その担任の先生は、席に着かない生徒に「ほら、座れー」と簡単に注意をした後、わいのわいのとまだ喋り続ける生徒を無視して「今週は松の木の剪定があるから正門を通るときに注意するように……」と連絡事項を口にする。
「最後、実力テストの結果が返ってきたから順番に取りにくるように」
そういえばそんなのあったな。出席番号順に返されるので、序盤に返された陽菜が「うげっ!」と顔を歪めている。でもみんなテストの結果なんてものに興味はないので、テストの結果は笑い声と一緒に早速紙飛行機になって飛んでいる。
そんな中、桜井くんはテスト結果を暫く凝視した後、目を輝かせて――こちらを向いた。
「三国! 見て! 俺、数学ビリから五十番目!」
微妙……! いや悪いは悪いのだけれど、一方で桜井くんからしたらいいのかもしれないけど、ビリから五十番目が一体どのくらいのレベルに位置づけられるのか分からない。少なくとも実力テストは中学数学の復習だったので、中学数学がろくに身についてないことは分かる。なんなら数学は五十分間鉛筆を転がしていたと言っていたので、それはただの偶然の結果だ。
「よかっ……たね……?」
「よかったー! もー、父さんが俺の成績表見るたびにショック受けてたからさー」
桜井くんはまるで子供のように私達のもとへやってきて結果を見せてくれた。実力テストは三科目だったので、その三科目の偏差値が三角形の図になり、一見して自分の習熟度が分かるようになっている。
その三角形は、書こうとしてもそこまで不規則な形には作れないだろうと言いたくなるような妙な形で(なぜか英語の偏差値を示す点だけが突き出ているせいだ)、それでもって小さかった。
でも桜井くんは嬉しいのだからそんなことを突っ込んではいけない……と思っていると「お前の脳のサイズか、これ」と雲雀くんの毒舌が考えられる限り最大の悪口を言った。
「よく見ろ! この数学の偏差値を! 40超えてるんだぞ!」
「灰桜高校の校内偏差値で40超える程度って本当に大丈夫かよ」
「っていうか、桜井くん、英語だけなんで飛び出てるの?」
そう、英語だけ突き出ているし、なんなら順位も五番と異様に突出している。いや、それ自体は大したことではないのだけれど、数学と国語の惨憺たる有様と比べると妙なくらいだ。
「あー、まーね。英語だけ結構頑張ってんの、俺」
「ふーん……?」
つい、桜井くんが中学校の成績や入試がビリだと話していたことを思い出した。英語だけでもこれだけできればビリなんてことはないはずだけれど……。まあ、「ビリ」なんて本当に最下位だけを含む概念ではないし、そんなものか。
ついでに英語だけ頑張る理由というのも少し気になったけれど、ちょうど雲雀くんが立ちあがったし、あえて詳しい理由を説明しないことにはそれこそ理由があるのだろうと考え、深入りはしないでおいた。
その雲雀くんは、結果を受け取った途端にグシャッと紙を握りしめた。
「おい三国!」そして私を振り向き「お前だろ、一番! 二番じゃねーか、俺が!」
その怒鳴り声で、教室内が騒然とした。「え、雲雀くん二番なの……?」「絶対スゲー馬鹿だと思ってた」「雲雀はほら、西中でずっとトップ張ってたじゃん」「つか今年の普通科やばくね?」と囁き声が聞こえる。
席に戻った雲雀くんは、少し皺の寄った結果を私の目の前に突き出した。桜井くんの三角形と違い、三角形は正三角形に近く、サイズも大きい。それだけ見れば五組の中では「すげー」と言われるのに、まるで汚点のように校内順位に「2」が三つ並んでいた。でも数学は満点で「1」だ。
「多分私だと思う、ごめん」
「ごめんじゃねーだろ」
「つか多分自分だと思うってすごいな、俺も言ってみたい」
呼ばれて結果を取りに行けば、担任の先生から「素晴らしい成績です」と一言言われる。校内順位に並ぶのは「1」が四つ。どうやら数学は雲雀くんと同列一位らしい。席に戻ると、桜井くんと雲雀くんがまるで子犬のように額を寄せて私の成績表を覗き込む。
「すげー……俺の三角形何個入るんだろ」
「英語と数学満点かよ。すげーな」
「数学は雲雀くんと同じじゃん」
「数学はそりゃな」
桜井くんはそのまま私の机に両手と顎をついて居座り「いいなー、俺も頭良く生まれたかったなー」とゆらゆら揺れる。先生は残りの数人にテストの結果を返すと、そさくさと出て行った。
「つか三国、マジでお前普通科にいていいのか?」雲雀くんは一ヶ月前とそう変わらない声音で「特別科にいたほうが進学有利じゃね」
「……でも」
「三国は普通だもんな」
桜井くんのその相槌が冗談半分であることくらい分かっていたけど。
「……うん」
時間が経つと深みに嵌るぞ――あの時の蛍さんの様子を思い出す。
