ぼくらは群青を探している

 桜井くんは「んー」と悩まし気な声を出しながら頭を私の肩から外す。離れてしまった重みは跡形もなく、頭を載せていた事実なんて最初からなかったかのようだった。

「……でも売り方変えないとさあ、背伸びてきたから」
「……別に、売らなくてもいいじゃん。モテたいってこと?」
「え、うん」
「なんで?」
「モテないよりモテるほうがいいじゃん」
「……そうかな」
「英凜はモテたくないの?」
「……考えたことなかったけど」

 うーん、と首を傾げる。急に話が変わったせいで頭がちょっとついて行かないけれど、直感的に“モテたい”というわけではないという答えは出ていた。もう少し考えれば、いろんな男子から好きだと言われるのは、正直面倒くさいし、結局私の性質が変わらない以上、好きにさせた私が悪いみたいに言われそうで損しかない、なんて笹部くんの影響を受けたせいかのような理屈が頭に浮かんだ。

「……でも、いわゆるモテる要素みたいなのはほしいかもしれない」
「モテたいってことじゃないの、それ?」
「別に不特定多数の男子から次々と告白されたいわけじゃないんだけど……」

 たとえば蛍さんから本気の求愛なんてされても困るし、九十三先輩だってそうだ。能勢さんにも実は裏で好かれてましたなんて、そんなの気まずいだけだ。その意味では次々とモテたくはない。

 でも、みんなが可愛いって言う胡桃みたいに、色白で、華奢で、明るくて、桜井くんの部屋に知らん顔して乗り込めるような、そしてそれが許される子だったら……。

「大体の男子が好きになりそうな要素を持ってれば、好きな人に好かれる確率が上がるから……」

 桜井くんは無言だった。膝の上に頬杖をつき、ぱち、と長い睫毛を上下させる。

「……英凜、侑生以外に好きな男いんの?」

 ――胸にある血管が一斉にキュッと収縮したような感覚が走った。

 その瞬間「来てねーのかよ」独り言のような小さな声が聞こえ、ハッと私と桜井くんは口を(つぐ)んだ。

 ……この、声は。

 桜井くんと顔を見合わせ、地面にゆっくりと「8」を書く。桜井くんもこくこくと首を激しく縦に振った。桜井くんも頷くということは間違いない。

 なぜか、そこに蛍さんが来ている。

 私達は立ち入り禁止のところに立ち入っているわけではない。見つかっても問題はない。ただ、昨日紅鳶神社であれこれするなと注意されたばかりで、しかも今も桜井くんにまで怒られたばかりなのに、蛍さんにまでこんなところを見つかりたくない。

 それを伝えたくてぶんぶんを首を横に振ると、桜井くんはぱちぱちと瞬きして、腕を組んでちょっと首を傾げる。伝わってないだろうか。伝わってほしい。蛍さんに本気で怒られたら泣いてしまう。

 その蛍さんの声がしていたほうから足音が聞こえる。蛍さんがどこを目指しているのかは知らないけれど、こっちに来る可能性だって十分ある。

 桜井くんが、音を立てないようにゆっくりと立ち上がった。そのまま私にも立ち上がるように合図する。それに従ってゆっくりと立ち上がり、静かにトートバックを拾い上げた。桜井くんが遊んでいたデジカメは起動したままバッグの中で転がっている。レンズが飛び出ているのは気になるけれど、電源を切ると音がするのでこのままにしておくしかない。

 桜井くんが、蛍さんの声がしたのと反対方向を指差す。紅鳶神社の境内の地図は頭の中にないので従うしかない。こっくりと頷いて、靴の裏からパラパラと落ちる砂利が音を立てないように、ゆっくりゆっくり、足を進める。