その昼休み、二人は珍しく外に出て行こうとしなかった。陽菜は少し警戒しながら私の席の前に座ったものの、二人が「でさー、なんか新しい小麦? かなんかを使うからクッキー生地がサクサクになってて。店長とめっちゃウマ!って言いながら食った」「太るぞ」「そう、あのクッキー生地ってめっちゃカロリー高いんだよな」とまるで女子のような話をする様子にその大きな目をぱちくりさせる。
「あの二人、いつもあんな話してんの? かわいいかよ」
「んー、うん、なんか最近、桜井くん、ドーナツ屋でバイト始めたらしくて」
「かわいいかよ。いやあたしは雲雀派だけど」
そういえばクラスの女子には桜井派と雲雀派という好みの派閥があるらしい。陽菜から聞いて知った。
「でもなあ、雲雀ってなんかガード堅そうなんだよな」陽菜は声を潜めたまま「ほら、なんか昔から片想いしてる相手がいるとかさあ、そういう設定がありそうな見た目なんだよな」
「設定がありそうな見た目って、そんなのある」
「あるっしょ。いやまあ、いいんだけどね、ただの推しだし。てかそういう設定があってほしい、あの雲雀がめっちゃ気を許す幼馴染がいるみたいな」
「漫画のキャラなのかな」
「そういうとこある」
その教室の扉がバンッと勢いよく開けられた。何事かと思って振り向くと――そこにはツインテールの美少女が立っていた。
そう、美少女だ。ぱっちりした目にふさふさの睫毛に、白い肌。ダークブラウンのツインテールはサラサラで、まるでその子のために作られた髪型であるかのように似合っていた。一言でいうなら、将来への可能性しか秘めていなさそうな美少女だ。
その美少女はキャラメル色のセーターからわずかに覗く短いスカートを翻しながらつかつかと教室の中に入ってきて――バンッと桜井くんと雲雀くんの机を叩いた。
「ねえっ、実力テストの一番、五組って聞いたんだけど!」
例えば、小説の中では綺麗な声を「鈴のような声」というけれど、きっとこの子の声はそれだった。そういう、可愛らしい声だった。
「え、雲雀の幼馴染かな?」
陽菜が興奮気味に言った。本当に雲雀くんをアイドルかなにかだと思っているらしい。
でも雲雀くんは無視して菓子パンを頬張り続け、代わりに桜井くんが「侑生じゃねーよ。そこの三国」と私を差し出した。美少女の大きな目が私に向けられ――「あーっ! また負けたんだ、じゃあ!」とその綺麗な眉を跳ね上げた。
「ね、三国さんだよね? 三国英凜さん」そのまま美少女は私の机に手をかけて座り込み「くやしい……。代表挨拶負けたから、実力テストで負けるもんかって思ってたのに……」とまるで小動物のような行動をする。
「あ、あたしね、牧落胡桃。ああ、理事長はね、うちのおじーちゃん。同じ牧落でしょ」
理事長の名前なんて見た覚えはなかったから気にしたことはなかったのだけれど、言われて記憶を探れば、校舎内に貼ってある学校案内広告が浮かんだ。その案内の左下に写真と一緒に「理事長」と書いてある。もう少し頑張れば名前も思い出せる気がしたけれど、わざわざそんなことをする必要はなかった。この牧落さんが祖父だというのならそうなのだろう。
「……どうも」
「えー、てかめっちゃ可愛くない? これで頭が良いとかズルじゃない?」
いや、あなたみたいな美少女に可愛いなんて言われましても。いうなればそれは、鶴が白鷺を真っ白で綺麗だと言うようなものだ。
「胡桃、何しにきたの?」
「めっちゃ迷惑そうに言うじゃん、昴夜」
雲雀くんの机を叩いたということは少なからず仲が良いのだろうと思っていたら、桜井くんとは名前を呼び合う仲らしい。牧落さんは小動物のように小さくなったまま器用に桜井くんを振り向いた。
「だって、絶対一番だと思ってたのに、三番だよ、三番。しかも一番も二番も五組にいるって噂だったから、来るじゃん」
「侑生と胡桃ってどっちが成績いいんだろって思ってたけど、侑生なんだな」
「あ、もしかして二番は侑生? もー、なんで侑生にまで負けるかなあ」
牧落さんは机にしがみつくように手を載せたまま、今度は雲雀くんをじっと見つめた。普通の男子ならそれだけでコロッと好きになってしまいそうだったけれど、雲雀くんは「……どうも」と短い返事をしただけだった。
「ね、成績見せて」
「捨てた」
嘘じゃん。ご丁寧にクリアファイルに挟んでカバンに入れてたじゃん! と思ったけれど、嘘を吐くなりの理由があるのだろう。桜井くんもだんまりだった。牧落さんは「ちぇっ。英語、九十二点なのに六番だったから、どんくらい取ればいいのか見たかったのに」とぼやいた。
「ていうか今年の普通科、おかしくない? 侑生、なんで特別科入らなかったの?」
「俺が普通科だからだよなー」
「本当にな、お前のせいだな」
「冗談で言ったのに!」
「あー、仕方ないよね、昴夜、昔っから全然勉強できないんだもん。ね、三国さんは? なんで普通科なの?」