もう遅い。多分、蛍さんが私に忠告してくれたのは、ほんの少し手遅れだった。もう私は、二人の傍にいる心地のよさに、段々と溺れて始めている。
「最後、実力テストの結果が返ってきたから順番に取りにくるように」
そういえばそんなのあったな。出席番号順に返されるので、序盤に返された陽菜が「うげっ!」と顔を歪めている。でもみんなテストの結果なんてものに興味はないので、テストの結果は笑い声と一緒に早速紙飛行機になって飛んでいる。
そんな中、桜井くんはテスト結果を暫く凝視した後、目を輝かせて――こちらを向いた。
「三国! 見て! 俺、数学ビリから五十番目!」
微妙……! いや悪いは悪いのだけれど、一方で桜井くんからしたらいいのかもしれないけど、ビリから五十番目が一体どのくらいのレベルに位置づけられるのか分からない。少なくとも実力テストは中学数学の復習だったので、中学数学がろくに身についてないことは分かる。なんなら数学は五十分間鉛筆を転がしていたと言っていたので、それはただの偶然の結果だ。
「よかっ……たね……?」
「よかったー! もー、父さんが俺の成績表見るたびにショック受けてたからさー」
桜井くんはまるで子供のように私達のもとへやってきて結果を見せてくれた。実力テストは三科目だったので、その三科目の偏差値が三角形の図になり、一見して自分の習熟度が分かるようになっている。
その三角形は、書こうとしてもそこまで不規則な形には作れないだろうと言いたくなるような妙な形で(なぜか英語の偏差値を示す点だけが突き出ているせいだ)、それでもって小さかった。
でも桜井くんは嬉しいのだからそんなことを突っ込んではいけない……と思っていると「お前の脳のサイズか、これ」と雲雀くんの毒舌が考えられる限り最大の悪口を言った。
「よく見ろ! この数学の偏差値を! 40超えてるんだぞ!」
「灰桜高校の校内偏差値で40超える程度って本当に大丈夫かよ」
「っていうか、桜井くん、英語だけなんで飛び出てるの?」
そう、英語だけ突き出ているし、なんなら順位も五番と異様に突出している。いや、それ自体は大したことではないのだけれど、数学と国語の惨憺たる有様と比べると妙なくらいだ。
「あー、まーね。英語だけ結構頑張ってんの、俺」
「ふーん……?」
つい、桜井くんが中学校の成績や入試がビリだと話していたことを思い出した。英語だけでもこれだけできればビリなんてことはないはずだけれど……。まあ、「ビリ」なんて本当に最下位だけを含む概念ではないし、そんなものか。
ついでに英語だけ頑張る理由というのも少し気になったけれど、ちょうど雲雀くんが立ちあがったし、あえて詳しい理由を説明しないことにはそれこそ理由があるのだろうと考え、深入りはしないでおいた。
その雲雀くんは、結果を受け取った途端にグシャッと紙を握りしめた。
「おい三国!」そして私を振り向き「お前だろ、一番! 二番じゃねーか、俺が!」
その怒鳴り声で、教室内が騒然とした。「え、雲雀くん二番なの……?」「絶対スゲー馬鹿だと思ってた」「雲雀はほら、西中でずっとトップ張ってたじゃん」「つか今年の普通科やばくね?」と囁き声が聞こえる。
席に戻った雲雀くんは、少し皺の寄った結果を私の目の前に突き出した。桜井くんの三角形と違い、三角形は正三角形に近く、サイズも大きい。それだけ見れば五組の中では「すげー」と言われるのに、まるで汚点のように校内順位に「2」が三つ並んでいた。でも数学は満点で「1」だ。
「多分私だと思う、ごめん」
「ごめんじゃねーだろ」
「つか多分自分だと思うってすごいな、俺も言ってみたい」
呼ばれて結果を取りに行けば、担任の先生から「素晴らしい成績です」と一言言われる。校内順位に並ぶのは「1」が四つ。どうやら数学は雲雀くんと同列一位らしい。席に戻ると、桜井くんと雲雀くんがまるで子犬のように額を寄せて私の成績表を覗き込む。
「すげー……俺の三角形何個入るんだろ」
「英語と数学満点かよ。すげーな」
「数学は雲雀くんと同じじゃん」
「数学はそりゃな」
桜井くんはそのまま私の机に両手と顎をついて居座り「いいなー、俺も頭良く生まれたかったなー」とゆらゆら揺れる。先生は残りの数人にテストの結果を返すと、そさくさと出て行った。
「つか三国、マジでお前普通科にいていいのか?」雲雀くんは一ヶ月前とそう変わらない声音で「特別科にいたほうが進学有利じゃね」
「……でも」
「三国は普通だもんな」
桜井くんのその相槌が冗談半分であることくらい分かっていたけど。
「……うん」
時間が経つと深みに嵌るぞ――あの時の蛍さんの様子を思い出す。
もう遅い。多分、蛍さんが私に忠告してくれたのは、ほんの少し手遅れだった。もう私は、二人の傍にいる心地のよさに、段々と溺れて始めている。



