「そこじゃねーよぶん殴るぞ」
夕飯は要らないかもしれないとは言ったけど、一応おばあちゃんに電話をしておこう、と携帯電話を取り出しながら、ふと、最近おばあちゃんとご飯を取る時間が減っていることを考える。中学生のときも、陽菜とご飯を食べに行くくらいあったけれど、こんなに頻繁じゃなかったし、夕飯を一緒に食べないなんてなかった。
「三国ちゃんどうした?」
「……いえ、夕飯は要らないと電話をしておこうと……」
「ああ、あるよねそういうシステム」
先輩達から離れて電話をかけながら、さっきの続きを考える。おばあちゃんは、私がこうして外で遊ぶようになって、寂しい思いはしていないだろうか。
そうして私が参道から離れて電話をしているとき、通りに見えた人影が立ち止まった。その人影が鳥居をくぐって境内に入ってくるのが見えて、それが胡桃だと気づいたときに電話が繋がった。
「なにしてるの、昴夜」
「(もしもし、英凜ちゃん?)」
左右の耳に別々の音と情報が流れてくる。いつもならおばあちゃんへの伝達を優先するのに、つい胡桃へと、視線も意識も向いてしまった。
「ンゲ。胡桃なにしてんの」
「ゲッって何。学校の自習室借りてたの。ほら、今日3年生が模試で自習室空いてたから」
「(英凜ちゃん?)」
「あ、ごめん、うん、英凜」
桜井くんと胡桃が話す光景から慌てて目を逸らした。そうでもしないとおばあちゃんと話なんてできなかった。
「……おばあちゃん、詐欺流行ってるから名前呼んじゃだめって言ったでしょ」
「(ああ、そりゃいけん。気をつけんと)」
「……今日、先輩たちと晩ご飯食べるから」
「(そうかね、分かったよ)」
「……それだけ」
「(分かった分かった。帰るときは気をつけなさいね)」
「えー、あたしも一緒に食べたかった」
「俺らと飯食ってんのバレたらぶん殴られるぞ」
「自習室帰りに友達と食べるって言えばセーフなのに、もー、こういうときに限って家で食べるって言っちゃうんだよね」
電話を切った瞬間、少し離れたところにいる胡桃と桜井くん達の会話に意識を集中させてしまっていることに気付いて、なんだか堪らなく恥ずかしく感じた。2人は内緒話をしているわけでもないのに、まるで盗み聞きでもしているような気分だった。
「てか胡桃ちゃん1年じゃん、何の勉強してんの?」
「え、勉強なんていくらでもやることあるじゃないですか」
「マジかー、これが特別科と普通科の差かー。1年のときに読んだ教科書なんて保健の教科書だけだぜマジで」
会話に入らず、でも一言一句漏らさず聞いている私の近くで、ボッと音がした。振り向くと、能勢さんが煙草に火をつけているところだった。拝殿の正面には蛍さん達がいるから、そこでは煙草を吸えないのだろう。
ただ、能勢さんはまるで私に用事があったかのように、私と目を合わせる。
「ご飯、大丈夫だった?」
「あ、はい……。外で食べるかもとは言ってたんで……」
「そう。俺は今日は行かないから、また今度ね」
「……はい」
「会話、入んないの?」
そういう能勢さんこそ、胡桃よりも煙草を優先して……なんて口に出す気にはなれなかった。能勢さんが胡桃並みの美少女にも反応しないのは海で分かっていることだ。
「……私が入る必要はないでしょうし」
「そう? 雲雀くん助けてあげたら?」
夕飯は要らないかもしれないとは言ったけど、一応おばあちゃんに電話をしておこう、と携帯電話を取り出しながら、ふと、最近おばあちゃんとご飯を取る時間が減っていることを考える。中学生のときも、陽菜とご飯を食べに行くくらいあったけれど、こんなに頻繁じゃなかったし、夕飯を一緒に食べないなんてなかった。
「三国ちゃんどうした?」
「……いえ、夕飯は要らないと電話をしておこうと……」
「ああ、あるよねそういうシステム」
先輩達から離れて電話をかけながら、さっきの続きを考える。おばあちゃんは、私がこうして外で遊ぶようになって、寂しい思いはしていないだろうか。
そうして私が参道から離れて電話をしているとき、通りに見えた人影が立ち止まった。その人影が鳥居をくぐって境内に入ってくるのが見えて、それが胡桃だと気づいたときに電話が繋がった。
「なにしてるの、昴夜」
「(もしもし、英凜ちゃん?)」
左右の耳に別々の音と情報が流れてくる。いつもならおばあちゃんへの伝達を優先するのに、つい胡桃へと、視線も意識も向いてしまった。
「ンゲ。胡桃なにしてんの」
「ゲッって何。学校の自習室借りてたの。ほら、今日3年生が模試で自習室空いてたから」
「(英凜ちゃん?)」
「あ、ごめん、うん、英凜」
桜井くんと胡桃が話す光景から慌てて目を逸らした。そうでもしないとおばあちゃんと話なんてできなかった。
「……おばあちゃん、詐欺流行ってるから名前呼んじゃだめって言ったでしょ」
「(ああ、そりゃいけん。気をつけんと)」
「……今日、先輩たちと晩ご飯食べるから」
「(そうかね、分かったよ)」
「……それだけ」
「(分かった分かった。帰るときは気をつけなさいね)」
「えー、あたしも一緒に食べたかった」
「俺らと飯食ってんのバレたらぶん殴られるぞ」
「自習室帰りに友達と食べるって言えばセーフなのに、もー、こういうときに限って家で食べるって言っちゃうんだよね」
電話を切った瞬間、少し離れたところにいる胡桃と桜井くん達の会話に意識を集中させてしまっていることに気付いて、なんだか堪らなく恥ずかしく感じた。2人は内緒話をしているわけでもないのに、まるで盗み聞きでもしているような気分だった。
「てか胡桃ちゃん1年じゃん、何の勉強してんの?」
「え、勉強なんていくらでもやることあるじゃないですか」
「マジかー、これが特別科と普通科の差かー。1年のときに読んだ教科書なんて保健の教科書だけだぜマジで」
会話に入らず、でも一言一句漏らさず聞いている私の近くで、ボッと音がした。振り向くと、能勢さんが煙草に火をつけているところだった。拝殿の正面には蛍さん達がいるから、そこでは煙草を吸えないのだろう。
ただ、能勢さんはまるで私に用事があったかのように、私と目を合わせる。
「ご飯、大丈夫だった?」
「あ、はい……。外で食べるかもとは言ってたんで……」
「そう。俺は今日は行かないから、また今度ね」
「……はい」
「会話、入んないの?」
そういう能勢さんこそ、胡桃よりも煙草を優先して……なんて口に出す気にはなれなかった。能勢さんが胡桃並みの美少女にも反応しないのは海で分かっていることだ。
「……私が入る必要はないでしょうし」
「そう? 雲雀くん助けてあげたら?」



