ぼくらは群青を探している

「俺だけじゃないですよ、三国ちゃん狙ってんの。だって便利ですよねえ、三国ちゃん押さえれば群青のトップ押さえられるんだから。3月にカノジョさんと別れたんですっけ? その話聞いたとき、蛍永人、戦争下手だなって笑っちゃいましたよ。別れるくらいどうでもいい相手なら(おとり)に残しとけばよかったのに」

 桜井くんと雲雀くんによれば、通常はトップの彼女が姫。ということは、蛍さんがあの元カノさん──曽根(そね)真理子(まりこ)さんと付き合っていれば、自動的に曽根さんが姫の座に座っていたはずだったのか。そして新庄の話ぶりからすれば、姫という座は必ずしも華やかなものでなく、むしろ危険な……。

 ……蛍さんが元カノさんと別れた理由には、それもあったのでは? ふと頭の中で情報が繋がる。蛍さんが群青のトップになったのも3月くらいだったはずだし……。パティスリープリティーに一緒に行かなかったのが決定打になったとしても、蛍さんならそれくらいの配慮をしてもおかしくはない……。

「夏祭りの件は、氷山の一角。本当に戦争下手。お気に入りだかなんだか知りませんけど、三国英凜を群青に入れたのは痛恨のミス」

 ……蛍さんが私を群青に入れた理由は、ずっと分からないまま頭の片隅にあった。蛍さんの携帯電話の中に入っている写真との関係も……。

「てかマージで雲雀と付き合うの早すぎて笑っちゃいましたよねえ。存外ビッチの才能あったりして。てかあの日|犯()っちゃえばよかったかなあ、雲雀が処女食おうとしたらありませんでしたってサイッコーに笑える──」

 その時、私と桜井くんの間で、ウイイィンと小さな機械音がした。はっとして見下ろす先には、トートバッグの中でカメラを格納するデジタルカメラがある。そうだ、起動したままだったから時間が経って自動的に電源が落ちたんだ。

 そしてその音が、蛍さん達に聞こえているのか、私達には分からなかった。ごく小さい音だったし、トートバックの中にあったのでそんなに音は響かなかったはずだ。でも自分の顔が青ざめるのを感じる程度にははっきりとした音だった。

 蛍さんと新庄の声は聞こえなかった。……つまり、音に気付いた可能性が高い。

 ゴクリと緊張で喉が鳴った。見上げた先の桜井くんも唇を一の形に引き結んで首をぶるぶる振っている。どうする。まだ蛍さんの話の意味を精査できていないから隠れるに越したことはない。でもどこに隠れる。私達が座り込んでいる側に、社の扉もないのに──。

「……それだけか」

 ──セーフ、だった。桜井くんもホッとしたようにその口を開いた。溜息は聞こえないけれど、その口から安堵の溜息を吐き出したことは分かる。

「もう群青のポストは要らねー、桜井雲雀がいるのは自分のお陰だ感謝しろ、俺が三国を気に入ってるから今度はお前だけじゃなくて他の連中も狙うぞ。……で? お前そんなことのために俺呼び出したのか?」

 苛立った声。やっぱり、蛍さんと新庄は反目し合っている?

「違うだろ? “まだ俺のこと好きになってくれませんか”なんて言いに来たんだろ? ヘッタクソな告白してんじゃねーよ、モテねーだろお前」

 ……新庄は“どうしても群青に入りたい”? 新庄にとって群青の何にそこまでの魅力があるのだろう。

「何度言われようが俺はお前を群青に入れる気は一切ない。んでお前をぶち殺さねーのは、今の群青と深緋が喧嘩する理由がないからだ。分かったらとっとと帰りな。つか5秒以内に消えねーと、下の九十三と常盤(ときわ)にお前をボコらせる」