ぼくらは群青を探している

「……俺が1人で来たと?」
「1人だろ。深緋の1年が群青のトップに会うのにそのクソしか詰まってない頭で何の言い訳考えたんだ?」

 蛍さんは新庄と会う姿を誰かに見られても構わない、でも新庄はそうじゃない、だから1人で来たはず──そういう理屈だ。

 再び沈黙が落ちていた。もしかしたら蛍さんも1人で来たのかもしれない、そして新庄はその可能性に頭を巡らせているところなのかもしれない。でもやはり、新庄がそこまでして蛍さんと話を続けたがっているということは、それだけ群青に固執する理由があると……。

「……分かりましたよ。蛍永人は俺と交渉するつもりがない、そういうことですよねえ」

 そのわりに、新庄の声はゆったりとしたままで、蛍さんに見捨てられても困りはしないかのような、そんな悠長な態度なのが伝わってくる。

「後悔しますよ」
「次三国に手出したらお前を後悔させてやるよ」

 きっと新庄はその態度を揺るがすことはないままだったろう。蛍さんの言葉を最後に、ザク、ザクと砂利の上を静かに歩く音が遠ざかって行った。

 蛍さんがいなくなったかどうかまでは分からなかったけれど、少なくとも新庄はいなくなった。ほっと胸を撫で下ろす。蛍さんも、様子を見に来なかったということはカメラの音には気づかなかったのだろう。

 さすがにまだ声を出すわけにはいかないので、一安心だね、と言うつもりで桜井くんを見上げた。きっと桜井くんも気の抜けた顔で頷くはず──。

「英凜」

 ──はずだと思ったのに、そこには予想とは真逆の表情があった。驚いた私の逃げ道を奪うように、桜井くんは私の両脇の壁に手をつく。その行動のとおり、まるで獲物を追いつめるような表情だった。

「新庄に何もされてないって、言ったよね?」

 私が座り込んでいる足の間に膝をつき、まるで瞳を覗きこむように顔を近づけ、小声でそう(ささや)く。視界を支配するその姿に心臓が跳ねた。

 ドクドクドクドクと心臓の鼓動が速くなって──ぐっと肩が桜井くんの手に包まれるように掴まれた。ドッと更に心臓が跳ね上がる。

 なんで、一体なんで。訳が分からずに何度も何度も瞬きするけれど、目の前にいる桜井くんは表情一つ変えない。

 そうか、新庄が赤倉庫でのことを口にしたとき、桜井くんが表情を変えたのは蛍さんが知っていることに驚いたからではなく、自分が知らなかったから。桜井くんに聞かれたとき、私は何もされてないと嘘を吐いていたから……。

 でもなんで? そんなに怒る? いや、そもそもこれは怒ってる? なにがなんだかさっぱり分からずに困惑する私をどう思ったのか、まるで不信感を募らせるように、その目は細められる。

「……侑生には言ったの?」

 こく……と無言で首を縦に振った瞬間、桜井くんの指が肩に食い込んで「いっ……」反射的に声が漏れた。無意識だったのか、すぐに指の力は緩んだし、桜井くんはちょっとだけバツが悪そうな顔になった。

 そのまま、手は私の肩を離れた。それでも戻ったのは最初の場所、社の壁で、私を逃がしてはくれない。

「……なんで俺には言ってくれないの。俺が彼氏じゃないから?」

 ぶんぶんと更に首を横に振りながら「……違う、そうじゃなくて、たまたま」早口で言い訳を──いや、言い訳じゃなくて事実だけど──口走る。

「私から言ったわけじゃなくて、たまたま雲雀くんに気付かれて……」
「……あ、そう。でも俺、聞いたよね、何かされなかったかって」
「……心配かけちゃいけないと思って」
「……そういうことされると寂しいんだよ」