「……でも意外と九十三先輩って2人のときだと悪ふざけしないんじゃないかな。体育祭の片づけのときとかそうだったけど、いつもどおり軽口は叩くけどそれだけっていうか……重いもの代わりに持ってくれたりするし……」
「……抱きしめられたのって1回目?」
「え、うん。それこそ悪ふざけの範疇だし、雲雀くんだって今日以外見たことないでしょ?」
「…………」
返事はなかった。でも(悪ふざけとはいえ)抱きしめられたら忘れているはずがないから間違ってはいないはず……。何か変な返事をしただろうかと不安に駆られて眉を八の字にしてしまえば、雲雀くんは目を泳がせた。
「……他にないよな」
「……うん、ないはず……。……あ、そういえば」
新庄に拉致された赤倉庫で蛍さんにバイクから降ろされるときに抱き上げられた──ということを口に出そうとして、雲雀くんがものすごい勢いでこっちを見たので一度黙った。
「……その、新庄に拉致された赤倉庫は……拉致という特殊事情があったからノーカンだよね……?」
「…………」
雲雀くんはそのまま沈黙した。隣を走り去る車のエンジン音が気になるくらいには長く沈黙していた。
「……それって昴夜だっけ」
しかも私の頭に浮かんだ光景と違ったせいで「え?」と首を傾げてしまった。でも確かに、言われてみれば蛍さんに抱き上げられた以外に桜井くんに抱きしめられてもいたんだった。……今考えると少し恥ずかしいけど、当時は何も感じなかったし、今だって抱きしめられた感覚も何も覚えていない。せいぜい言えるのは、男の子って力持ちなんだね、という程度だ。
「そういえばそんなこともあったけど、今ノーカンだよねって言ったのは蛍さんのほう。ほら、バイクから降ろしてくれたから」
「……そういえばそんなこともあったな」
それでもなお雲雀くんの表情に納得の色は見えない。なんならまた長く沈黙した。リーンリーンとひっきりなしに鳴く鈴虫のほうが私の話し相手なのかと勘違いする人がいてもおかしくないくらい、長い沈黙だった。
ややあって、その鈴虫の鳴き声に紛れて口を開くリップ音が聞こえた。
「……めちゃくちゃ話変わるけど黒烏の件は首突っ込むなよ」
……本当にめちゃくちゃ話が変わったな……。そんなに私が何かしそうに見えるかな……。
「……首を突っ込むなって言われても、ほら、私も群青の一員ではあるわけだし」
「蛍さんが言ってた証拠の捏造とかすんなよ。俺は協力しねーからな」
……確かに、仮に協力を依頼するなら雲雀くんしかいないと思っていた。
きっと、その思考を見透かされたわけではない。証拠を捏造する以上、自分以外の人間の手を映す必要があって、その協力をするのに最適なのが「彼氏」の立場の人間だなんて、誰でも辿りつく合理的な結論だった。
でも、私と雲雀くんの関係性に鑑みれば、そんなのはただの「利用」でしかないから、そんな提案ができるはずはなかった。だから、単純に怖くてできないというのもあったけれど、その意味でもその方策は私の中で却下されていた。
「……でも、証拠自体は嘘でも、事実は本当なんだから」
「捏造がどうこう言ってんじゃねーんだよ、俺は。お前を嵌めたクズのためにお前がトラウマ掘り起こす必要ねーだろって言ってんだよ」
……これは怒られてる? 雲雀くんの声が少し荒っぽいのは時々あることなので判別がつかなかった。
「……別にトラウマってほどじゃ」
「泣きついてきたヤツがなにを」
「……泣いてはなかった」
「……抱きしめられたのって1回目?」
「え、うん。それこそ悪ふざけの範疇だし、雲雀くんだって今日以外見たことないでしょ?」
「…………」
返事はなかった。でも(悪ふざけとはいえ)抱きしめられたら忘れているはずがないから間違ってはいないはず……。何か変な返事をしただろうかと不安に駆られて眉を八の字にしてしまえば、雲雀くんは目を泳がせた。
「……他にないよな」
「……うん、ないはず……。……あ、そういえば」
新庄に拉致された赤倉庫で蛍さんにバイクから降ろされるときに抱き上げられた──ということを口に出そうとして、雲雀くんがものすごい勢いでこっちを見たので一度黙った。
「……その、新庄に拉致された赤倉庫は……拉致という特殊事情があったからノーカンだよね……?」
「…………」
雲雀くんはそのまま沈黙した。隣を走り去る車のエンジン音が気になるくらいには長く沈黙していた。
「……それって昴夜だっけ」
しかも私の頭に浮かんだ光景と違ったせいで「え?」と首を傾げてしまった。でも確かに、言われてみれば蛍さんに抱き上げられた以外に桜井くんに抱きしめられてもいたんだった。……今考えると少し恥ずかしいけど、当時は何も感じなかったし、今だって抱きしめられた感覚も何も覚えていない。せいぜい言えるのは、男の子って力持ちなんだね、という程度だ。
「そういえばそんなこともあったけど、今ノーカンだよねって言ったのは蛍さんのほう。ほら、バイクから降ろしてくれたから」
「……そういえばそんなこともあったな」
それでもなお雲雀くんの表情に納得の色は見えない。なんならまた長く沈黙した。リーンリーンとひっきりなしに鳴く鈴虫のほうが私の話し相手なのかと勘違いする人がいてもおかしくないくらい、長い沈黙だった。
ややあって、その鈴虫の鳴き声に紛れて口を開くリップ音が聞こえた。
「……めちゃくちゃ話変わるけど黒烏の件は首突っ込むなよ」
……本当にめちゃくちゃ話が変わったな……。そんなに私が何かしそうに見えるかな……。
「……首を突っ込むなって言われても、ほら、私も群青の一員ではあるわけだし」
「蛍さんが言ってた証拠の捏造とかすんなよ。俺は協力しねーからな」
……確かに、仮に協力を依頼するなら雲雀くんしかいないと思っていた。
きっと、その思考を見透かされたわけではない。証拠を捏造する以上、自分以外の人間の手を映す必要があって、その協力をするのに最適なのが「彼氏」の立場の人間だなんて、誰でも辿りつく合理的な結論だった。
でも、私と雲雀くんの関係性に鑑みれば、そんなのはただの「利用」でしかないから、そんな提案ができるはずはなかった。だから、単純に怖くてできないというのもあったけれど、その意味でもその方策は私の中で却下されていた。
「……でも、証拠自体は嘘でも、事実は本当なんだから」
「捏造がどうこう言ってんじゃねーんだよ、俺は。お前を嵌めたクズのためにお前がトラウマ掘り起こす必要ねーだろって言ってんだよ」
……これは怒られてる? 雲雀くんの声が少し荒っぽいのは時々あることなので判別がつかなかった。
「……別にトラウマってほどじゃ」
「泣きついてきたヤツがなにを」
「……泣いてはなかった」



