ぼくらは群青を探している

 最初から? 群青のポスト? ショックと恐怖に支配されていた頭がゆっくりと回り始める。そうだ、これはチャンスなんだ。蛍さんと新庄の関係と蛍さんの秘密を知る、最大のチャンス。

「いまはもう興味ありませんよ、残念でしたねえ」
「残念もクソもあるかよ。お前なんか熨斗(のし)つけて返すってヤツだ」
「またまた。俺のお陰で桜井雲雀は群青に入ったのに」

 やっぱり、最初に新庄が私を拉致したのは蛍さんが噛んでのことだった? 桜井くんにも知恵を借りるべく見上げたけれど、肩を竦めて返されただけだった。

「恩着せがましいヤツだな。三国拉致って犯そうとしてそれ言うか?」

 蛍さんの口ぶりは肯定も否定もしないのではっきりとは分からない。ただ、桜井くんの目は剣呑(けんのん)さを帯びる。

 何かに気付いたのだろうか……、と考えてこんでいて、蛍さんは私が新庄に手を出されたと知らないはずだと思い出す。あの話をしたのは雲雀くんだけだ。

 蛍さんも雲雀くんと同じく、私が押し倒されていた床に煙草があったから分かったのだろうか。いや、雲雀くんは、どちらかというとラブホでの私の怯え方を思考の土台にしたのであって、煙草のことはあくまで補完的な思考材料に過ぎなかったはずだ。となると、煙草だけをヒントに蛍さんが気付くはずがない……。新庄から聞いた?

「現に犯しはしてないでしょ。てか、ちゃんと噂聞いてます? 群青1年の三国英凜は蛍永人のお気に入り。でも、“姫”じゃない」

 “お気に入り”と“姫”は違うのだろうか? でも確かに、先輩達には可愛がってもらってるけど、姫という肩書が似合いそうな丁重な扱いを受けているわけではない。その扱いはどちらかといえば胡桃が受けているものだ。部外者だけど。

「本当は三国英凜を姫にでも何にでもしたかったんじゃ? てか蛍永人のお気に入りって考えると実質的には姫ですよねえ? しかも群青に女子メンバーがいるとか、聞いたことがない。“姫”って肩書をつけたくなかったってのが、バレバレ」

 肩書にこだわった……。一体どういう意味……。

「そりゃそうですよねえ、1年のとき、群青の姫がどうなったか、てか姫のせいでどうなったか、よく知ってますもんねえ? あの二の舞が起こったら困る、よーく分かりますよ」

 蛍さん達が1年生のときの群青の姫……? 夏休み、海で九十三先輩が話をしている後ろ姿が脳裏に浮かんだ。群青の姫に手を出されたので商工に乗り込んだ、刃物まで使う喧嘩をした、九十三先輩や蛍先輩を含む今の群青の3年生も参加した、と。

 その二の舞……。確かにその喧嘩の行く末は聞いていない。その群青の姫だったという人は、一体どうなったのだろう。

 そして蛍さんは無言だった。新庄の言葉を肯定するように、じっと黙っている。

「でもねえ、それ、逆効果ですよねえ? 群青のたった一人の女の子、蛍永人のお気に入り、群青の幹部上から3人にカノジョはいない、2年の幹部候補はカノジョなし、1年の幹部候補の雲雀のカノジョ。誰がどう聞いたって、そういうのを姫って言うんですよねえ?」

 そうなの? 眉を(ひそ)めて桜井くんに無言で問いかけるけど、桜井くんは何のリアクションも取らないどころか、視線さえ落としてこなかった。

「俺が裏で手をまわして三国ちゃんを襲ったなんて、そんな人聞きの悪い」

 そんな中、新庄がもったいぶるように、最初の問いにもう一度答える。まるでその下劣な笑みが脳裏に浮かぶようだった。