大丈夫です」
「いや、いやいやいや、待て待て待て、三国待て」

 それは、私一人連れて行けば大丈夫だし荒神くんは使い走りどころか何もする必要はないですという気遣いのつもりだったのだけれど「んじゃまあいいや、面倒くせえし、両方乗りな」……そう上手くは行かなかった。どうやら私の気遣いは功を奏しなかったらしい。

「……ごめん、荒神くん」
「……ごめんとかじゃなくてさあ、本当さあ、三国は本当さあ……!」

 半ば押し込まれるようにして乗せられた車の中は煙草の臭いが充満していて、蛍さんでなくても煙草が嫌いになりそうだった。腕は縛られたけど、小説でよく見るように目隠しはされなかった。桜井くん達を呼び出す予定である以上、場所を隠す理由はないからだろう。