入試だって一番なんだから特別科でも余裕だったでしょ? そう言いながら、牧落さんの大きな目が探るように私をじっと見つめた。お陰で少しだじろぐ。
「あの二人、いつもあんな話してんの? かわいいかよ」
「んー、うん、なんか最近、桜井くん、ドーナツ屋でバイト始めたらしくて」
「かわいいかよ。いやあたしは雲雀派だけど」
そういえばクラスの女子には桜井派と雲雀派という好みの派閥があるらしい。陽菜から聞いて知った。
「でもなあ、雲雀ってなんかガード堅そうなんだよな」陽菜は声を潜めたまま「ほら、なんか昔から片想いしてる相手がいるとかさあ、そういう設定がありそうな見た目なんだよな」
「設定がありそうな見た目って、そんなのある」
「あるっしょ。いやまあ、いいんだけどね、ただの推しだし。てかそういう設定があってほしい、あの雲雀がめっちゃ気を許す幼馴染がいるみたいな」
「漫画のキャラなのかな」
「そういうとこある」
その教室の扉がバンッと勢いよく開けられた。何事かと思って振り向くと――そこにはツインテールの美少女が立っていた。
そう、美少女だ。ぱっちりした目にふさふさの睫毛に、白い肌。ダークブラウンのツインテールはサラサラで、まるでその子のために作られた髪型であるかのように似合っていた。一言でいうなら、将来への可能性しか秘めていなさそうな美少女だ。
その美少女はキャラメル色のセーターからわずかに覗く短いスカートを翻しながらつかつかと教室の中に入ってきて――バンッと桜井くんと雲雀くんの机を叩いた。
「ねえっ、実力テストの一番、五組って聞いたんだけど!」
例えば、小説の中では綺麗な声を「鈴のような声」というけれど、きっとこの子の声はそれだった。そういう、可愛らしい声だった。
「え、雲雀の幼馴染かな?」
陽菜が興奮気味に言った。本当に雲雀くんをアイドルかなにかだと思っているらしい。
でも雲雀くんは無視して菓子パンを頬張り続け、代わりに桜井くんが「侑生じゃねーよ。そこの三国」と私を差し出した。美少女の大きな目が私に向けられ――「あーっ! また負けたんだ、じゃあ!」とその綺麗な眉を跳ね上げた。
「ね、三国さんだよね? 三国英凜さん」そのまま美少女は私の机に手をかけて座り込み「くやしい……。代表挨拶負けたから、実力テストで負けるもんかって思ってたのに……」とまるで小動物のような行動をする。
「あ、あたしね、牧落胡桃。ああ、理事長はね、うちのおじーちゃん。同じ牧落でしょ」
理事長の名前なんて見た覚えはなかったから気にしたことはなかったのだけれど、言われて記憶を探れば、校舎内に貼ってある学校案内広告が浮かんだ。その案内の左下に写真と一緒に「理事長」と書いてある。もう少し頑張れば名前も思い出せる気がしたけれど、わざわざそんなことをする必要はなかった。この牧落さんが祖父だというのならそうなのだろう。
「……どうも」
「えー、てかめっちゃ可愛くない? これで頭が良いとかズルじゃない?」
いや、あなたみたいな美少女に可愛いなんて言われましても。いうなればそれは、鶴が白鷺を真っ白で綺麗だと言うようなものだ。
「胡桃、何しにきたの?」
「めっちゃ迷惑そうに言うじゃん、昴夜」
雲雀くんの机を叩いたということは少なからず仲が良いのだろうと思っていたら、桜井くんとは名前を呼び合う仲らしい。牧落さんは小動物のように小さくなったまま器用に桜井くんを振り向いた。
「だって、絶対一番だと思ってたのに、三番だよ、三番。しかも一番も二番も五組にいるって噂だったから、来るじゃん」
「侑生と胡桃ってどっちが成績いいんだろって思ってたけど、侑生なんだな」
「あ、もしかして二番は侑生? もー、なんで侑生にまで負けるかなあ」
牧落さんは机にしがみつくように手を載せたまま、今度は雲雀くんをじっと見つめた。普通の男子ならそれだけでコロッと好きになってしまいそうだったけれど、雲雀くんは「……どうも」と短い返事をしただけだった。
「ね、成績見せて」
「捨てた」
嘘じゃん。ご丁寧にクリアファイルに挟んでカバンに入れてたじゃん! と思ったけれど、嘘を吐くなりの理由があるのだろう。桜井くんもだんまりだった。牧落さんは「ちぇっ。英語、九十二点なのに六番だったから、どんくらい取ればいいのか見たかったのに」とぼやいた。
「ていうか今年の普通科、おかしくない? 侑生、なんで特別科入らなかったの?」
「俺が普通科だからだよなー」
「本当にな、お前のせいだな」
「冗談で言ったのに!」
「あー、仕方ないよね、昴夜、昔っから全然勉強できないんだもん。ね、三国さんは? なんで普通科なの?」
入試だって一番なんだから特別科でも余裕だったでしょ? そう言いながら、牧落さんの大きな目が探るように私をじっと見つめた。お陰で少しだじろぐ。



