ぼくらは群青を探している

 私達が無言でいる間、蛍さんも無言だった。片膝に頬杖をつき、片膝を指で叩きながら、ややあって目を閉じた。といってもその眉間には皺が寄っていて、なにかを考えるために余計な情報を遮断しようとしているのは明白だった。

「永人ォー? 無事ィー?」

 ただ、そこに一層余計な情報が入ってきた──九十三先輩と常盤先輩だ。どうやら蛍さんが二人を待機させているというのはハッタリではなく、本当だったらしい。現れた九十三先輩と常盤先輩は蛍さんと似たような恰好だったけれど、いかんせん二人の体格が良く、常盤先輩にいたっては咥え煙草をしているせいで蛍さん単体を見るよりも柄が悪かった。

「……なんで三国ちゃんと昴夜がいんの?」
「こんちはー」
「……しかも三国は正座だし」
「……こんにちは」

 本当は桜井くんも正座していなければならないはずなに、早々に足を崩したせいで私だけ怒られているかのような図ができあがっている。九十三先輩は私と蛍さんの間に座りながらポンポンと(なだ)めるように私の肩を叩いた。

「なに? 昴夜と浮気してるところ見つかっちゃった? だめだよー、雲雀くんがブチギレて三国ちゃん襲っちゃったらどうすんの?」

 ……もはやどこからツッコミを入れるべきなのか分からない。九十三先輩が間に入ると話がややこしくなるのでやめてほしい。

「てか永人さん、連絡くらいしてください」
「あー、悪い悪い。ちょっと様子見て帰ろうと思ったらコイツらいたから」
「新庄は? 結局なんだった?」
「知らね。三国が実質的に姫なんだからせいぜい用心しろよ、みたいな話だった」
「三国って姫なのか?」
「私に聞かれても……」
「雲雀がトップになったらそうなんじゃない? てか永人が三国ちゃんお気に入りなのせいで話がややこしいんじゃん?」

 ……ややこしくなってしまったと思っていた話が一気に原点回帰した。肝心の蛍さんは頬杖をついた姿勢を崩さず、表情も変えなかったけれど、桜井くんは「それだ!」とでもいうようにピンと姿勢を伸ばした。

 九十三先輩はわざとらしく口元に指先を当てて「……俺なんかマズイこと言っちゃった?」と首を傾げる。

「別に……今更じゃんね? 三国ちゃんも永人のお気に入りキモチワルッて思ってるもんね?」
「いや別に気持ち悪いとかそんなことは思ってないです」

 やっぱり話がややこしくなる、不要なボケを挟まないでほしい。ぶんぶんと首を横に振りながら「ただ……、その、謎だなあとは……」しどろもどろと答え、ついでに脳裏に浮かんだ、体育祭のときの写真を思い出す。

「……あと……その、なんで蛍さんのケータイに私の中学のときの写真が入ってるのかなとか……」

 九十三先輩がいつもの緩い笑顔のまま固まった。更に視界の隅で何かが落下したと思ったら、ポロッ……と常盤先輩の手から煙草が落ちたところだった。普段鋭い三白眼による視線は狼狽しきったようにうろうろと動き、ハッとして煙草を拾い上げ、携帯灰皿に押し込むように捨てる。桜井くんも地面に座り込んだまま間抜けに丸く口を開けている。

「……え。永人さんって英凜のストーカーやってたの?」
「やってねぇよぶち殺すぞ」
「……九十三さん、これ状況整理するとあれですか。永人さんがマジで三国のこと好きだったのにあれこれしてるうちに雲雀に寝取られたとか……」
「え、三国ちゃんまだ雲雀と寝てないよね!?」
「……はい?」
「よーし話がややこしくなった、黙れ」
「イッテェ!」